第164話
オラ(木下藤吉郎)・丹羽殿・明智殿の三名が上総介様(信長)に呼び出された。
「三人共忙しい中悪いな」
「いえ、滅相も御座いませぬ。主の呼び掛けに駆けつけるは当たり前のこと」
丹羽殿が代表して受け答えをする。
「そうかそうか」
上総介様もその受け答えに満足されて目を細めお喜びの様だ。
手に持つ扇子も微妙に揺れ動き嬉しそうじゃ。
「して、ご用向きは?」
「うむ、実は三人に少し考えて欲しい事があったな」
信長様は近衛殿下の失脚について先ず御語りになった。
そして、山科様も片棒を担いでいるのではないかと言う。
しかし、確たる証拠はない。
近衛殿下と懇意されているだけだし、近衛殿下自体も関白解任・朝廷追放される程の事をしたようには思えぬし、確たる証拠も無く今回は裁かれた印象がある。
「山科権大納言様も失脚させたいと言うことでしょうか?」
明智殿が率直に聞かれた。
上総介様は扇子をパシパシと自分の手に打ち付けながら答えられた。
急に不機嫌?になったような?
「山科卿が近衛殿下と同じく将軍弑逆を裏で操る事の片棒を担いでいたのではないかと、疑っておる」
上総介様の不機嫌を感じ取ったのか明智殿が少し言い淀む様にしながらも更に真意を探る。
「山科権大納言様をお疑いと言うことで?」
「うむ」
「しかし、証拠も無く裁くは天の道に背くかと・・・」
「そうよな~御政道を曲げることになるな・・・しかしだ、将軍弑逆は大罪中の大罪じゃ。その大罪に関わっておるかもしれぬ人物・・・限りなく黒に近いような人物を朝廷の中枢に置くことは如何なのじゃ?」
「それは、いや・・・しかし・・・」
明智殿も言い淀むが・・・如何するのじゃ?
「しかし、やはり証拠も無く裁くと言うのは間違っておるかと・・・」
「ふむ・・・では調べよ」
「調べるとは申されましても・・・」
「そうよな~時間も経つし証拠ももう無いのかもしれぬの~しかしじゃ、だからと言って放置する訳にはいかぬ。朝廷では証拠もない近衛殿下を排された。何故に排したか考えるに、危険視したのではないか?」
「山科権大納言様も危険だと?」
徐に上総介様が頷かれる。
明智殿は少し考えられてから自分の考えを述べられた。
「近衛殿下が処されたように山科権大納言様も処すべきだとお考えと言うことで良いでしょうか?」
「左様じゃ」
「では、山科権大納言様が関与しているという証拠をお望みと?」
「あれば都合が良いの~」
え?・・・これって証拠をでっち上げろってことなのか?・・・ふと横の丹羽殿を見れば、丹羽殿もこの受け答えを固唾を呑んで様子を伺っているようじゃ。
さて、主の願いじゃ、動かねばならぬのか?
しかし、オラに親切にしてくれた山科様の顔が脳裏に
「では、上総介様の意に沿うように関与に関わる証拠を必ず探し出してご覧に入れまする」
「うむ、きんかん頭(明智光秀)よ、その方にこの任を任せるぞ!!」
しまった!!話途中から考え事をしていて聞いていなかった。
丹羽殿は証拠でっち上げの任から免れてホッとしたような顔をしているようにも見えるが・・・
明智殿は目をぎらつかせている・・・出世争いの先頭をひた走る明智殿にまたしてもしてやられた気分じゃ。
上総介様の前を退去し、廊下に三人で出ると、明智殿がオラたち二人に笑顔で「更なる手柄を独り占めして申し訳ない事です」と言う。
全然申し訳無さそうでない、勝ち誇った様な顔でそう宣った・・・
悔しいとはこの事であろう。
「まだ手柄を上げられてもおられぬに、余裕ですな~」と言う嫌味を投げ掛けるので精一杯であった。
本当に悔しい事よ!!
★~~~~~~★
三名の家臣が去って行った。
切れ者のきんかん頭(明智光秀)が証拠のでっち上げを請け負ってくれた。
これでこの館もあの庵も儂の物としても問題無かろう。
大罪人の物じゃて誰も文句は言わぬであろう。
その日の夜は清々しい気持ちで床に就いた。
「権力者と言う者は何時の時代も傲慢な事」
「誰じゃ!!」
美しい女の声で語りかけられたが、内容から儂の事を詰るような内容じゃ。
ふと周りを見ると暗闇で何も見えぬが、何時も寝ている寝所ではないようじゃ。
護衛の寝ずの番の者の気配もない。
唯々静寂が周りを包む暗闇に、儂一人っきりのようじゃ。
「何処を見ておる私はここに居るぞ?」
声のする方を見れば何時の間にか一人の
「何者じゃ?」
「私が誰でもよかろう」
「答えよ!!」
「本当に傲慢な・・・」
苛立ったように顔を歪ませるがそれすらも美しい。
この世の者ではないことはその存在感と雰囲気で察せられる。
「顕如と言ったか?あの者もほんに傲慢であったが・・・」
「顕如とは本願寺の・・・」
「あ~そんな名前の寺院だったか?」
「あの・・・貴方様は・・・」
「さっきも言うたが私が誰であろうとよかろう?」
「それは・・・」
「勝てぬと踏んで今度は媚びるか?」
「そうですね・・・勝てそうにはないと思うておりますし、もしかして何方かの神であろうお方に逆らうことなど人の身である拙者では流石に無理で御座います・・・」
「ふはははは~その引き際の良さ、流石は天下を取る様な者よ!!判断が早い事よ。お主の欲しがる庵は山科に褒美として渡した物、我が子孫が世話になったからの~」
面白い者を見る様にその神であろう者は儂を興味深そうに見る。
ここで選択肢を誤れば命が無いと儂の勘が囁く。
「罪もない者を陥れ、あの庵を手に入れようとは、人の道にも外れる外道よな」
「・・・」
「なんじゃ?だんまりか?ふむ・・・「如何切り抜けるべきか、ここまで来て死にとうはない」か」
「!!」
儂の考えを読んだ?・・・本当に恐ろしい出来事に直面すると人は震えあがると言うが、今、儂は震えている?
この儂が?
歯の根が合わず、カタカタと歯と歯がぶつかる音が耳に木霊する。
「まぁ、警告じゃ」
「そ、そ、そ、れ、は、・・・どう、いうこと、でしょう、か?」
「今回だけは見逃してやるに馬鹿なことはするなと言うことじゃ」
そして、その神がニッて笑ったと思うと眩い光が辺りを包み、暗転し目が覚めると朝であった。
急ぎきんかん頭(明智光秀)に文を書き、「例の件は無かったことに致す。証拠集めは不要にて候」と書き殴り、急ぎ文を届ける様にと近習に命じた。
儂はどうやら虎の尾・・・いや、神の逆鱗に触れた様じゃ。
しかし、運がある。
神は「天下を取る様な者よ」と言うた。
儂は天下人となると言うことであろう。
そして、「今回だけは見逃してやる」と言われた。
今回に限り神罰は無いと言うことであろう。
勿論、神の言う「傲慢な事(山科卿を陥れる)」をしなけてばではあるが、もうその気はない。
顕如坊主の名を出されたと言うこと、庵の事を考えると、あの美しき方は摩利支天様なのかもしれぬ・・・危うく本当に武運を捨てるとこであったわ。
それに、骨も残らぬ程に燃え焼かれる・・・絶対に嫌じゃ。
今考えても背中を冷たい汗が伝う。
織田信長、天下人となるが最後は火に焼かれて死ぬ運命にあるが、この時、彼は自分の先の未来のことなど露とも考えていなかった。
〇~~~~~~〇
京での話は一旦幕引きです。
さて、織田信長は家臣に変なあだ名をつけたことで有名な人物です。
自分の息子にも変な幼名を付けていたので名付けセンスどうなの?とも思いますが、信長のユーモアの一つだったのかも?(知らんけど)
因みに、息子たちの幼名は長男の信忠が
絶対変な名付けしてると思うのは私だけでしょうか?
何故なら八男の織田信吉なんか「酌」で、九男の織田信貞は「人」で、十男の織田信好は「良好」で、十一男の織田長次は「縁」、あ!十一男の「縁」は私的には結構いいと思います。
でも途中から考えるの放棄したんじゃないの?と思われ節ありますよね・・・
さて、家臣たちもその犠牲者となりました。
有名な所で木下藤吉郎は、作中で出て来ましたが「
藤吉郎(秀吉)は右手の指が6本(多指症)であったことからそう呼ばれていたそうです。
さて、他にも明智光秀は「きんかん頭」と禿げ頭の意で呼ばれました。
更に、前田利家は「犬」、これは利家の幼名が犬千代なので仕方ない・・・いえ、身長180㎝越えの大男で武勇名高い者に「犬」呼ばわりはちょっと・・・いや、かなり失礼。
でもそれはましな方ですね。
更に更に、馬廻衆(親衛隊)所属の平野甚右衛門に対しては「ちょっぽり」、チビと言う意味ですが、馬廻衆と言う屈強な大男の集まりの中では一番小さかっただけ・・・
他にも失礼極まりないあだ名を付けました。
中でも特に酷いのが
「
ただし、これは「鳥なき里の蝙蝠」と言う古事があり、優れた者のいない所ではつまらない者が幅をきかすの意で、四国が島ですからそれをもじって四国と言う強者の居ないところで驕り高ぶる者と信長が元親を見下した言い回しではあるんですけどね~
今のこのご時世、コンプラが!!パワハラが!!セクハラが!!とか言う五月蠅い世の中ですから信長は間違いなく今なら訴えられるレベルの人ですね。
自分には「第六天魔王」とか付けるんですからセンスがない訳じゃ・・・いえ、今で言えば中二病ですね、間違いなく!!
次話は主人公サイドになります!!
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