第208話

安土城を堪能したよ。

建つ前の指示台の様な物見櫓ものみやぐらの上から見た時も壮観だったけど。

建築が殆ど終わった城の上から見る大パノラマはそれ以上、壮観も壮観、大壮観!!

琵琶湖も一望出来るし反対の方の景観も良い!実に良い!!

まさに天下人が見る景観なんだろうね~何だか凄い優越感だよ。

人間は高い所の景観好きで、前世の世でも成功者のステイタスは高層ビルの最上階に住む・・・う~む、時代は変わっても人間の本質は変わらないと言うことなのだろうな。

東京タワーやスカイツリーの方が高い位置での景観なんだろうけど、それとはまた違う愉悦感あるね。

俺もそうだけど、家族も連れの皆も大喜びでしたよ。

ただ、羽が興奮して天守閣から翼出して飛び立とうとした時は少し慌てたよ。

分別が大分付いて来たと思ったけど、まだ7歳、興奮して押さえが聞かなくなって翼出しそうになったのを千代が気が付き教えてくれたから事無きを得たよ。

可哀想ではあるが美羽からお説教されてたよ。

「羽!見つからないようにしないと駄目でしょ!!」って・・・うん、間違いではないけど・・・間違いではないけど、何か違うよね?

まぁいいか~

さて、安土城は内装も豪華だったよ。

襖一枚、欄間一つですら国宝級なんだろうね~昭和とかまで残っていたら本当にそうなってただろうと思う程には美術品として見ても凄いと思うよ。

何か教科書で見た様な名前の人の作品とかゴロゴロあって「この襖は~」とか「この〇〇が~」って言われる度に「あ!何かその人の名前どっかで聞いたかも」と思うような人物たちだったよ。

特にすげ~と思ってしまったの狩野永徳さんかな~まぁ知り合いでもあるけどね。

山科様の紹介で知人でもある人物だよ。

気の良いお爺ちゃんって感じの人物で好々爺している人物。

他にも本阿弥光悦さんとかも知り合い。

角倉さんに紹介されて援助している。

あとは~長谷川等伯さん。

永徳さんに紹介されてこちらも援助中。

うん!考えてみたらお知り合いたちの渾身の作品展示場状態でした。


「見事であろう?」

「はい、狩野永徳殿の作品に本阿弥殿、長谷川殿の作品などは特に素晴らしいですね」

「であろう?」


信長がどや顔でした。

数日間を費やして安土城見学ツアーは無事に終わりました。

蘭丸君の謝罪の場だけがヤバかったけどね~彼としては俺に謝るの不服だったんだろうけど、不承不承で謝罪して来たけど、俺の関係者の殺気立った殺伐とした中で粛々と謝罪がなされたよ。

でも、久さん(堀秀政)と仲良くなったよ。

場の雰囲気を察した久さんが和ますようにその場を仕切ってくれた。

話とかも実に面白い人物で、蘭丸君の謝罪を済ませると蘭丸君をほったらかしで彼と話して楽しい時間を過ごせたよ。

何度か信長のお供で剣術指導の際会っていたけど、彼とこんなに話すの初めてだし、今後は個人的に仲良くしたい人物ではある。

何とお猿さんにも以前仕えていたらしい。

人の縁と言うのは実に面白いね~

さて、安土の次は京へと向かう。

安土から京までは目と鼻の先と言える程近いので次の日には到着出来た。

しかし、何故か民衆の一部から拝まれる・・・

京に入る前に郊外の摩利支天様の社にご参拝しに行ったんだけど、そこに参拝に来ていた方々から何故かお辞儀されたり拝まれたり・・・何事?

「ありがたや、ありがたや」と言って生き仏様状態でした。

気になって神主に聞けば、状況は理解できた・・・


「蔵人様は京の大雨の被害の際になる物を送られましたことを皆が殊の外有難がっておりまして・・・」

「え?匿名で送ったやつ?」

「匿名ですか?」

「匿名・・・」

「山科様や近衛様、角倉様も皆が皆、「丸目四位蔵人殿の施しじゃ」と言われておりましたので・・・」

「ソウナンダ~」

「京の者は皆知って感謝しております」


状況を理解したけど、なんか凄く恥ずかしい。

偽善活動が持て囃されるのってこそばゆいと言うかなんというか・・・まぁ諦めよう。

さて、京の常宿の山科邸へと向かう。

門番は「お帰りなさいませ」と普通に顔パスでした。

門番からも物資の件で感謝されたよ。

山科様は体調不良で伏せっているそうだ。

皆でお見舞いへと向う。


「長、こんな寝床に寝たままですまぬな」

「そんなの気にしないでください」

「皆も達者で何よりじゃ」


山科様は大分窶れていた。

二カ月前くらいから体調不良で寝込みがちになったそうだ。

大分高齢だし本当に体に気を付けて欲しいものだ。


「兄上」

「如何した~千代~」


千代が困ったような顔で俺に言って来た。


「山科卿は寿命が付き掛けておる」

「え?・・・」

「持って数か月か1年以内か・・・」


千代に何とかできないかと聞いたが、寿命伸ばすのは難しいらしい。

「神酒 神饌」で何とかならないか聞いたけど、本来は寿命を延ばす様な効果がある物では無いが、寿命を延ばす為には毎日飲めば数年は伸びるだろうと言われた。

俺は即座に「神酒 神饌」を取り寄せようとしたが、千代から本人に先ずはどうしたいか聞くべきだと言われた。

仲の良い相手に余命宣告するとか・・・そう思うけど「時は待ってくれぬぞ」と千代は言う。


「山科様・・・」

「如何した?暗い顔をして」


人払いして俺と千代・春麗で山科様に伝えることとした。

春麗は義理の娘となっているので俺たちと共に山科様に相対す。


「儂はあとどれ位持つのじゃ?」

「え?」

「解るのであろう?」

「え~と・・・はい・・・」


山科様は自分の死期を悟っていた様で落ち着いたような笑顔で「知りたい」と言う。


「千代の見立てでは長くとも一年以内と・・・」

「ほう!短ければどれ程じゃ?」

「数か月・・・」


それを伝えるとニッコリと更に笑顔をされて述べられる。


「ほう!まだ数か月もあるのか!!」


自分の死期を知ってもそれがまだあると言うことを喜ばれる山科様。

「神酒 神饌」の事についても話したが、自分の分を天子様に贈って欲しいと言われた。

俺はその場で約束し早速手配をした。

山科様は形見分けとして死後はこの屋敷を春麗にと言われる。

そして、時間を惜しむ様に著書に自薦の和歌集等を編纂したりと残りの人生を文筆活動に費やし、満足そうな笑顔でこの世を去られた。

山科様には二人の息子・二人の娘が居る。

娘たちは嫁いでいて相続関係ないし、一人の息子も養子に出ておりこれも関係ないが、長男さんが屋敷の相続について一悶着あった。

山科言経ときつね卿と言う。

俺たちが滞在していた間に会ったこともない人物だったのであまり親子仲が良いとは言えない状態だったのかもしれない。

山科様の遺言通りに俺は「神酒 神饌」を天子様に贈った。

参内し従三位の官位を受け取る際にその事も伝えさせてもらった。

そして、従二位へとも言われたが、「それであれば山科様の贈位出来ませんか?」と打診すると、直ぐにそれを天子様がお認めになり、「言継には朝廷に粉骨砕身で尽くしてくれたこともあり正一位を追贈しようぞ」と言って頂いた。

これについては誰も文句を言う者は居なかった。

草葉の陰から喜んで来てくれるといいな~と思うが、あの好々爺と会えないと思うと寂しい。


〇~~~~~~〇


山科言継が逝きました。

さて、山科家12代当主、『言継卿記』の著者。

戦国時代で最も有名な公家の一人で、山科家は藤原北家四条家の分家であり、羽林家の家格でしたが戦国時代には他の公家と同様不振の時代の中、地方を飛び回り朝廷に多大な貢献をした人物でした。

彼の日記であった『言継卿記』は1527年から1576年と言う約50年の長期渡っての記されており、当時の公家や戦国大名たちや上泉信綱等々の彼の交友関係にある人物たちの動向が詳細に記されているだけでなく、彼自身が治療に携わった医療行為に関する詳細な記録もされており、現存する日本で最古のまとまった診療録であるとも言われている、当時の事を知る為の一級資料となっております。

死後300年以上経た1915年に生前の功績が認められ従一位の官位が贈位されました。

これ可成り異例のことで、破格の贈位と言われています。

山科言継は山科言綱の子であると言っても正室の黒木の方中御門宣胤の子ではなく、女嬬にょうじゅ(宮中に仕える身分の低い女官)の生んだ子が山科家で唯一の男子と言うことで後継ぎに立てられた経緯の持ち主で、本来は正二位・権中納言にまで登れる人物ではありませんでした。

しかし、才能豊かで朝廷への貢献度も高く、特に人脈作りが上手かった様で財政難の朝廷を大きく助けた功績は非常に大きかったようで異例の官位を賜るまでとなりました。

この作品でもいい味を出してくれていたキャラクターですが、残念なことに寿命にて退場する運びとなりました。

朝廷も新しい登場人物が出て関わって来ます。

しかし、先ずは九州に一度戻る予定ですが、少し京に滞在します。

次回はあの人物が!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る