第120話
寿斎は残念ながら一回戦で負けてしまったが、俺・美羽・真里の三人は勝ち進んだ。
丸目蔵人VS伊勢太郎
近衛美羽VS ?
真里皇女VS吉岡
対戦カードは上記の通り。
どの試合も注目と言える試合が続く。
美羽に関しては不戦勝が濃厚だろう。
次の対戦相手の事を聞くが、伊勢太郎さんについては凄腕と言うだけで情報が少ない。
殆ど開始直ぐに勝負が決まっており、唯一参考となりそうなのが予選の藤林長門守との勝負だけだろう。
彼を負かすという事はそれだけの実力者とと言うのは解るし、名前がな~信綱師匠じゃないかな~と思えるんだけど・・・
京で師匠を驚かせることをすると告知して尚且つ挑戦者募集を大々的にやった。
それこそ朝廷までも協力した形の物となった。
まぁ負ける気は無いよ、信綱師匠と言えども俺が勝つよ・・・でもね~う~ん・・・必ず勝てるとも言えない相手だな・・・
美羽の相手は不戦勝だろうから取りあえず置いておき、真里の相手は吉岡さんか~
師匠との勝負観たけど将軍家指南役だけあり中々の使い手であったその息子さんだし、多分は強者だな。
まぁ何にしても楽しみな対戦である。
時は過ぎ次の日の朝がやって来て何時もの様に主催者として天子様にご挨拶する。
「四位蔵人よ」
「はっ!」
「今日も楽しみにしておる」
「はは~!!ご期待に沿えるよう某含め皆奮起致します!!」
「うむ、期待しておる」
挨拶が終わると何時もの様に初っ端は俺の試合だ。
急ぎ待機場所へと行き出番を待つ。
会場は既に満員御礼で賑わいを見せている。
俺の挨拶の時に皆が天子様に礼をしてその後は無礼講的に振舞ってOKを得ているので俺の挨拶後は会場が騒がしくなる。
「ドン!ドン!ドンドン!ドンドンドン!!」
いよいよ開始の太鼓囃子が聞こえて来た。
「ワー!!」と歓声があがり、出場者の今日の対戦の初戦の説明が行われる。
今日は午前中で2試合づつ計6試合が行われた後に休憩に入り、休憩後に1試合づつ3試合が行われる。
そして、明日が決勝となるのである。
さて、係の者に呼ばれたので試合会場に移動だ。
移動して試合会場に入り対戦相手の伊勢太郎さんと相対し先ずは天子様に向かい一礼し、向かい合う。
全員が構えたのを確認して太鼓の「ドン!」と言う合図が響き試合開始となる。
伊勢太郎さんはあ~やっぱりね、下段に構えた佇まいは信綱師匠で間違いないようだ。
今まで温存していたけどここは流石に何時も通りという事なのかもしれない。
師匠の目が楽しそうに笑っている様に見える。
俺は上段斜めの構えから様子を見る。
師匠は何時もの様な凪いだ様な気勢ではあるがスキがない。
自分の間合いに調整しようとすれば上手く外される・・・う~ん流石は剣聖手強い・・・
如何すべきか考えていると一気に間合いを詰められた。
間合いを詰めるとと共に振り被り袈裟に斬って来る師匠。
それを木刀で薙ぎ払い返しの刀で切り上げる。
それを躱した師匠は更に間合いを詰めて来るので前蹴りで蹴ると予想外だった様でヒットして距離が空く。
危なかった・・・あのまま間合いを詰められたなら負けていたかも・・・
仕切り直しとなるが会場は俺の前蹴りに沸き、「何じゃあの足技は!!」「お~足癖の悪い助平じゃ!!」などの歓声が聞こえてくる。
剣術で足技を使うこともあるが、前蹴りなどを使うことは少ないよね~でも意外と使えるんだよね~ムエタイの試合とかでよく見かける前蹴りだけど、意外と躱し辛いし、目線を下に意識させて上からと言うのは剣術だけではなく格闘技全般に言えるセオリーだからね~
しかし、相手は剣聖だ、一度見せた物は通用しないか変化を付けないと見切られると思っておかないと負けるな・・・
しかし、フェイントとしては使えるだろうと思うからそこは慣れるまでは攪乱として使えそうだ。
流石の師匠も前蹴りには驚いた様で先程と同じような間合いを詰めることは無くなった。
そして、師匠が上段斜めに構える。
俺は逆に下段に構えを変えじりじりと間合いを詰める。
師匠が燕返しを放つ動作をして来た。
俺も更に間合いを詰めて袈裟斬りを受けた瞬間に前蹴りを喰らいよろめく。
う~早速真似て来たか・・・流石は師匠・・・
距離が空いたのでまた仕切り直しとなるが俺も上段に構える。
さて、どうしたものか・・・考えろ!考えるんだ俺!!
師匠の方も前蹴りを警戒して攻めて来ないので少しの睨み合いが発生した。
しかし、目は離せない。
離した瞬間にやられるイメージしか湧かん。
睨み合っているが間合いを細かくお互いに動かしているので動きが全くない訳ではないが、見ている方からすれば膠着した様に見えるのかもしれない。
「動け~」「戦え~」と言うヤジが飛ぶ。
そうこうしている内に「ワー!!」と歓声が沸き「勝者!!
もう一つの試合が決着したようだ。
さて、良い案を思いついた!!
師匠に俺が勝る部分は何かを考えた時、若さと昭和から令和の時代で動画等で色々な事を見たりした験値だと思う。
師匠が思いつかない様な事は何か?
足も手も頭も使った様な総動員したような連撃なら如何か?
そう思うと試してみたくなった。
今までと違い俺は先ず間合いを少しづつ広げて行き一気に間合いを開けて5m程間合いを取った。
そして、今度は師匠に向かって走り出し間合いを詰める。
先ずは大きくジャンプして袈裟斬り。
流石にこれは躱されるがそのまま地面を転がり回転するようにしてかかと落とし。
これは意表をつけた様で腕にヒットし「グッ!」と痛みを堪える様な声が聞こえた。
そのまま足を掴もうとしたがそれは失敗したがそのまま足払いを2回連続で発動したがこれも躱される。
スキに見えたのか師匠が間合いを詰めたのが感じられたのでそれを確認せずに感覚でそのまま背中で体当たりしたが少しかすめる程度で躱された。
しかし、また意表をつけた様で師匠は体勢を崩しスキが出来た。
師匠はそれでも横薙ぎで木刀を振って来る。
その横薙ぎの下を潜るような形で間合いを詰め自分の木刀の切先に手を添えてそのまま首筋に押し当てて勝負を決めた。
「蔵人、お見事」
解ってはいたがやはり信綱師匠だったようだ。
近距離で俺にしか聞こえない位の声でそう言われた。
覆面越しではあるが満足そうな顔をしている様に見える。
「勝者!!丸目四位蔵人!!」
ゲームの連続コンボ技の様な物になったが、師匠に何とか通じた様でホッとした。
勝ち名乗りと同時に「ワー!!」と歓声が上がった。
と言うか、最初の袈裟斬り以外剣術技と言うより格闘技の様な感じになってしまったが、この時代だと見慣れない技だからこそ剣聖に通用したともいえる。
師匠に勝って感無量ではあるが、これで終わった訳ではない、まだ午後から1試合
明日は勝って2試合連取する予定だ。
〇~~~~~~〇
人知れず丸目蔵人が剣聖・上泉信綱に勝った瞬間ですが、このタイミングで剣聖と勝負し勝つと言うビジョンは前々から持っていましたが、剣聖・上泉信綱が表立って負ける姿も見たくないな~と言うジレンマから実は大会が始まる前まで可成り悩みました。
物語の上とは言え上泉信綱と言うレジェンド中のレジェンドが負ける姿は見たくないけど、弟子の師匠越えって浪漫だから見たいな~と言う我儘から生まれたストーリーとなります。
だから敢えてゲームのコンボ技や覆面で正体隠して出場などの小細工を弄しましたが・・・
さて、敢えてここではタイ捨流をうんちくとして取り上げたいと思います。
熊本県の生んだ西日本最大の剣豪・丸目長恵ですが、実は一部ではタイ捨流が一度失伝しています。
残念な事ではありますが、明治になると廃刀令又は帯刀禁止令(1876年)と言う法令が施行されます。
この法令の正式名称は|大礼服並軍人警察官吏等制服着用の外帯刀禁止の
一般人が武器を持ち歩くなと言う法令なので剣術などは自ずと廃れて行きました。
多くの剣術等の武器を使うような武術が煽りを受け明治~昭和期に失伝をしたものなどが多く散見されます。
丸目長恵は肥前(佐賀県)に自ら足を運び教えたことが影響したのか盛んだったようですが、肥前のタイ捨流もこの煽りで失伝したようです。
残念な事です。
しかし、タイ捨流は各地で多くの者に学ばれていたことで完全な失伝は免れた流派で、肥前でも現在は相伝され肥前のタイ捨流は現在は復活したようです。
1963年に「熊本県無形文化財」の指定を受けて、2017年には「日本遺産人吉球磨 構成文化財」に認定され今でも脈々と守り引き継がれているそうです。
是非とも後世に残して頂きたいものですね。
そして、タイ捨流は丸目長恵と言う色々な物に興味を持ち取り入れる人物が作った流派だけあり、神道、仏教、キリスト教、山岳信仰等が混合し、日本古来の刀法に中国武術の「蹴り」なども取り入れた実践向きで特異な剣術と言われています。
要は実践に使えると思えばどんどん色々取り入れた訳ですが、今回使った前蹴りとかも普通に使う流派のようです。
丸目長恵は二十一流派を極めたと言われますが、その中には剣術、槍術、馬術等の武術だけではなく、算術、仕舞、和歌、笛、書、等の武術とは関係ない物も極めた人物で、教養人としても有名なのですが、この物語の初期で簿記を丸目蔵人自身が使いましたが、知ってたらそれも史実で極めそうな人物ですね。
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