第134話
キリスト教関係者は落胆して帰って行った。
真里たちを騙して奴隷落ちさせた宣教師とは違うんだろうけど、真里も莉里も元キリスト教信者と思えない程に彼らを冷めた目で見ていた。
聞けば、自分のご先祖様が摩利支天様と日天様、ひいては梵天様なのでそれらのご先祖様を信仰すると言い切った。
まぁご先祖様を敬うことにもなるし、良いんじゃないかな?
真里はある意味ご先祖様に多大な恩恵を受けた訳だしね。
俺も摩利支天様には感謝だ!!
さて、そうこうしている内に京で元旦を向えた。
山科様より言われて天子様と近衛殿下の所にご挨拶に伺った。
考えてみると義理の親父様なのだから挨拶は礼儀として必要!!
天子様の住まう御所は・・・古めかしいな・・・いや、ボロい!!
流石は貧乏な朝廷だ。
新しく建て替えることなど難しいのかもしれないな。
天子様にはお世話になっているので御所建て替え費用を寄進することとした。
うん!使わずにどんどん膨れ上がる資産を有効活用だ!!
権威だけの朝廷ではあるが、この権威と言う物は中々に馬鹿に出来ない。
と言う訳でお礼兼今後ともよろしくねってことで、寄進した。
どの位掛かるか金額を聞いたら5,000貫とか言われたので余裕で出せそうだったのでポンと出すこととしたがまさかお公家さんたちが泣いて喜ぶとは・・・何か恨みがましく睨んでいる者も居るけど、気にしたら負けだ。
近衛殿下が「長の官位を上げようか?」言われたが、特に困っていないし、今の官位すら身分不相応と思っているので辞退した。
「欲が無いでおじゃるの~」と言われたが、欲はあるけど違うベクトルと言うだけだ。
それにしても、俺の剣術大会で朝廷は臨時収入で1万貫位手に入れたはずなんだけど、何処行ったの?と思ったが、何か色々使ったそうな・・・まぁこの御所も古めかしいけど、趣あるし・・・いや、やっぱり国の権威のトップが住むにしてはボロ過ぎる!!
こっそりと山科様に「1万貫どこに消えたの?」って聞いたら「借金返済」と言って遠い目をしたよ・・・今年はいい年になると良いね。
真里のお腹も大分大きくなって来た。
暗闇とかで真里を見ると偶に光って見えるんだけど・・・特にお腹が・・・神の加護の影響だろうか・・・人間は発光しているというし、光ることは可笑しくない、可笑しくない・・・
さて、本願寺の方も可成りきな臭くなって来た。
朝敵と言うのも重かったが、幻術士と忍者たちの暗躍が効果的に効いて来たようだ。
勿論、顕如は含まれていないが、顕如をトップから下ろし、俺に引き渡すことが記載あるが、三好同様に金銭については一切の記載がない。
まぁ20万貫って金額の大きさと、三好が払ってないから此方は此方で様子見と言ったところなのだろうが、着々と宗さんたちの事情を知る商人連中が買い叩いて利益を貪っている。
俺の方にもその資金が流れて来ているので、今回の5,000貫の資金はそこから出ている感じだ。
莉里の怒りは大きいようで、宗さんたちと密にやり取りをして堺の商人の間でも少し有名になりつつある。
信綱師匠から印可状が届いた。
「殺人刀太刀」「活人刀太刀」と言う2つも頂いた。
それと、真里の事についても書かれていた。
師匠の気遣いが染みる。
そうこうしている内に真里がいよいよ臨月を向えた。
そして、お産が始まった。
嬉しいが、真里の別れが近いことが悲しくて悲しくて仕方ない。
しかし、俺が真里を見て黄昏ていると、彼女は「私が死んでも貴方の側にこの子が居ります。それに他の三人居りますよ!最近は私が貴方を独り占めしていましたから私がこの世を去った後は3人にその目をお向けくださいね」と言ってにっこり笑いお腹を撫でるを繰り返していたので俺は真里の助言に従うつもりだ。
お産に立合おうとしたら、女性陣に締め出されて「男子禁制」を言い渡された。
寿斎たちからも長門守、鳶加藤さん、果心さん等から残念な者を見る様な目で見られた・・・
待つこと一刻、真里の子は産まれた。
真里はまだこの世を去っていなかったが、お産後に休んでいた真里の夢枕に摩利支天様と日天様が立たれたそうだ。
「それで何と言われた?」
「七日後に迎えに来ると言われました」
「七日・・・」
俺を含め莉里も美羽も春麗も他の皆も悲しみを目に讃えた。
「後七日も御座います!!最後のお別れが出来て真里は幸せです」
「おお!すまん!笑って見送るんだったな!!」
「はい、貴方様の笑顔を目に焼き付けて逝きたいです」
俺は無理に笑いを作り赤子の誕生を喜んだ。
生まれた子は女の子であった。
真里の子という事で「
俺を見てキャッキャと笑う元気な子だ。
俺の初子となるし、真里の忘れ形見だ、大事に育てようと思う。
時の経つのがここまで速いと思ったのは生まれて初めてだ。
7日はあっという間に過ぎ去って行った。
「私は貴方様に出会えて幸せでした」
「おう・・・」
涙が邪魔して話せない。
何か言おうとすれば涙が零れそうになり返事がやっとだった。
無理に笑い顔を作ったが涙が零れたようだ。
真里は俺の頬の涙を拭いてくれて、にっこりと笑い言葉を続ける。
「死して後も貴方の傍らに居り、守り続けます」
「おう・・・」
「里子も見守り続けます」
「おう・・・」
「莉里の事もお願いします」
「おう・・・」
「明日はもう私はこの世に居りません・・・私の亡き後は1日は泣いていいですけど、その後は元の様に過ごしてくださいね」
「おう・・・」
まだまだ語り足りない。
いや、俺は真里を前にすると涙を堪えるだけで必死で俺から何かいう事は出来なかった。
そして、その日の夜、真里は眠る様に亡くなった。
死に顔は笑っている・・・ただ眠っている様に見える・・・
莉里たちも泣き晴らしたような目でいたが、覚悟を決めたような目である。
俺はまだ覚悟が出来ていない・・・
呆然とした俺に赤ん坊の泣き声が聞こえ、里子の元へ向かうとキャッキャと笑い俺の方へと手を伸ばす様にして来た。
里子を抱き上げてあやしていると、何だか真里の気配を感じるような気がした。
里子を寝かしつけ真里の元に戻り、俺は一睡も出来ず、真里の亡骸の前で1人泣き暮れた。
〇~~~~~~〇
ヒロインの一人が亡くなりました。
そして、丸目蔵人の架空の初子の
上泉信綱より贈られた「殺人刀太刀」「活人刀太刀」の印可状は禅の
悪に打ち勝って確実に殺すのが殺人刀、その悪を殺し万人が救われ「活きる」のが活人剣だと言う禅問答を基にした言葉で、刀で人を斬る兵法の行為にはこの両面がないとならないと諭し、剣術が殺人技法にとどまらずそれを超えて昇華したことを示したものとされたようです。
簡単に言えば、極意に至ったことを上泉信綱が認めたことを意味します。
武士道の美学を語った様なタイトルの印可状だと思います。
そして、剣豪と言うのは精神統一に禅を用いた様で意外と免許皆伝などで禅の言葉を使うことは多かったようです。
そして、柳生石舟斎は上泉信綱に「一国一人」と言う印可状を貰いました。
上泉門下ではこれを貰ったのは石舟斎だけだったようで、「唯授一人」とも言われます。
これが柳生家の新陰流の正式伝承を後押しした物と言われます。
しかし、私はこの「一国一人」の印可は「一国は一人を以て興り、一人を以て亡ぶ」と言う
上記の言葉は一人の政治家によって、国が栄えたり滅びたりするという意味ですが、石舟斎の子である宗矩が政治方面に適正があり、兵法指南役であったが剣を通じて禅や政治を説いたと言われる人物ですし、上泉信綱が予言者の様に兵法を政治利用するなよと釘を刺して言ったような気もしないでは無いですね~
まぁ考え過ぎかもしれませんが、そんな気がしないでもない印可だと思ってしまいます。
さて、次回はいよいよお仕置きだべ~
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