第128話
真里は天子様の義娘、皇女なので朝廷への知らせも必要で、山科様が伝えてくれたが、天子様の枕元に天照大神が立たれて天女の末裔を襲った者を許すなとのお告げをされたそうだ。
山科様が報告された時には既に天子様が知っており、首謀者は朝敵とすることが宣旨として布告されたそうだ。
一夜明け、既に京の町でも剣術大会のヒロイン的な真里の凶事を伝えられて大騒ぎとなった。
霜台爺さんも見舞いに駆け付けたが・・・
「爺さん・・・悪いが、三好の者と付き合う事は今後無いと思ってくれ」
「どういう事じゃ?・・・」
「俺を襲った者を捕まえておるが、三好の忍びが含まれている・・・」
「そのような・・・長慶様は長と敵対するなと御遺言された・・・それを破る者など・・・」
「居たんだろうな・・・俺は赦す気はないし、三好家の今後は・・・」
「左様か・・・長・・・いや、丸目四位蔵人様、今回は三好家の者がご迷惑をお掛けした」
爺さんは深々と頭を下げてそのまま立ち去って行った。
そして、真里はまだ意識を取り戻していない。
藤林家の医療に詳しい者は数日中が峠と言う。
峠を越えたとしても・・・莉里は真里に付きっきりだ。
美羽と春麗が俺に付き添って行動している。
「次に刺客が来れば今度は私たち守ります!!」と二人とも言うが、俺はこれ以上悲しい思いをしたくない。
その事を伝えると困った顔をされたが、本心なので仕方がない。
さて、長門守より実行犯の一人が話したいことがあると言って来たそうだ。
四郎と言う忍びの者の方と言うから驚いた。
先に落ちるのはもう一人の者と思っていたが・・・
四郎の下へ行くと、大分絞られたようだ。
縛られた両腕両足の指先には包帯がグルグルに巻かれている。
「半日ぶりだな」
「四位蔵人様・・・」
「話があると聞いたが?」
「はい・・・某はもう生きることは諦めたが・・・心残りがあるので聞いておきたい・・・」
「おう、聞くだけは聞いてやろう」
「有難き幸せ」
「あ~そう言うの良いからはよ話せ」
「はい・・・神の言葉を聞くと言う貴方様は若しかすると私の全てを何時か知ることになると恐ろしゅうて聞いておきたいと思いました次第です・・・」
「まぁ何時かは知ることになるかもな・・・」
神が教えてくれる?・・・神ではなく藤林忍軍に調べさせるぞ!!
しかし、神を恐れて向こうから教えてくれると言っているので聞いてみよう。
「私が何も喋らず死した場合は私の事を辿り大元も断たれまするか?」
「大元とは?」
「伊賀の・・・」
「あ~お前さんは伊賀者なのね・・・」
「はい・・・」
今の心境を言えば根絶やしだ・・・しかし、ジェノサイドしても意味はないし、少なくとも依頼元以外にはけじめを着けさせる気は無いが・・・
「伊賀の誰の手の者じゃ?」
元伊賀者の藤林長門守が一睨みして聞いて来る。
まぁ同じ伊賀出身者でも長門守も怒り心頭で赦す気はない感じだな・・・
四郎は長門守をジッと見詰めてから俺の方を向き話し出す。
「丹波様の中忍に御座います・・・」
丹波?・・・解らなかったので長門守の方を見ると教えてくれた。
「百地丹波殿の所の者のようです・・・」
「百地・・・」
百地と言えば三太夫?・・・伊賀の三大上忍だったか?
長門守がそのまま情報をくれる。
そして、長門守はそのまま話を続ける。
「某の知り合いでもあります・・・今は北畠様の所に付いていたかと・・・」
「そうか・・・」
俺は四郎を再度見やる。
見詰めると心配そうな顔でこちらを見詰めていた。
「それで?百地丹波の一党を俺がどうするか聞きたいか?」
「はい・・・」
「お前次第だ」
情報を吐けば実行犯の此奴と首謀者以外に報復しないことをこの場で四郎に告げる。
そうすると、実行犯の情報、首謀者の情報と今までのだんまりが嘘の様に話し出した。
実行犯は目の前の石川四郎右衛門と
孫一は鉄砲の名手で本願寺顕如の手配で雇われた者とのことだ。
そして、三好側の首謀者が三好日向守だと告げる。
「何故・・・俺を狙った?・・・霜台爺さん・・・三好家の松永殿からは三好家には三好修理大夫殿が俺と敵対するなと遺言を残したと聞いたが?」
「はい、日向守様は四位蔵人様の朝廷への発言力の強さを懸念されて居りました・・・」
「はぁ?発言力?」
「はい、松永様が三好家の窮地の際に四位蔵人様に朝廷へ繋ぎをつけられ願いがかなったことでその発言力を懸念されました・・・」
それは誤解だ・・・俺は山科様の頼みで三好家の要望を聞いただけ、霜台爺さんからは三好家の現状と要望を聞いただけ・・・ただのメッセンジャーだ・・・
勝手に俺の存在を誇張して誤解して俺を襲った?・・・
「覚慶様をお守りされた手腕も懸念されておりました」
「・・・」
「そして、松永様と日向守様は三好家内で政敵でして・・・松永様と懇意の方ですし・・・」
「俺の存在が邪魔か・・・」
「はい・・・そして、本願寺から頃合いに打診があり」
「計画を練った?」
「はい・・・」
俺の顔を見た四郎右衛門がギョッとしたので俺の顔は鬼の形相だったのかもしれない。
顕如は昔の恨みだろう・・・そして、日向守は俺に対して・・・三好長慶の遺言を無視してでも排除すべきと判断し、顕如と結託した・・・霜台爺さんが悪い訳ではないし、三好長慶は遺言まで残し俺との敵対を避けた・・・しかし、事は起こった・・・三好家を赦す気はない!!
「そうか、石川四郎右衛門」
「はい・・・」
「よくぞ話して!!罪一等を減じて楽に死なせてやろう」
「はい、有難く・・・」
「百地殿たちにも事情は説明するが敵対しないことを誓おう」
「はい・・・有難く・・・」
「何か望みはあるか?」
「いえ・・・私は地獄に行くのでしょうか?」
「知らぬが知りたいのか?」
石川四郎右衛門は少し考えて首を横に振った。
「もう直ぐ解る事にて結構でございます」
「そうか・・・」
今は生かしておくが、実行犯の此奴は死を持って償うより無い。
一応は山科様に報告した。
その次の日には朝廷より三好家と本願寺の朝敵認定がなされた。
お役所の事なかれ主義の朝廷がこんなにも早く朝敵認定する事には驚いたが、今回は朝廷に牙を剥いたのと同じ事、それに、前回の将軍弑逆の時の朝廷の鬱憤があったのかもしれない。
しかし、京を抑えているのは三好家だ・・・よく朝敵認定に踏み切ったものだと驚いた。
まさに大きく歴史が動いた瞬間かもしれない。
真里が銃撃を受けてから3日後、真里は意識を取り戻した。
真里の枕元に行くと、にっこりと微笑み俺を迎えてくれた。
〇~~~~~~〇
史実で三好家、浄土真宗本願寺派が朝敵認定されたことはありません。
この物語では史実と違う動きとして初めて大きく歴史が動いた瞬間かもしれません。
日本においては天皇および朝廷に敵対する勢力を意味する呼称として朝敵と呼ばれました。
朝敵認定は重いですが、この時代も普通に武士の都合で朝敵認定された者が数名います。
織田信長の依頼で武田勝頼、豊臣秀吉の依頼で島津義久と後北条氏が朝敵とされました。
そんな戦国期の朝敵認定の中でも面白いのが足利義澄と細川政元が画策した大内義興の朝敵認定かもしれません。
1501年の事ですが、後柏原天皇から大内義興討伐の綸旨が出されたそうです。
しかし、大内義興は中国地方の諸大名や国人を纏め上げ、それらを率いて上洛し、画策した足利義澄と細川政元たちを京より追放したそうです。
大内義興に敵愾心のなかった朝廷は直ぐに従四位下を授けたそうですが・・・
何故に大内義興が朝敵になるよう画策したか?
これは足利家の権力闘争が原因となります。
室町幕府の第11代征夷大将軍・足利義澄と細川政元には政敵が居ました。
室町幕府の第10代征夷大将軍・足利
この人物は足利義澄とは従兄の関係にあります。
この足利
これを明応の政変と言います。
将軍職を追われ逃亡中に足利
逃亡生活の果てに行きついたのが大内義興の下で、
勿論、
そして、庇護していた大内義興が足利義澄と細川政元たちに敵認定されて朝敵にされましたが、逆にやり返した訳です。
足利
名を改めて足利
幕府は鎌倉・室町・江戸と3つありますが、将軍職を再任されたのは義稙のみとなるので中々にレアな人物です。
しかし、大内義興が周防国に帰国すると管領の細川高国(政元の養子)と対立し、再度、将軍職を奪われ逃亡先の阿波国で死去したそうです。
将軍職を奪ったのは第11代征夷大将軍・足利義澄の息子、足利義晴です。
この人物は剣豪将軍(義輝)とお手紙将軍(義昭)の父となる人物です。
こんな感じで足利将軍家は骨肉の争いをし、どんどん権威を自ら落とし、弱体化した訳ですね~
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