第149話

「丸目蔵人殿はお元気で居られるか?」

「はい、蔵人様は京にてお元気にされております」

「皇女様のことは誠に残念でしたな」

「はい・・・しかし、あらかた問題は解決しており残すは顕如のみの様です」

「あちらの出来事に御詳しいですな・・・」

「いえ、10日ほど前の出来事までなら把握はしているのですが・・・」

「ほほ~関東に居ながらにしてそのような情報を得るとは・・・丸目殿の考案された情報網とやら中々どうして、千里を見通す目の様なものの様ですな~」

「まだまだにて御座います」


蔵人様を籠絡できなかった私は主・蔵人様のお側より離れ関東に来ている。

蔵人様の事はお弓叔母様の課題が無くてもそれなりに好みだったし本気で口説いていたんだけどね・・・

今更それを言っても遅いか~

さて、目の前に北条宗哲様が居り、蔵人様の紹介状でお会いしている。

徳川様の所はあっけない程に協力的で、服部殿など乗り気で「実に素晴らしい」と連呼されていた。

蔵人様へ可成り恩義を感じておられるようで家臣の方々も協力的で此方が引くほどの熱だった。

北条はそんな訳にはいかないと覚悟して来たが、紹介状を出すとすんなり北条宗哲様とお会い出来たが、やはり一筋縄ではいかないかもしれない・・・

隠れてはいるであろうが風魔の手練れの気配がするのでこの会話もその者に聞かれているのであろう。

内容は情報網の情報をこちらが渡すことと、その情報のやり取りを忍者同士で行い売り買いや交換したいと言う内容だ。

北条宗哲様のお言葉は何処までの情報を何時手に入れられるかの牽制だろう。

私がここに居て蔵人様の現在の情報を知ることが出来ることも含め情報の速度でも計っている?

主・蔵人様は「侮れない爺」と目の前の宗哲様の事を評したが、言われた通り侮れないお方の様だ。


出羽守でわのかみいるか?」

「はいここに」


驚いた!!気が付けば何時の間にか宗哲様の傍らに大男が座っている。

出羽守なる人物に宗哲様が茶を差し出している。

「うまい!!」と述べ悠々と茶を啜るこの人物・・・名前と風貌から風魔の棟梁の風魔出羽守殿だろう。


「おっとこれは失礼、拙者は北条家に仕えております風間かざま出羽守でわのかみ小太郎こたろうと申す」

「私は丸目蔵人様に仕えております藤林お銀と申します」


お互いに笑顔で挨拶を交わすが、殺気をぶつけ合いお互いの力量を探ろうとしているが・・・この男の底が見えない。


「その方たち・・・殺気のぶつけ合いはこの場では無粋ぞ」

「失礼致しました」「申し訳御座らぬ」

「まぁよい・・・」


宗哲様に呆れられてしまいました・・・

今回は風魔との業務提携が目的です。

蔵人様は忍びの技はあくまでも業務を遂行する為の物で、技に溺れないようにと言われた。

確かに考えてみれば技に溺れて目的を見失う者も多いと痛感する。

忍びの技はあくまでも目的達成の為の道具である。

磨く必要はあるが、それに固執すると目的を見失う。

鳶の叔父様(鳶加藤)は「それで失敗したな~」主様にそう言われた時に嘆いておられた。

そう言えば、この目の前の大男・風間かざま出羽守でわのかみ小太郎こたろう殿が風魔の棟梁の小太郎殿であれば、鳶の叔父様(鳶加藤)のお師匠様に当たる。


「風間殿は私と同じく蔵人様に仕える加藤の師に当たるとお聞きしましたが?」

「加藤?・・・あ~鳶さんか、鳶さんは先代の風間の弟子ですな」


先代という事はこの方の父親?


「そうなのですね」


見た目は加藤の叔父様とそう年が変わらないか下位なので言われれば確かに加藤の叔父様が弟子と言うのは不自然だったわね。


「先代に師事していた時に一緒に馬鹿をやっておりました仲にて」

「左様ですか」


その後はこの三人で情報についてのやり取りなどを話し合った。

徳川の服部殿とも提携しており、他にも多くの者に賛同を得ていることを伝えると驚かれた。


「して、具体的に情報のやり取りにて我が方は何か得られる物がありますかな?」

「そうですね・・・情報については追々として、見返りに兵糧米をお安くお売りするなど如何ですか?」

「米を安くか・・・」

「これからは少し多めにお入用ではございませんか?」

「何かお知りで?」


蔵人様のお話では今後は北条は戦いに明け暮れると聞く。

何処も彼処も戦続きなのでおかしくは無いが、北条・武田・今川で結ばれている三国同盟が崩れると言われた。

確かに今川義元無き今川家と何時までも同盟をと言うのは武田家にして何時崩れてもおかしくない思う。

今川家に一時は仕えていたし、武田家にも仕えようとしたのである程度事情は知っているからこそそう思えるだけで、北条家の考えなどは解らぬし、蔵人様の予見が外れるとは思えない。

問題は何時崩れるかだ。

北条家にとってこの情報は大きいと思い、恩を売る為に渡すこととした。


「三国同盟は何時まで持つでしょうね?」

「同盟が崩れると?」


2人ともが険しい顔となる。

にっこりと笑い余裕を見せる。


「有難く兵糧を買わせて頂こう」

「ありがとうございます。堺の商人がお持ちしますので後日お取引ください。出来ますなれば空荷で戻るはもったいないので何かお売り頂けると」

「わはははは~忍びの者が商人に先駆けて取引の手配か」

「これも契約にございますれば」

「ふむ・・・丸目殿の忍びの者は有能の様じゃな」

「有難きお言葉です」


その後はとんとん拍子で話が進み、情報のやり取りなども円滑に行えることが出来るようになった。

この情報網の核として蔵人様が提唱された「争わずに情報を得る」と言うのは、実に面白い。

最初、話を聞いて直ぐは「何を馬鹿な」と思うたけど、情報を商品として取り扱うと考え方・・・青天の霹靂というのはこういう事なのだと今でも鮮明に覚えている。

お弓叔母様から「蔵人様の計画です」と言い聞かされた歩き巫女を使う情報収集と伝達にも驚いたが、敵対者になるかもしれぬ者なんなら敵対した忍びの者どもとも情報を商品としてやり取りすると言うのは実に面白い!!

そうこうしている内に、武田家が同盟を破棄し、駿河を乗っ取った。

事前情報で徳川家も動いて一気に今川家を攻め滅ぼすことを知っていたので、北条に伝え、更に徳川様と交渉して今川夫婦の安全を確保したことで私たちの評価は益々上がった様で、色々と優遇されるようになった。

関東の情報のやり取りは私を核としてやり取りされ、京に居るお金姉様の下に一度集められることとなっている。

そして、その情報は堺の商人たちにも売られるし、お弓叔母様の下に集められて叔母様と莉里様たちが悪だ・・・有効活用することだろう。


〇~~~~~~〇


今度は関東のお銀中心の話でした。

お銀は久しぶりの登場ですね~

さて、忍び同士での情報のやり取りは実際は結構行われていたようです。

しかし、勿論、仕えた者は主家に対して忠誠心などから主家の不利な情報は出しません。

それが自分たちのその家内での信用になる事や安全確保に繋がると言う事を理解した上でのことだったのでしょうが、フリーランスの者はその範疇では無かったようです。

忍びの者が武士たちに下に見られる原因でもありました。

フリーの者を使う場合は出来るだけ自分たちの情報を与えないようにしたようです。

さて、今回の主人公が構築しようとしている情報網の核は情報を商品として取り扱う事です。

そこに価値を付け取引すれば、価値ある情報を商品として出すこともある為、情報が得やすくなります。

得やすくなれば情報の確度も上がります。

そして、何よりも、忍者同士で争って情報を得るより先に取引が発生すること大きいと考えます。

勿論、決裂すれば争うかもしれませんが、ワンクッションあると言うのは意外と大きい変化です。

さて、一旦主人公側に話しは戻り、また京に戻る予定としてます。

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