第192話

お猿さん(木下藤吉郎)の弟がやって来た。

お猿さんに似ても似つかない中々の容姿で柔和な表情の人物だ。

お猿さんが「お猿さんとは何じゃ!小一郎!!」と騒ぐが、「おみゃ~さまは黙っとき!!」と言われ女性にアイアンクローされてお猿さんが「い、いた、いた、痛いがね~」と言っている。

事は1ヶ月程前の話だ。

お猿さんが女好きと言うのはよく知られている話なのだが、安土城の築城に合わせ色街も出来た。

そこの女にお猿さんが手を出した。

それだけに飽き足らず、飯女に町娘に農家の娘さんと各所で粗相した。

貞操観念の緩い時代ではあるが、一応は織田家のそれなりの立場なのに見境なし・・・

藤林の者から知らせを受けて一応は半兵衛さんたちに報告したところ奥さんと弟がやって来た。

アイアンクローの後は地面に正座させられてお説教が始まった。


「おみゃ~さん!約束したがね!!」

「ねね・・・ごめんってー」

「はぁ~?二度と女遊びをせんと言うたがね」

「それは・・・」


うん、夫婦喧嘩は何とかも食わんと言うし俺も食わんので放っておこう。


「お初にお目にかかる。お猿さんの弟、木下小一郎(木下長秀)と申す」

「あ~お猿さんの弟さんですな、某は丸目蔵人と申す」


木下小一郎さん(木下長秀)には是非とも会ってみたかったので実は結構ワクワクしている。


「兄がご迷惑をお掛けしておりませぬか?」

「いや、良くして頂いておりますよ」

「左様ですか・・・お知らせ頂き助かりました」

「それは良かった」


お互いニッコリと笑い言葉を交わす。


「小一郎助け・・・」


少し離れたところで奥さんに頭を叩かれているお猿さん。

面白そうに眺める一同だが、教育に悪いと思ったのか「見てはいけませんよ」とうちの奥さんたち(美羽・春麗)が子供たちに注意している。

莉里は利に「悪い見本です。見ておきなさい」と言っている。

利も「はい、解りました、母上」と言っている。

うん、それぞれで悪い見本としているようだ。

俺も注意しよう。

その後、長さん・秀さん(木下長秀)という仲となりました!!

お猿さんが「俺が秀さんじゃないの!?」と言っているが、お前はお猿さんだ。

ねねさんから「おみゃ~さんはお猿で十分じゃ」と言われております。

木下家と我が丸目家は家族ぐるみの付き合いをすることとなった。


★~~~~~~★


「姉上(木下寧、後の北政所きたのまんどころ)」

「何?小一郎、何かあった?」

「兄上が」

「藤吉郎さんが如何した?病気でもされたか!!」

「いえ・・・え~と・・・」

「女遊びか?」


言う前に先に言われた・・・女の勘か?・・・いや、兄上の事をよく知る姉上のことだ言わずとも私の顔色で察したのかもしれない・・・私には珍しく顔を歪めてしまったし・・・

半兵衛殿より急ぎの文が届いた。

兄上が女遊びで羽目を外して手当たり次第との知らせだ。

兄上は女好きで気に入った女子おなごに手当たり次第に粉を掛ける。

猿顔なのだが口が上手く相手を何時の間にかたらし込む。

流石に姉上と夫婦になった一時期は鳴りを潜めたが、直ぐに悪癖が出た。

丁度、城持ちとなったばかりの頃なので数年前の出来事だ。

城持ちとなった兄上は城下で手当たり次第に女子に手を付けた。

叱り付けても懲りぬ兄上に業を煮やした姉上は何と上様(織田信長)に嘆願書を出した。

上様はそれに返しの文をくださった。

返書の最後には「禿鼠はげねずみ(木下藤吉郎)にこの文を見せるとよい」と書かれておった。

見せられた禿鼠兄上は顔を青くして姉上に平謝りした。

実に滑稽で笑いを堪えるのに苦労したが・・・女癖は治らなかったようだ。

姉上を伴い兄上の下に向かう。

兄上を見つけると姉上は駆けだし、兄上の額をてのひらで掴む。

兄上が本気で痛がっているので、痛いのであろうが自業自得だ。


「い、いた、いた、痛いがね~」


兄上と一緒に居た者たちがその様子を驚いて見ている。

兄上の横に居るのは伝え聞いた丸目四位蔵人様であろう。

兄上と懇意にして頂いていると聞く。


「お初にお目にかかる。お猿さんの弟、木下小一郎(木下長秀)と申す」

「あ~お猿さんの弟さんですな、某は丸目蔵人と申す」


報告通り兄上を「お猿さん」と呼ぶ。

兄上からは大恩人であると事は聞いている。


「兄がご迷惑をお掛けしておりませぬか?」

「いや、良くして頂いておりますよ」


嘘ではないようで、この方のご家族も一緒で遠目からも兄上が仲良くしているようであった。


「左様ですか・・・お知らせ頂き助かりました」

「それは良かった」


お互い微笑む。

兄上たち夫婦の話し合いおしおきが終わるまでまだまだ時間が掛かりそうなので、落ち着いた場所で話すこととした。

離れていく私たちを見て「小一郎助け・・・」とか言っているのでにっこりと笑い顔を横に振り「無理」と伝えておいた。

実に面白き方で丸目様とは仲良くなり、私の事は秀さんと呼んで頂けることとなった。

私も丸目様を長さんと呼ぶこととなった。

同じ長の字で呼び合うと紛らわしいので私から「「秀」と呼んでくだされ」とお願いして呼んで頂くこととした。

次に名を変える時には「長秀」を「秀長」に変えれば間違いなく「秀さん」になるな・・・少しだけ頭の隅に置いておこう。

楽しく長さんと話し込んでいると、姉上から解放された兄上お猿さんがやって来たようだ。

私たちの様子を見た兄上が「俺が秀さんじゃないの!?」とか言っておるが・・・後ろの姉上が「おみゃ~さんはお猿で十分じゃ」と言い、兄上は「うへ~」とか言っている。


木下長秀は後に従二位となり、大和大納言とも呼ばれ後々の歴史家に「もう一人の秀吉」「秀吉の宰相」等々と呼ばれ豊臣秀吉の弟にして秀吉の名補佐役として語られる。

この世界線では亡くなる間際に丸目蔵人に1つのお願いをしたと言うが何を語ったかは2人だけの秘密であり、臨終の際にその頼み事を丸目蔵人が受け入れた事のみが家臣の日記にて資料として残るのみである。


〇~~~~~~〇


木下長秀、後の羽柴秀長登場です!!

秀吉のストッパーとしても活躍し、豊臣政権下で最も亡くなってしまったことで残念に思われた人物です。

あと10年生きて居れば歴史が変わったと言われる人物です。

秀長は豊臣政権№2で調整能力抜群だったことでも有名です。

秀吉が我儘言っても止めることが出来た人物で、彼が亡くなった後に秀吉の行動が酷いと言う評価をする方が多い人物です。

秀長が大友宗麟をもてなした際に「内々の事秘密宗易千利休公儀の事政治宰相秀長に相談を」と告げたと言われています。

秀吉の3歳下の弟で、秀吉が足軽大将となったことを機に秀吉軍団に引き入れた等と言われます。

美濃の斎藤龍興との戦い時分に、合戦に参加する秀吉に代わって城の留守居役を務めることが多かったと言われます。

元々は農民で村年寄りになることが唯一の夢と語る少年でした。

秀吉が出世したことで子飼いの者が欲しくて弟の小竹(後の木下長秀)を引き入れたそうです。

「長秀」と名乗ったのは織田信長の「長」と木下秀吉の「秀」の2文字を名前にしたと言われています。

本当の所は不明と言われますが、可能性は高そうですね~

農民上がりで元々が武士を目指していなかったので武芸はからっきし駄目だったようです。

謙虚、温厚で誠実な性格だったようで調整能力も高い事から次第に周りと打ち解けて行ったのではないかと言われています。

秀吉が黒田官兵衛に中国征伐の際に送った書状に「その方の儀は、我ら弟の小一郎め同然に心安く存じおり候(あなたの事は、弟の小一郎と同じ位信用しています)」と書かれていたそうですから、長秀が秀吉の絶大な信頼を得ていたのは間違いないです。

よく、信長・秀吉・家康の気の長短を表す言葉として、ホトトギスの処し方を表した標語があります。

秀吉の場合は「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」と言われ、信長は「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」とよく語られますが、実はこれは逆!!

秀吉は無茶苦茶に短気です。

では何故に秀吉が「鳴かぬなら鳴かせてみようホトトギス」と言われるか。

これは長秀(秀長)が関わっています。

秀長が秀吉の短気を諫めていた様で、秀長存命中は意外と短気が隠れたような結果となります。

しかし、秀長の死後は短気全開です。

千利休を切腹させ、甥の秀次とその妻子を惨殺し、無用の戦を起こしたと言われます。

さて、秀長は蓄財家で、亡くなった際に大和郡山城には莫大な量の金銀が蓄えられていたそうです。

大和郡山城に残されたのは金子56,000余枚、銀子は2間四方の部屋に満杯になる程の金銀が備蓄されていたと言いますから本当に莫大です。

一部では守銭奴と悪口を叩く者も居たようです。

実は秀吉は金に糸目をつけない手法を結構取りましたが、汚れ仕事金策は秀長の役割だったからこそ色々出来たことでもありました。

本当に重要な人物だったと言うのが解ります。

1592年、享年52歳、病気で亡くなりました。

「かけて今日 行幸みゆきをまつの 藤浪の ゆかり嬉しき 花の色かな」と言う辞世の句を残されております。

この歌は、1588年、後陽成天皇が豊臣秀吉の邸宅である聚楽第へ行幸した際に歌われたものです。

天皇の行幸を喜び嬉しい事を表現して詠ったものですが、私的には武将の辞世の句は本当に死に近い時に詠まれたものが人生観が垣間見えて好きなので少し残念ですが、長秀(秀長)の生き様は実に良いな~と思います!!

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