第188話

「上様(織田信長)お呼びと伺い罷り越しました」

「お~猿、忙しいのに悪いな」

「いえ、忙しくとも上様のお呼びとあれば最優先に御座います」

「ふははははは~言うようになったな」


上様はご機嫌であるようだ。

それにしても何用であろうか?


「お~すまん、すまん、早速だが用件を伝える」

「はっ!お聞きいたします」

「ふははははは~そう大したことではない、そんなに緊張するでない」


上様の事だ、無茶振りして来ると予想して身構えていたのを勘付かれたようじゃ。


「それで、その、ご用件とは?」

「ふむ、前々から丸目四位蔵人殿とお会いしたいと思っておった」

「はあ・・・」

「猿よ、手配いたせ」

「長、丸目殿との会談をですか?」

「左様じゃ」


何とは無しに嫌な予感がする。

上様の事じゃ無茶振りするのではないかと思ってしまう。


「では申し付けた!!」


平伏してその場を立ち去ったが・・・

半兵衛に相談じゃ。


★~~~~~~~★


何時もの様に博多・堺と経由して今回の目的地の近江を目指す。

穴太衆に岡部又右衛門さん・中井孫太夫まごだゆうさんたちを引き連れての移動である。

又さん(岡部又右衛門)・孫さん(中井孫太夫まごだゆう)は俺の住む家も建築してくれた人々である。


「蔵人さん、態々着いて来てもらって悪いね~」

「あ~又さん気にしないでよ、俺も城建築気になってたから」


そう、今回の城は安土城だから気になっている。

前世の俺が生きた時代では見ることが出来なかった幻の城の1つではあるが、その中でも最も有名な城ではないだろうか?

そんな城の建築途中が見れるとか凄く楽しみである。

現在は信長包囲網も大分崩壊して来たので近江周辺は治安が可成りよくなってきている。

信長がシンボルの城を建てようと考えている地だから重点的に治安回復に努めた結果なのかもしれないが、諜報部の連絡では治安が良いと言うことだ。


「丸目四位蔵人様御一行で間違い御座らぬか?」


一人の武士が声を掛けて来た。


「如何にも、して何用かな?」

「某は蜂須賀はちすか彦右衛門ひこえもんと申す。木下藤吉郎の命にてお迎えに参上仕った」


お猿さんはどうやらお迎えの者を派遣してくれたようだ。

蜂須賀はちすか彦右衛門ひこえもんと名乗るこの人は、蜂須賀と言うから多分、あの蜂須賀さんなのであろう。

前世の歴史家の中には野盗の頭領等と言う者も居るが、顔は少し厳ついが身なりもしっかりしていてとても元野盗とは思えない。

実際は美濃の国人・地侍であろう。

興味深そうにみていると


「あの・・・某に何か?」

「あ~いや、木下殿の右腕はどの様な人物かと、つい、観察しておりました」

「いや、某など・・・それに、藤吉郎様には「お猿さん」呼びをお認めになっている間柄とお聞きしておりますので、某に気を遣わずに何時も通りに」

「さ、左様ですか・・・」


流石は将来の天下人、配下の人材はこの頃から中々に質が高いようだ。

まじまじと見ているとにっこりと笑われた。

うん、お猿さんは本当に人材に恵まれているね~

お猿さんの弟の長秀ながひでにも会ってみたいんだよね~今回会えるかな?

さて、案内を受けながらお猿さんの許に行くこととなった。


★~~~~~~★


「長さんを迎えに行くだがや~」


藤吉郎様が鼻息荒く丸目四位蔵人様を迎えに行くと息巻いている。

縄張奉行を任された者が現場を離れるのは良くないと半兵衛に言われているが、今は聞く耳は無い様だ。

仕方ないと儂が意見する。


「某が迎えに行きますので、藤吉郎様は縄張をお進めなさいませ」

「小六どん!オラは迎いに行きたいのよ~」


完全に昔の言葉に戻っている。


「藤吉、職務を放棄する事が許されると思うなよ」

「でも、でもさ~小六どん」

「儂が迎えに言ってやるから大人しく仕事してろ!!」

「う~わかった・・・」


本当にしょうがない主殿だ。


「小六殿、助かった」

「いや、半兵衛も御守が大変だな」

「ははははは~何時もはここまで聞き分けないことはないのですが・・・」

「まぁああなったら配下の者で手綱を握れるのは儂か弟の小一郎(木下長秀)位だしの」

「まぁ丸目様とお会いするのが楽しみなのでしょう」

「それもあるが、今回、上様の命があるから気張っているのじゃないか?」

「まぁそれもありますか・・・」


藤吉郎様を諫め、儂が丸目四位蔵人様のお迎えの役を買って出たが、少し楽しみである。

藤吉郎様から聞く話も興味深いが、かの方の配下のお金にも興味深かった。

情報を金銭か同等の情報でやり取りしたいと言うのは実に面白い考えだと思ったものじゃ。

直ぐに半兵衛に知らせたのは今でも英断だと思っておる。

さて、どの様な人物か楽しみである。

配下の者を放ち丸目様一行を探すと丁度こちらに向かっているとの知らせを受けた。

早速、お迎えに上がると、話を聞いていた通り、多くの者を引き連れてこちらに向かって来られた。

今回は穴太衆の石垣職人たちや、腕の確かな大工を手配して頂いたとのことだ。

それにしても、今回は妻子も同行とのことであるが、子供も多く引き連れておる様じゃ。


「丸目四位蔵人様御一行で間違い御座らぬか?」

「如何にも、して何用かな?」

「某は蜂須賀はちすか彦右衛門ひこえもんと申す。木下藤吉郎の命にてお迎えに参上仕った」


丸目四位蔵人様はこちらをジッと見詰めておられる。

値踏みするような視線を感じるが、何であろうか?


「あの・・・某に何か?」

「あ~いや、木下殿の右腕はどの様な人物かと、つい、観察しておりました」


耐えきれずに丸目様に聞いてみると、「観察」と普通に言われる。

そして、「木下殿の」と言われた。

最近は半兵衛が右腕と見る者が多いが、そのように言われるは気分の良いものじゃ。


「いや、某など・・・それに、藤吉郎様には「お猿さん」呼びをお認めになっている間柄とお聞きしておりますので、某に気を遣わずに何時も通りに」

「さ、左様ですか・・・」


その後は道すがら色々話した。

好感の持てる人物であることは藤吉郎様、半兵衛から聞いていた通りである。

そして、随行しておる子供たちがまた面白い。

じゃれ合う様にして遊ぶのであるが、目を見張る様な動きを何度も見せる。

「里子~はしゃぐと疲れるぞ~」と丸目様は言われた。

あれが御長女なのであろう。

流石はその名を轟かせておる剣豪の指導を幼き頃より受けている者よと感心してしもうた。

話は尽きぬが、残念なことに目的地に着いてしまった。

見れば藤吉郎様が外でお出迎えじゃ。


「長さん!よう来てくれた!!」

「おう!お猿さん、久しぶり~ご依頼の職人さんも連れて来たぞ」

「わははははは~それは助かる!!」


本当に我が主・木下藤吉郎様と丸目四位蔵人様は気心の知れた友のようだ。

さて、儂も楽しみになって来た。

この機会に丸目様とまた色々話せれば楽しかろう。


〇~~~~~~〇


蜂須賀小六登場です!!

木下藤吉郎、後の豊臣秀吉の配下は天下人になるだけあって豪華です。

まだこの時期は家来ではないですが、黒田官兵衛。

両兵衛のもう一角の竹中半兵衛。

豊臣政権下の宰相の弟、木下長秀。

ブレインと言われる人物たちは本当に優秀ですが、その中でも蜂須賀小六の貢献度は大きいと思っております。

まさに秀吉の右腕!!

戦国猿廻し 信長・秀吉と蜂須賀小六(作画:園田光慶、原作:久保田、やまさき十三)と言う漫画があります。

この漫画を読んでこの蜂須賀小六と言う人物は実に面白いと思ったのがこの人物を知る私の契機だったと思います。

この漫画の主人公は蜂須賀小六で秀吉を上手く使い天下人に導くと言う内容です。

さて、蜂須賀正勝とも言うこの人物は川並衆という木曽川の水運業を行うことで利益を得ていた集団の1つと言われていますが、それは彼の一面で、実際はそこら一帯の有力国人だったのではと思っております。

実は木下藤吉郎の織田家に推挙したのは信長の側室の吉乃きつのと言われております。

この吉乃さんは生駒家の出で、生駒家宗の娘と言われています。

生駒家宗と蜂須賀小六は同郷で、木下藤吉郎が織田家に仕えるのは蜂須賀小六の画策で、元々は蜂須賀小六に木下藤吉郎が仕えていて、織田家に探りを入れる為のスパイとして入り込ませたのではとも言われます。

勿論、他の説もありますが、上記の説だと面白いな~と思っています。

蜂須賀小六は竹中半兵衛と同じく秀吉の配下になったのは与力として派遣からのスタートだったようです。

しかし、この人物の活躍が中々すごいです!!

墨俣城の築城の際は藤吉郎の与力として活躍し、そのまま美濃で調略を行い、多くの斎藤方の者を寝返らせ、信長より褒美を得ています。

織田家が京を抑えると藤吉郎の代官として京に留まって警備、二条御所が火災に見舞われた際には速やかに鎮火し、足利義昭に桐の紋の入った羽織を褒美として与えられ、家紋としての使用を許されています。

「桐の紋」これは、室町幕府、皇室や豊臣政権など様々な政権が用い、現在では内閣や日本の行政府が紋章としている紋となります。

簡単に言うと与えられる褒美の家紋の最高峰なのです。

木下藤吉郎時代の武の象徴が蜂須賀小六だったと言っても過言ではない程活躍した人物です。

勿論、豊臣政権下でも活躍しています。

面白いのがよく黒田官兵衛とセットで運用した事でしょうか?

豊臣秀吉は家臣で黒田官兵衛を有能であると認めつつも危険視していたなどと言われます。

最も信頼していた1人と言われる蜂須賀小六を目付として着けたのが実に面白いですね。

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