第189話

安土山と言う近江にある小山を一つ城として作り変えると言う。

平城ひらじろ(平地に作る城)ではなく山城(山に作る城)と言うのが時代を感じるが、この地にシンボルの城を作ると言うことで小山を全部城に作り替える予定とのことだ。


「ほ~眺めが良いな~」

「既に木が切り出されてるから見晴らしは良いだぎゃー」


お猿さん直々に案内してくれているけど、現在はまだ城の痕跡など全くない。

木を切り出し、土地を馴らしている段階だけど、作業に関わる人数が物凄く、臨時で町が出来る規模である。

城が完成した後は、その町はそのまま城下町の一部となる予定とのことだ。

今居るのは、頂上に組まれた櫓の上。

小山と言え山で、頂上は木を切り倒されて見晴らしもよく、そこに櫓が組まれている為、琵琶湖も見える360度の大パノラマなのだ。

登山して眼下に町を見下ろす形になる事は前世でも経験したが、戦国時代のこの光景は新鮮である。

空気も前世の山以上に清々しく感じるのは排気ガスなどの大気汚染が無いから?それともそう思っているから空気が美味しく感じるのだろうか?

俺が肩車している里子も「父様!高い!!」と大喜びだ。

念の為、俺の一団には仙術は使わないように厳命している。

流石に多くの者に知られるのは拙いと思ってそうしている。

1人位遣らかす奴が・・・流石に居ないぞ。

さて、ワイワイと騒いで居ると周りがざわつき始める。


「猿、作業の方はどうじゃ?」

「はっ!少しばかり遅れて御座いますが、計画からは大きく外れて御座いますん」

「であるか」


あ~お猿さんだけではなく俺達以外が頭を下げていると言うことは、それなりの身分の者であろうし、お猿さんを面と向かって「猿」と呼ぶ人物には1人しか心当たりはない。

里子を肩から降ろし、莉里に預ける。

その声を掛けた人物の方を見ると、眼光鋭い前世で見た信長の肖像画と見比べて考えると・・・似てないね。

鼻下に髭を蓄え面長な顔で少し垂れ目なのに眼光が鋭いので睨まれているようにも見える。

やはり天下人と言うのは覇気があるね~三好長慶も凄かったけど、織田信長も中々どうしてただ者では無い様だ。

しかし、何処かで見かけたような・・・


「お初にお目にかかる。拙者、織田右近衛大将上総介三郎信長と申す」

「これはご丁寧に、某、丸目四位蔵人長恵と申す。初めてでは無く一度お会いしておりますな」

「わははははは~丸目四位蔵人殿は気が付いて居られたか!」

「初めて尾張に赴いた際に飲み屋にてお見かけしただけではございますよ」


そう、お猿さんと初めて会った飲み屋に居た武士だ。

眼光鋭く威圧感が駄々洩れだったから流石に気が付くよ・・・

話してみるとフレンドリーではある。

しかし、不意に勧誘された。


「四位蔵人殿」

「何で御座います?右近衛大将殿」

「儂に仕えぬか?」


信長が丸目蔵人を家臣として召し抱えようとした事例とか知らんが、この世界線ではそれが起こったようだ。

さて、仕えるか仕えないか・・・


「お誘い有難し」

「では!!」

「しかし、某には武将としての才が無いようで御座いまする」

「そのようなことは!」

「いえ、お恥ずかしい事に国元で逼塞ひっそくを言い渡される程の失態を演じましてな~」

「しかし、それは偶々の結果では御座らぬか?」

「武将としては才が御座いませぬ事にて武士として仕える事は出来ませぬ」

「ふむ・・・」

「木下殿と剣術指南をお約束しておりましたので今回は近江まで罷り越した次第ですが、お望みであれば我が研鑽中の物でお恥ずかしいが、お教え申し上げますが如何に?」

「是非!ご指南頂きたい!!」

「では、近江逗留中にお教え申し上げましょう」

「有難し!!しかし、武将として仕官も諦めませぬぞ!!」


あ~三国志の曹操とかもそうだけど、天下人になる様な人物って人材コレクターのケがあるよね~

さて、どうしようか・・・


「しからば、右近衛大将殿が九州も手中にされましたら再度申し入れを検討させて頂きまする」

「おお!!何れ又、仕官を打診致しますぞ!!」


何とか乗り切った!!

無茶振り上司仕えるとか無いわ~~~

信長は上機嫌で視察を終わらせて去って行った。


★~~~~~~★


時は少し戻る。


「半兵衛!!」

「藤吉郎様、そんなに慌ててどうされました?又、上様(織田信長)から無理難題を言われましたか?」

「流石は半兵衛じゃ!実はの~・・・」


藤吉郎様に下された命は「丸目四位蔵人様との面会」であった。

上様と丸目四位蔵人様を会わせるのは何となく余り宜しくないように感じる。

私見ではあるが、上様は仕官を望まれると思われる。

そして、丸目四位蔵人様は何者にも縛られない自由を望まれるのではないかと思われる。

両者が噛み合わなければ、泥を被るは手配した者となるやもしれぬ。

いや、上様が機嫌を損ねるは必定・・・


「藤吉郎様」

「何じゃ?」


藤吉郎様に私の考えを述べると、絶望された。


「オラはどうすっぺー」


完全に混乱されているようで、言動もおかしい。

一度落ち着けてから話し出す。


「落ち着かれましたか?」

「すまぬ、半兵衛、落ち着いたぎゃー」


先程より大分落ち着かれたようだ。


「ここは偶然を装うしか御座いませぬ」

「偶然?」

「はい、私に考えが御座いますのでこの件は私にお任せ頂けませぬか?」

「ま、任せた!!」


私は急ぎ上様に視察の件を打診した。

上様には「1ヶ月程先のなりますと丸目四位蔵人様がもしかすると来られているかもしれませぬ」と付け加えて書状を認めた。

案の定、上様は1ヶ月と少し先に視察を言って来られ、「念の為、丸目四位蔵人殿の来訪されたら知らせる様に」と言う返書を追記されておった。


「藤吉郎様」

「ど、ど、ど、どうなった?」

「はい、上手く行きました」

「ホッ・・・でかした!半兵衛!!」


事の詳細を説明し、藤吉郎様にもそ知らぬ振りしておくようにと言い含めておいた。

丸目四位蔵人様は上手く上様の仕官の誘いを躱された。

流石は今義経!流石は丸目四位蔵人様である。


〇~~~~~~〇


信長と初絡み!!

さて、「英雄色を好む」と言う言葉がありますが、「英雄人を忌む」と言う諺もあります。

自分より優れている者を英雄は敬遠すると言う意味合いなのですが、中国の三国時代に呉の孫権の兄・孫策が袁術を訪問した際に、劉備が訪ねて来たのを知り、慌てて辞去しようとして口にした言葉であると言われています。

また、英雄と言うのは大を成す事が多く、大を成す為には人材が不可欠な為、多くの優秀な人材を集める癖があるようです。

特に有名なのは作中で書いた曹操でしょうか?

曹操=人材マニアとまで言われる程に多くの人材を集めた人物でした。

そして、織田信長は今曹操と呼ばれてもおかしくない程に色々と似ています。

曹操は「人を使うからにはその人を疑ってはならない、人を疑うならその人を用いてはならない」と言う名言を残しております。

任せる形になりますが、勿論、そうすると自ずと実力主義となります。

織田信長も実力主義的に家臣統制を行った為、多くの優秀な家臣を輩出しました。

しかし、曹操以上に信長の価値観で凄いな~と思ったのが、「仕事は探してやるものだ。自分が創り出すものだ。与えられた仕事だけをやるのは雑兵だ。」「およそ勝負は時の運によるもので、計画して勝てるものではない。」「組織に貢献してくれるのは優秀な者よりも、能力は並の上だが忠実な者だ。」等の名言を残していますが、そんな名言の中でも、「生まれながらに才能のある者は、それを頼んで鍛錬を怠る、自惚れる。しかし、生まれつき才能がない者は、何とか技術を身につけようと日々努力する。心構えがまるで違う。これが大事だ。」と言う言葉を実力主義と言われる信長が残しており、実力主義の中にも己の価値観を取り入れた独自の人材活用を行ったようです。

信長はを殊の外嫌ったようです。

信長の家臣追放話で最も有名なのは「退き佐久間」こと佐久間信盛の件ではないでしょうか。

佐久間信盛は織田家の筆頭家老でした。

「退き佐久間」と異名が付くほど殿戦しんがりせんが得意でした。

そして、織田家を代表する武将の一人でしたが、本願寺との講和後に、19箇条の折檻状によって高野山へと追放されました。

この追放は信盛の過度なを問題視されたからだと言われています。

本願寺との戦いや三方ヶ原の戦い、長篠の戦などでありとみなされたと言われています。

さて、逆に木下藤吉郎こと後の羽柴秀吉は織田家に対しての「献身」を認められて出世したと言われます。

家臣の中でも小間使いと言う最下位からのスタートで最終的に重臣の一人となるのですから色々と無茶もしたことだと思われますが、その無茶=献身が信長に認められた訳です。

秀吉・家康の人材活用術も面白いのでそのうち語りたいですね~

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