第152話

美味うまし!!」

「ははははは~良きかな良きかな!織田殿にも気に入って頂けましたかな?」

「はい・・・驚きました」

「そうか、そうか」


山科様はご機嫌で茶請けも進めて来る。

何でも丸目四位殿が考案された丸目焼きなる焼き菓子、美味い!!

満月の様に丸く、優しい甘さ、実に茶に合う。

これは是非とも儂も家臣に命じて手に入れねばなるまいて。


「この丸目焼きも美味いですな」

「ほほほほ~長がその名を聞けばへそを曲げそうでおじゃるな」

「そうなのですか?」

「本人は丸ぼうろと言っておったが、皆がと言う事で丸目焼きと呼び始めた様でおじゃるからな~」


何と!丸目四位殿が付けた名ではなかったか・・・

丸目四位殿とこの件で話す際はと呼ぶようにしよう。

猿(藤吉郎)に命じてこの真里支天庵での茶席を願ったが、実に良い。

見かけはただのいおりじゃが、一度踏み込めば驚くまでに清浄な空気が漂っている。

猿(藤吉郎)は山奥の清流横の木陰と言いおったが、確かにそうとも感じてしまうが、それだけではない!!

まるで、そう、神仏に相対したような・・・

しかし、そんなおごそかな雰囲気を持ちながらも何とも温かみがある様な心地良い空間じゃ。

儂はここを大層に気に入ってしまった。

更に茶を飲めば「美味し!!」という感想より他に無し。

人は本当に美味い物を飲み食いすると「美味い」としか言えぬなどと聞くが、まさにそれじゃ!!

それに茶菓子がまた良かった。

何でも丸目四位殿が考案した茶菓子は他にも色々あり、丸ぼうろの亜流の様な黒棒、九州より製法が伝わったと言うぶらぶら餅、他にも幾つかの茶菓子を考案されたと聞く。

最近最も人気なのは銅鑼どら焼きで、元々あった菓子であるが丸目四位殿が「本物のどら焼きじゃない!!」と言われ考案されたが人気だと言う。

元のどら焼きよりも美味なのは間違いない!!

儂も噂を知り、早速とばかりにそれを食したが、生地にはちみつを混ぜ込んでいるようで、はちみつの香りと甘味があり皮の焼き生地だけでも満足できる。

そして、その生地に包まれた甘めの餡がまた良い。

こしあん、小倉、白あんの三種類があるが全て美味し!!

何でも特別な物がもう1つあるそうでまだそれは食べてないが、何でも茶の味のする物だそうじゃ。

茶を味わい、丸ぼうろを食べ終わってしまった・・・

美味しい物が無くなるのは何と儚い事か・・・おお!これが諸行無常なのか?

そんな事を考えていると「お代わりは如何じゃな?」と山科様が聞いてこられたので所望した。


「これも長が工夫した茶菓子じゃ」

「こ、こ、これは?」

「長が名付けた抹茶どら焼きと言う知る人ぞ知る菓子じゃが、もしかして織田殿は知ったおったか?」

「はい・・・是非とも食べてみたいものよと思うておりました」

「そうか、そうか、では茶に合うから食べてみられよ」


茶を啜り、茶菓子を一口・・・

人は自分の予想だにしない美味を食すと一瞬言葉を失うと言うが・・・

儂も一瞬言葉すら忘れる程に茶、菓子、茶、菓子と交互に口に運び我を忘れておった。


「ほほほほ~織田殿も気に入った様でおじゃるな」

「はい・・・お茶の苦みがまた良い菓子ですな・・・その苦みが甘露な茶に実に合う・・・いえ、普通の茶にもこれは合いましょう!!」

「ほほほほ~そうじゃ、そうじゃ、合うでおじゃるぞ~それで人気で中々に手に入らぬ品じゃ」

「な、なんと・・・」


まさに驚きの連続であった。

まさかここまで驚かされるとは夢にも思わなんだ。

近衛殿下も山科様も丸目四位殿はまだまだ作り出してはいないが考案している品々があると言う。

驚く程に多才な人物の様じゃ・・・

猿(藤吉郎)と酒を酌み交わす姿しか見ておらぬが・・・人は見かけによらぬという事であろう。

そして、近衛殿下と知り合うことが出来たことも大きい。

朝廷内の実力者だ、今後、この繋がりは儂の中で大きなものになる様な予感がする。

猿(藤吉郎)に真里支天庵での茶の湯の手配を命じたが、良い付録がついて来たものよ。

さて、京の差配は誰に任すかと迷っておったが、五郎左ごろざ(丹羽長秀)・きんかん頭(明智光秀)は確定しておったが・・・どれ、猿(木下藤吉郎)も加えてみるも面白かろう。

褒美としてもよかろうし、近衛殿下・山科様との繋がりもある・・・よし!猿も加えよう。


★~~~~~~★


「山科様、近衛様、織田様は如何でしたか?」

「そうよな~鋭そうな人物でおじゃったな」


近衛様が答え、山科様も頷く。

あるじの蔵人様の知り合いという織田家配下の木下藤吉郎様が近衛邸に訪ねて来られたことが始まりだった。

何でも蔵人様とご縁があり、今の木下様があるのは蔵人様の御蔭らしい。

あの方何処に行っても運を振りまいているのではないかと思えてならない。

勿論、慕う者にはと言う枕詞が付くのではあるが・・・


「お金よ」

「何で御座いましょう?」

「長は信長殿について何か言っておじゃっったか?」

「はい、次の三好長慶と言われておりましたが・・・」

「「なんと!!」」


近衛様・山科様が目を剥いて驚かれている。

確かに驚くであろう。

私もこの事を母のお弓棟梁より聞きし時は驚いたものだ。

実際は「三好長慶をも超える」と言われたらしいが・・・

今後は織田様を中心に世の中が回って行くのであろう。

京を発たれる際に、残る私に蔵人様は織田様・明智様・木下様の三人をよく見ておけと言われた。

何かあるのであろう。

私の印象としては織田様は鋭い人物のように見受けられる。

近衛様・山科様と同意見だ。

次の三好長慶と言われて納得するような人物・・・うつけと呼ばれていた人物とは思えない程鋭いと思った。

明智様は織田家では新参ながらも出世頭で今注目の人物である。

見た感じ苦労して来たのであろうことが顔からにじみ出ている。

神経質そうにも見えるが・・・今の所は特に如何と言うことは無いが、行動から計算高い人物であるようだ。

木下様は飄々としておられるし明るい性格の様で、報告では訛りを気にして言葉が変であるとか、ボーとしていて何を考えているか解らない等の報告が上がっている。

配下の数名が特に優秀そうである。

中でも竹中半兵衛様が昔から噂の人物で、「今孔明」とも呼ばれる知者だ。

そう言えば、木下様については弟も見ておくようにと言われたが・・・京には来ていないようだ。

後、注目すべきは蜂須賀はちすか小六ころく殿が配下に居るようだ。

あの方は忍働きもするので忍び間での情報交換の交渉相手の候補にも上がっていた。

近い内に繋ぎをつけてみよう。


「では今日の茶会は有意義であったという事でおじゃるな」

「左様でございますね」


流石は権力の化け物、公家はこれだから恐ろしい。

しかし、長様の味方、ひいては我々の味方だ。

味方である内はこれほど頼もしいことは無い。

さて、忙しくなりそうですね~


〇~~~~~~〇


京でも動きがありました!!

さて、今回はみんな大好きどら焼きについて語りましょう!!

猫型ロボットの好物として知られる和菓子ですが、歴史が中々にある食べ物です。

時代は源平の決戦の時代にまで遡ります。

源義経が奥州へ逃れる時に、銅鑼を残していき、その銅鑼で焼いたのが「銅鑼焼き」と呼ばれたという伝説があります。

諸説あり武蔵坊弁慶の考案説などもあります。

どの説も銅鑼どらと言う打楽器に関するものが多いようです。

色々ありますが諸説の一つ義経説から「今義経」などと呼ばれる主人公ですからやはりここではどら焼きを語るしかないですね~

さて、銅鑼焼きは丁度作中に登場した丸ぼうろの様な単一の焼き菓子だったようです。

弁慶さんがお礼にと小麦粉を水で溶いて薄く伸ばしたものを熱した銅鑼に引き丸く焼いた生地であんこを包んだものを振舞ったと言う銅鑼焼き伝説が在ります・・・小豆餡の起源にも関わる話ですが、現在、弁慶さんの死後に小倉餡が生れたとされておりますので伝説が本当なら餡として何を挟んだんですかね~

さて、千利休の好んだ焼きが江戸時代に伝わり、それが変化してブラッシュアップされ現在のどら焼きとなったとも言われます。

焼きは、小麦粉を水で溶いて薄く焼き、芥子の実などを入れ、山椒味噌や砂糖を塗った生地を巻物状に巻いて成形したお菓子で、巻いた形が巻物経典似ていることから、仏事用の菓子としても使われたようです。

の焼きやのものなどとも言われました。

江戸時代になるとさらに改良が加えられ、小麦粉を水に溶いて薄く伸ばして焼き、餡種を包んで作る助惣焼すけそうやきと言う物が現れます。

どら焼きの原型は江戸時代初期と言われています。

四角くどら焼きの生地も薄い為、現在のきんつばに近い状態の物だったようです。

現在のカステラ状の皮にあんを挟む「どら焼き」は明治初期、日本橋大伝馬町で創業した「梅花亭」というお店の三代目さんがそれまで四角に包んでいた皮を丸に変えた事が始まりとされています。

おー!!昔のどら焼きはかった!!

本当にきんつばみたいで驚きですね~

更に、現代の日本で見るどら焼きの生地は、ホットケーキの強い影響を受けており、昭和20年代頃まで現在のどら焼きとホットケーキは混同されがちでどら焼きを見てホットケーキと思う人が多かったそうですから実に面白いですね~

どら焼き食べたくなってきました!!

次回は主人公側に戻ります!!

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