第166話
流石に竜様(近衛前久)・山科様は酒の効能は秘事とした様だ。
言ったら大騒ぎで取り分も減るだろうし、秘すれば花って言葉あるしね。
言っても効能は変わらない訳だから秘めようが衆知しようが変わらないだろうけど、騒乱の種になりそうだよね。
大衆が神に願う願い事の一つは「無病息災」で、権力者が望むのは「不老長寿」だ。
「不老不死」などと言う人間辞めました状態得られる効果は無くて凄くホッとしたよ。
そこまでの効果はなくとも今のままでも民衆にも権力者にも十分に魅力的な効能だけどね。
「千代様」
「何じゃ弓ちゃん」
「例えばですが、毒を打ち消すことなど出来ましょうか?」
「ふむ・・・出来るのじゃ。死ぬ前に飲めば大概の毒物なぞ打ち消すのじゃ」
「な、る、ほ、ど・・・それは・・・」
それを聞くのは俺、弓ちゃん、長門守と嫁たちのみ。
うん、念の為にストックするようにすべきだな。
味だけでも極上と行っていい程美味しい酒なので皆取り合いの様に飲んでいるが、2樽無くなれば今日はもうその酒は打ち止めだ。
販売用に殆どを回す予定だったけど、これは考え物だな。
また出来るかも不明だし、どの工程でこの奇跡が発生したか・・・何となくだけど神饌としたことな様な気がする。
しかし、来年は出来るかどうかも解らないし、日本酒と言うのは保存しても数年で劣化する酒だだとおもうけど・・・
ワインとかみたいに数年、数十年と熟成をする様な酒ではないと思っている。
賞味期限としては2~3年てとこか?
それ以上になると如何なるんだ?
前世では消費期限や賞味期限の表示が義務づけられていたから1年ほどで消費されたが・・・色々と試行錯誤する必要もあるな。
嬉しい悩みではあるが、一歩間違えるととんでもない事となりそうな気もしないではない。
「長門守」
「何でしょう?」
「1樽はお前たちの活動で使ってくれ」
「よ、良いのですか?」
何時も冷静沈着な長門守が珍しく慌てている。
「ああ、藤林の者たちは危険と隣り合わせの場面も多いだろう?」
「そうですが・・・本当によろ」
「よい!藤林の者たちの働きには十分感謝しているし、褒美とでも思って使ってくれ」
「・・・有難き幸せ!!」
弓ちゃんも長門守と同じく深々と頭を下げた。
感極まったと言った感じだけど、うん、本当に感謝しているからな。
忍者の一族総出のスカウトは偶然ではあったが、今はこの偶然の引き合わせに感謝と共に掛け替えのない部下であり、同志であり、身内だと思える一族だし、長門守と弓ちゃんは友とすら思っている。
うん、本当に考えてて恥ずかしくなるな・・・でも何時か2人にこの気持ちを伝えたいが・・・それまでは態度や行動でそれを示して行きたいと思う。
言葉以上にそれこそが重要だ。
勿論、言葉として伝えることも重要!!
何時か伝える時までこの気持ちを絶対に忘れてはならないと改めて心に刻むこととした。
さて、残り5樽か・・・少し使い道を考える必要があるな。
★~~~~~~★
その夜、俺は夢を見た。
白い空間に何時の間にか俺は立っていた。
「創建ご苦労であった」
声のする方を見れば、2人の女性・・・いや、2柱の女神?
存在感が神とかその類としか言いようがない。
声を掛けて来た方は以前お会いした方だ。
「摩利支天様ご無沙汰しております」
「はははは~人の感覚ではご無沙汰と言う程の物か、私たちには瞬き程も無い時よ」
俺は摩利支天様と声を掛けたけど否定されなかったので合っているのは間違いないようだ。
それに、真里や莉里、里子に少し面影がある様な気がするので先ず間違いないと思ったけどね。
「今日はどのような御用で?」
「今日はこっちの者が礼を言いたいと言うのでな」
もう一柱の女神も摩利支天様に負けず劣らず美しい方だった。
「我が使徒が世話になっておる」
「使徒?」
「千代と今は名乗っておる妖狐が居ろう?」
「千代ですか?」
「左様じゃ。あの者は哀れであったで日ノ本に誘ったが、運悪く追われる身となっての」
「何かしたので?」
「いや、特に人に害を与えておらぬがな・・・寧ろ
「成程・・・」
よく解らんが害獣ではないようでホッとした。
千代を使徒と告げると言うことは、稲荷神、
そう思った瞬間ににっこりと微笑まれたので間違いないと思われる。
「礼として摩利支天と共にそちに恵みを授けたが、美味かったか?」
「あ・・・あの御神酒は貴方様がたの仕業でしたか・・・」
「ほほほほほ~如何じゃ!驚いたか?」
「はい、驚きました」
千代が説明したとおりの物であるという確認が取れた。
流石に不老不死の霊薬とかだったら騒ぎになるだろうから抑えたとか言われるけど、あの効能でも十分騒ぎになると思う。
神のなさる事なので加減してもあの効果・・・折角だし有難く受け取っておくこととする。
次回からは毎年2樽をそれぞれ摩利支天様と稲荷神に捧げれば同じ物を下げ渡しくださるそうだ。
本当に有難い!!
毎年手に入るとなると幅広く使う事が出来るからな。
これは俺の生きている内は下げ渡すので良い酒を造れと発破をかけられた。
うん!酒造りをしている人々に後ほど神の言葉として伝えよう。
きっと喜んでくれるはずだ。
神も今でも「良い酒」と太鼓判を押してくださったしね。
しかしそうなると、神饌とそうでない物で名を変える必要はありそうだけどね。
さて、幸運な事に神と邂逅できたので聞いておくこととした。
「お訪ねしても宜しいでしょうか?」
「良いぞ」
稲荷神がお答えされた。
摩利支天様を見ればニッコリと微笑み頷かれた。
「近衛前久の今後は如何なりますか?」
「あの者の今後とな?ははははは~相変らず自分のことより人の心配かい」
摩利支天様がおかしそうに笑われたが、相変らず?
う~ん・・・何をもって相変らず?
「あの・・・」
「ははははは~良い良い気にするな」
「はぁ・・・」
気にするなと言われると気になるが、教えて頂ける感じではなさそうなので答えて頂けそうなことだけ聞くことに切り替えた。
「ふむ、ええ心掛けじゃ」
今度は稲荷神様が俺の心を読んだように話される。
まぁ神様はそれ位の芸当は簡単にやってのけそうなので気にしない気にしない。
「ほほほほほ~長恵よお主中々面白いな」
「左様ですか?」
「まぁよい、近衛前久の今後か?」
「は、はい」
「あ奴には好きな様にしろとでも伝えておけ」
「はあ・・・」
「ほほほほほ~あ奴は勝手に自分の思うがままに動けば運も開けようて」
「本人にそう伝えておきます・・・」
「ほほほほほ~人の中ではあ奴は怪物の類じゃ、勝手に動いて勝手に元の位置まで自分の力で戻ろうが、気になるなら少し手伝ってやればよい」
「はい、一応は義理の父となりましたし、元々懇意にしておりますのでそのつもりです」
「それなら、周りとの縁を繋いでやればよいぞ」
「縁ですか?」
「そう、人の縁じゃ」
「顔繋ぎと言うことですかね?」
「お主も好きに動けばよいのじゃ」
「わ、解りました」
「では、また縁があれば会おうぞ」
稲荷神様はそう言われ、摩利支天様も「またな」と言われた瞬間に暗転した。
★~~~~~~★
「う~頭が痛い・・・」
「長様はお酒を控えなされ、何時も飲み過ぎです!!」
「う~すまん・・・」
美羽に注意された。
うん、昨日は飲み過ぎたよ。
神社の創建の大宴会は夜遅くまで続いた。
島津義弘・前田利家・武田信豊等々の有名武将たちと飲み比べを始めたのまでは覚えているし、その後に夢の中の出来事も覚えている。
何時の間にか寝ていたのは覚えていないけどな・・・
美羽だけではなく莉里・春麗からも呆れられた。
里子からは「父様くちゃい!!」と言い鼻を押さえて言われた。
加齢臭漂うパパさんたちが年頃の娘に「臭い」と言われる気持ちを理解したよ・・・
「父様の洗濯物と別に洗って」とか里子に言われたら、俺、挫折する自信あるわ。
少し酒を控えることとしよう・・・え?守れ無さそうな事を誓うなと?・・・里子に「臭い」と言われるのは辛いので少しでも酒を控えることを心に誓った。
竜様(近衛前久)には稲荷神様のお言葉をそのまま伝えたよ。
どう動くかはもう竜様次第だね~
さて、明後日は教会のお披露目で、その二日後は神前婚の予定だ。
〇~~~~~~〇
まだまだ九州での祭事が続きます。
さて、
神に捧げた供物のことで、
神事の際にその土地の人々が神に感謝し特別な恩恵を享受した食物を神饌として捧げ、神迎え神事を行います。
日本の主食にして恵みの米を捧げることが一般的で、神前に生米を捧げることが多いのですが、他にも、酒、海の幸、山の幸、その季節に採れる旬の食物、地域の名産、祭神と所縁のあるもの等も捧げられます。
神前での儀式の終了後には捧げた供物を神と共に食することにより、神との一体感を持ち、加護と恩恵を得ようする「
これは神からの恩恵を体に取り入れ御利益を得る縁起物として食されます。
さて、神への捧げ物は上記に書かれた物以外のもありました。
神への捧げ物と聞いて他に直ぐ思いつくのは「生贄」ではないでしょうか?
生贄とは文字通り神への供物として生きた動物を供えることです。
動物と言うのは人も含みます。
人の場合は「
さて、ここで面白いのが日本神話にはある生贄伝説が残っております。
実はこの
神が大蛇の化け物に生贄をしていた訳です。
さて、ここで登場するのが高天原(日本神話における天界と思うと解り易いです)を追放された
須佐之男命は八岐大蛇に食われそうになっている生贄の櫛名田比売を櫛に変え間一髪助けたそうです。
須佐之男命はその櫛を自分の頭に差し、八岐大蛇を退治したそうです。
その際に八岐大蛇より日本のエクスカリバー「
このエクスカリバー(又は神剣)は見事な
そして、その剣は三種の神器の一つとなったそうです。
その後、須佐之男命は櫛名田比売を妻に迎え、須賀の地(島根県雲南市大東町須賀)に宮殿を建てたそうです。
須佐之男命はこの愛の巣を立てた際に「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣つくる その八重垣を」と詠ったそうです。
実際は違うという説もありますが、もし須佐之男命が本当にこの詩を詠ったのなら凄いのろけ歌ですね~
その愛の巣を「
さて、この逸話は生贄行事を廃止させたことを物語に神話化したなどとも言われます。
そんな大昔より「
さて、これと同じような話は日本武尊とその妻の
ギリシャ神話でもペルセウスのゴルゴーン退治の話として同じ様に生贄を助ける話が語られます。
そう考えると同じ供物でも神饌と言うのは実に穏当な文化で良いですね~
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