第194話

お猿さん(木下藤吉郎)は聞いていた通り北陸の柴田さん(柴田勝家)の下に配属されることとなった。

俺達もお猿さんの移動に合わせて北陸へと向かうこととしている。


「長さん・・・」

「ん?何だ?」

「いのし・・・柴田殿の剣術指導をするって事だけど・・・本当にするのけ?」

「ああ、するぞ、前田殿(前田利家)の紹介でもあるしな」

「チッ!又左殿め・・・要らぬ事を・・・」

「本当に仲悪いな~」

「だって~あの猪、オラの事を見下して来るだがね」


いや、それはお前が成り上がり者だからで、柴田殿だけがお猿さんを見下してる訳ではないけど・・・まぁ柴田殿ほどストレートに見下す者は早々居ないから、お猿さんもそれが嫌なのだろうね~

道中はお猿さんの愚痴を結構聞いてやったと思うぞ。

半兵衛さん(竹中重治)や小六さん(蜂須賀正勝)もしきりに「藤吉郎様が申し訳ない」と言う。

まぁいいけどね~愚痴位は聞いてやるよ、友達だしな~

さて、軍勢に紛れて俺達も移動した。


「丸目殿!態々北陸まで御足労頂き忝い!!」


うは~柴田さん含め又左さんに知らないお歴々がお出迎えです。

横のお猿さんを無視して俺に言葉を掛けて来る柴田さん。


「あ~お世話になります・・・」


横を見ると不機嫌全開と言った顔のお猿さん。


「柴田殿!先に拙者に何かいう事があるのでは?」

「お~居られたのか、着任、ご苦労。では、丸目殿御一行はこちらでご案内いたす」

「丸目殿は我らと共に行動する!!」


本当に犬猿だね~もう巻き込まれまいと言う感じで半兵衛さんや小六さんも又左さんや他の出迎えの者たちとご挨拶を交わしている。

俺も半兵衛さんたちの方に行きご挨拶。


「又左さんお世話になります」

「蔵人さん。よく来なされた!!」


そして、他の方々もご紹介頂いた。


「佐々内蔵助くらのすけ(佐々成正)と申す」

不破ふわ太郎左衛門尉たろうざえもんのすけ(不破光治)と申す」

「柴田伊介いすけ(柴田勝豊)と申す」

「佐久間玄蕃げんば(佐久間盛政)と申す」

「柴田三左衛門さんざえもん(柴田勝正)と申す」


次々とお出迎えの武将たちが挨拶をして来た。


「あの二人は放っておきましょう」

「え?又左さんそれでいいのですか?」

「ええ、何時もの事です」


うん、流石にもう慣れた感があるようだ。

皆が皆気にした様子も無い様なので、俺もそれに従い常宿とする予定の屋敷へと移動するか。


★~~~~~~★


「あれが噂の丸目四位蔵人か」


高台からその様子を眺める者が居る。

その出で立ちは一言で表すと派手、世に言う傾奇者と言うやつである。

彼の名は前田慶次郎(前田利益)と言う。

一節には織田家の重臣、滝川一益の一族で、一益の子とも従弟とも言われる。

縁あり、前田利家の甥となる。

前田利家の家臣として従軍しているが、上杉家に対する軍として編成されたこの北陸方面軍は上杉家と対峙し、現在は膠着状態となっていることに退屈する彼は久方ぶりに楽しそうにその光景を眺めていた。


「ほ~なんと美しきかな!外つ国の女子を連れておるとは!丸目殿は傾いて御座るな~」


丸目蔵人以外にも妻の異国の女性を見てそんな感想を述べて独り言ちる。

眺めていると、一瞬、丸目蔵人やそのお供の者たちがこちらを見た様な気がするが・・・

一瞬の事であったので、判別はつかぬが、背中が泡立つ。

実に愉快と言う様に口の端を吊り上げる。

そして、連れの女童めわらの一人がこちらに手を振る。

まさかこちらに気が付いた?・・・まさかな・・・


★~~~~~~★


「里子~如何した~」

「父様!派手な格好の人がこちらを楽しそうに見てた!!」

「お~そうか、そうか!よう気が付いたな!!」

「父様たちも気が付いていたでしょ?」


我が子ながらその才能には驚く。

確かに、高台よりこちらを見詰める者がいる。

特に悪意は無さそうなので良いが、あれは巷で言う傾奇者であろう。

奥さんたち、千代は気が付いたようであるが、まさか里子も気が付くとはね~センスがパないな~

息子・娘たちの才能は本当に凄いが、中でも里子の才能は突出していると思う。

弥七も最初の内は張り合おうとしていたが、無理と判断したようである。

師匠(上泉信綱)も里子が順調に育てば師匠を超えると太鼓判を押してくれたほどの才能だ。

師匠は「蔵人が新陰流を継がぬなら里子に継がせようか?」と冗談で言っていた。

うん、冗談だよね?・・・いや、本気かも・・・

チラリともう一度高台を見れば楽しそうに笑っているようだ。

里子も俺の目線を追って高台の方を再度見て手を振る。

それにしても何者だろうか?

傾奇者で、ここに居そうな人物・・・うん!解らん!!

その内会うこともあるだろうね~

さて、歴史的な改変と言うのはどうやら中々に難しいと言うことが解った。

北畠さん(北畠具教)はやはり暗殺された。

俺が関わることで歴史改変が起こるのだろうかと思い試した一つだったが、歴史的強制力の様に北畠さん(北畠具教)はやはり暗殺された。

助けられればと思ったが、言葉で言うだけでは無理のようだ。

もしかすると、俺が直接関わると何かが起こるのかもしれないが・・・

気持ちが暗くなるな、今はここ北陸での剣術指導に精を出そう。


〇~~~~~~〇


前田慶次登場!!

是非とも出したかった人物です!!

何故ならば、豊臣秀吉から「傾奇御免状」と言うものを貰ったほどの日本一の傾奇者!!

秀吉と関わるのなら是非とも出したい人物でした。

勿論、隆慶一郎先生の「一夢庵風流記」、それを元に書かれた漫画「花の慶次 -雲のかなたに-」(原作:隆慶一郎、作画:原哲夫)を昔に読んで好きだったのでと言う理由もあります。

この漫画では六尺五寸(197cm)以上ある大柄の武将として描かれています。

しかし、実際には身長などの記述は資料には無く、残っている鎧も通常サイズの物のようです。

漫画の影響って大きいですね~今や大柄の武将ってイメージです。

さて、前田慶次はこれから登場して行きますのでここまでとし、北陸やって来ました!!

当初予定では上泉信綱に弟子入りする時は此方のルートに来る予定でしたが、今考えると先に東海道を行くルートは中々良かったと思っております。

さてさて、作中ではこの北陸方面軍の役割を対上杉として書いておりますが、実際は一向一揆の平定が目的です。

90年間一揆持ちだった加賀国の平定を任され柴田勝家が軍団長として派遣されました。

それは上手く平定されます。

一応は主人公が本願寺勢力に関わったことで一向一揆が弱体化して平定が早まり年代がズレたとでも思って頂ければ幸いです。

それに伴い、越後国の上杉謙信が加賀国にまで進出してくるのも早まります。

これからその戦いにも巻き込まれていくこととなると思います。

一応はその一連の流れは今後のストーリーの伏線として考えております。

その上杉との戦いの軍議の席で秀吉と勝家は衝突し、仲違いし、秀吉は信長の許可を得ることなく戦線離脱したと言われております。

足並みが乱れた勝家軍は七尾城(石川県七尾市古城町)の救援に向かうが間に合わずに城が陥落し、勝家は上杉軍に対して遅滞戦略を取る為に周辺の拠点に放火しつつ退却したと言われます。

しかし、退却中に手取川で上杉軍の襲撃を受けて大敗したようです。

上杉側資料では大勝利したことが書かれておりますが、織田側の資料では特に記載がないようですので実際の事は不明ですが・・・

この戦いに主人公はどう関わって来るか!!

謙信との邂逅の最後のチャンスでもあるので、私も書くの楽しみにしております。

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