第211話

四十九日が終わり山科様の喪が明けて暫し、故郷に一度戻ることを考えていた矢先に信長より先触れが来て、訪問を言って来た。

え?天下人が来るって・・・俺が出向くのが普通ちゃうの?

別に俺が行くのに何の問題も無いし、気にもしない。

なのに信長は訪問の意志が強い。

何故か解らなかったが、お金が教えてくれたよ。


「織田様はここの庵をいたく気に入られておりますので、恐らくはそちらでのお茶をご所望なのではと思います」


何でも京に来たら必ずあの庵を利用したがるそうだ。

山科様が「真里支天堂」と言う名を付けた庵は多くの者を魅了していると言う。

確かにあそこで茶を点てると美味いし、来客時にあそこでもてなすと皆喜ぶ。

あそこで最高のお茶が飲めるのも年内らしい。

何故か里子がその事を教えてくれた。

誰から聞いたか聞いたら、ジッと俺の後ろの方を見詰めるから後に誰かいるのかと思い振り向くけど誰も居ない。

里子の方に向き直ると「内緒」と里子は言う。

う~ん・・・解らんが解った。

年内でここでのサービスタイムは終了なのだろう。

さて、その事は周知しないと拙いな。

よし、あれは真里の世話をしてくれた山科様への摩利支天様のご褒美で、山科様が亡くなった以上はその効力は失せるとでもしておこう。

九州に帰るからね~信長が貸して欲しいと言って来れば貸し出して年内は有効活用でもしてもらうか。

信長もここのお茶に執着しているらしいから喜ぶだろう。


「何と!誠か!!」

「如何されます?」

「勿論、お借りしたし!!」


信長は速攻で借りたいと言う。

信長曰、以前に夢枕でその俺の言った様な事を摩利支天様らしき方から聞いたと言う。

へ~嘘から出た実、再びかな?

まぁ事実ならそれはそれである。

さて、信長の連れは数名。

1人は与四郎さん。

信長が「宗易、宗易」言うんだけど、田中与四郎さんは茶聖のせんの宗易そうえきだった様です・・・

信長が「上手い茶を飲むために連れてきた」と言うから誰かと思えば顔見知りの与四郎さんだったんだけど、「ここは誰が入れても美味しく出来ますから某が入れましょう」と言って俺が普通にお茶立てて振舞ったんだけど、キッと睨まれたよ。

う~ん、茶聖に向って不要と言う俺・・・

信長は大笑いしている。

まぁ俺もそれなりに茶を立てるの上手くなったけど茶聖には敵わないと思うが、ここのお茶は技術どうこうではなく兎に角美味い。

悪気は無かったけど与四郎さん改め茶聖の宗易さんの仕事を奪っちゃいました。

他にも同行者がいらっしゃいます。

凄い美人さんのお姫様?

信長がご紹介してくれましたよ、と言うか話を聞いて理解した。

妹さんとのことです。

「どうじゃ、市、美味かろう?」と言っているので、戦国の最強美人とも呼ばれるお市の方でした。

そして、お子様3名様。

お市さんのお子様と言うから歳の順に「茶々ちゃちゃ」「はつ」「ごう」かな?

うちの嫁さんも美人だけど、お市さんも負けない程の美人です。

その子供たちもうちの子に引けを取らない美少女ですね~

おいちゃんが渾身の和菓子振舞っちゃいましたよ。


「蔵人殿、どうじゃ?」

「「どうじゃ?」とは?」

「市はどうじゃ?」


う~ん、何が言いたいの?妹自慢?・・・信長がそんなことするなら俺も嫁自慢、子供自慢しちゃすよ~


「「どうじゃ?」と言われましても・・・お美しい方ですね」


うん、流石に俺の家族自慢爆発させる場面でないと思って堪えたよ。

え?私のアドバイスだろうって?・・・天の声さん!それは内緒でしょ!!


「そうか、そうか!」


う~ん、信長大満足です。

その後は世間話的にまた「ディアブロ」の件言われたよ。

「悪魔」の意と言うこと教えたら「儂は第六天魔王を名乗ったぞ」と言う。

いや、いや、それは自分で名乗ったらしいじゃんか、俺の場合は他人からだぞ!!

痛くも無い腹探られるような気分だし、中二病の信長君は喜ぶだろうけど、俺は不快だよ。

まぁそうは言っても気にしないのも俺流!!


★~~~~~~★


相変らずいけ好かない方だ。

右府様が態々茶を点てる為にと私を連れて来たと言うに「誰が入れても美味い」だと?

世間では私を茶の湯の第一人者と呼ぶようになったと言うに・・・

その私を差し置き茶を点てるこの男・・・昔から嫌いであった。

幼馴染の者たちと何やら仲良く色々と行う。

友を取られたような気がして、また、仲間はずれにされたような心持に何度なったことか。

幼馴染たちは楽しそうにその品物を私の所に持ち込み奨めて来る。

それがまた良き物だから余計に癪に障る。

それはさておき今は茶の湯の話だ。

今、彼が立てた茶は確かに美味い。

友たちが教えた茶の作法も堂に入っているがまだまだ甘い部分もあると言うに立てた茶は極上。

まだまだ私でもここまでの茶は立てることは叶わない。

彼の立てた茶はすっきりしているのに甘い。

そして、甘い中にも仄かにお茶の苦みがいい仕事をしている。

ここまで美味い茶は飲んだことがない。

今の私ではここまでの茶を点てるのは無理だ・・・

悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。

黒い薄暗き夕闇の如き、また、ドロドロとした泥の如く黒き思考に囚われれる。

落ち着く為にもう一口、その極上の茶を口に含む。

そして、徐に茶請けを・・・今までに食べた事ない程の美味い茶菓子に目を剥いてしまった。

一期一会とはかくあるべしと言うが如きもてなしの数々。

悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。

最近は詫び茶、千流、宗易好み、等と私の茶を呼ぶ者がいるし茶の湯で彼に負けることはないと確信にも似た心構えがあるが、食に関して彼に全く敵わないとまざまざと見せつけられた思いだ。

彼の発案した食べ物は丸目流、蔵人好み、等とも呼ばれ始めている。

日ノ本一の美食家などとも彼を呼ぶ者も居る。

確かに彼の作る食べ物を食べる度に驚き悔しい気持ちがふつふつと込み上げてくる・・・

茶の湯だけは負ける訳には行かぬ!!

この日改めてまだまだ自分の茶の湯の腕では到達できない高き頂を垣間見てそこを目指すと言う目標と私では計り知れぬ物を次々と見つけ・考案する彼を疎む心を再認識した。


〇~~~~~~〇


女性の新キャラ、然も、美人に美少女!!

まぁそろそろ出て来ると思っていた方多いでしょうか?

この時代のお市の方は兄である織田信長の庇護下にありました。

その美貌から織田家中のマドンナ的な存在だったとも言われます。

本能寺の変が起こり庇護者の信長が居なくなると清洲会議にて柴田勝家との婚姻が決まります。

通説では、織田信孝の仲介によるものと言われますが、柴田勝家の意向を汲んで秀吉が動いた説があります。

清州会議の沙汰は織田家筆頭家老である柴田勝家の不満に思う内容で、それを抑える意味で会議後に秀吉が画策したのではないかと言われる説もありなのです。

根拠として、柴田勝家のある書状にそのことが書いてあるそうですが・・・

秀吉かその周辺の者ならそれ位のことはやりそうだな~とか思いました。

特に黒田官兵衛とかはそんな策を献策しそうな気もしないではないです。

勿論、女好きの秀吉が美女の計的に柴田勝家の不満を逸らす為に用いたことも考えられます。

さて、作中でお市の方の娘たちを「茶々ちゃちゃ」「はつ」「ごう」としました。

三女の「ごう」と言うのは間違いではありません。

「太閤素生記」と言う太閤秀吉伝説の根幹をなす書籍と言われるこの書籍で「小督御料人」とお市の三女の崇源院そうげんいんを書き表しているそうです。

当て字として「江」や「郷」と書かれることもあり、「於江おごう」と

書かれることも多いようです。

元々のこの姫様の幼名が「督(若しくは「徳」)」と付けられたそうですので、「とく」と読むのが正しいと言う説もあります。

一般的には「ごう」と読まれています。

さて、次回は今回登場した中で重要になる人物が居ますので少し伏線じみた話となります。

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