第117話

「四位蔵人」

「はっ!」

「今日も楽しみにしておる」


大会主催者として天子様にご挨拶してから早速開始となった。

一応は将来の義理のパパなので天子様も気軽に声を掛けて来るけど、良いのか?

まぁ長い物に巻かれていると思い考えるのを止めた。

早速、オープニングの試合から俺は出るのでその後は試合会場に急ぎ行き出番を待つ。


「ドン!ドン!ドンドン!ドンドンドン!!」


開始の合図の太鼓が勢い良く叩かれて皆に始まりを伝える。

「ワー!!」という大歓声と共に会場は盛り上がりを見せる。

1回戦は2試合づつ行われ、4試合毎に中休憩を入れ12試合行われる。

そう言う訳で俺と寿斎は同時に試合開始となる。

先ず試合場に移動して天子様の居られる櫓に向かって一礼。

そして向かい合って一礼し構えて太鼓の合図を待つ。

相手の小次郎さんは少し短めの木刀を持っている。

小太刀使いなのだろう。

小太刀と言ってもそんなに短い訳ではない。

通常の太刀が全長2尺6寸4分(約80cm)で刃長2尺(約60.6cm)以上位の物を太刀とカテゴライズされる。

おおよそ3尺超えて長い物が大太刀、2尺以下短い物が小太刀と言う。

少し曖昧ではあるが、得物の長さにより微妙に間合いが変わる為にその長さを確認するのも重要な事となる。

俺は全長85㎝位の得物を使用している。

まぁ愛刀のミーちゃんの長さに合わせてあつらえた木刀だ。

一方、小次郎さんの木刀は60㎝有るか無いか位か?

あれも小次郎さんの愛刀の長さに合わせてカスタムしている物なのだろう。

そうこうしている間に「ドン!!」と太鼓が鳴らされて試合が始まった。

相手の小次郎さんは正眼に構え微動だにしない。

俺はもうお馴染みの斜め上段に構えて此方も微動だにせず先ずは相手を観察。

「小次郎様~素敵~!!」と黄色い歓声が飛ぶ。

「負けるなよ助平!!」「好色剣豪行け!!」等と俺への応援とも野次ともつかぬ言葉が飛ぶ。

以外にも、「寿斎様頑張って~」とか一部で寿斎の応援の声も聞こえる。

何だか俺だけ野次られてない?・・・気のせい?・・・今、「動けよ助平!!」と聞こえるが・・・気にするなと?・・・

相手の出方を両方が見合っている一方で、「勝者!!伊勢太郎!!」との勝ち名乗りが聞こえて、片方の試合が幕を閉じたようだ。

「ワー!!」という歓声と共に小次郎さんが間合いを詰めて来た。

まぁ得物が俺のより短いからインファイトした方が有利なので詰めて来るとは思ってたよ。

俺も間合いを詰めてインファイト。

鍔迫り合いが始まった。

「カン!カカン!!」と木刀同士がぶつかり音が鳴る。

音は直ぐに歓声で押し流されるが腕には相手とのぶつかり合いの感触が残る。

攻めては受け、受けては攻めの応酬で観ている者たちのボルテージはどんどん上がって行き声も大きくなって行く。

そして、今まで間合いを詰めていた小次郎さんが後ろに跳ね間合いを開けた。

また少しの間のにらみ合いが始まった。

小次郎さんは少し肩で息をしているので疲れたのかもしれないな。

先程の攻防では俺の場合はある程度の様子見なので息は切れていない。

さて、如何するか?・・・うん!ここはやっぱり何時もの奴ね!!

俺は上段斜めに構えたまま間合いを詰め、袈裟斬りを繰り出す。

流石にこれを躱して反撃に移ろうかとする小次郎さんの木刀が下から跳ね上がって来た俺の木刀に打たれ万歳状態の小次郎さん。

そのまま間合いを更に詰めて木刀を首元に付ける。


「参った・・・」

「勝者!!丸目蔵人!!」


ふ~と息を吐き小次郎さんを見ると「お見事です」と言って来た。


「今の技は?」「あ~秘剣「燕返し」・・・」

「ほほ~秘剣!!「燕返し」!!」


負けたのに嬉しそうにする小次郎さん。

「惜しかったわ~小次郎様~」「よくやった~」という歓声が聞こえる。

「助平お見事!!」「助平良かったぞ~」と言う歓声が聞こえる・・・


★~~~~~~★


噂に聞く丸目四位蔵人殿と早速勝負が出来るとは何たる行幸か!!

噂を聞き遠路遥々えんろはるばる京の都に出向いて来た。

二千を超える者たちが集ったと聞くが凄い盛況ぶりだ。

何でも丸目殿に勝てば200貫もの大金が手に入ると言う。

しかも、天子様の御臨席での試合と聞くではないか!!


「次の方どうぞ~」


受付で事前登録して明日より丸目殿の弟子たちと手合わせをして勝った者が高弟と試合をし、そして、それに勝った者が丸目殿との試合が出来ると言う。

勝ち残りが多い場合は勝ち残り戦なる物で組み合わせで試合をし、その勝者に200貫が渡ると言う。

金も魅力ではあるがどんなつわものと戦えるかそれはそれで楽しみである。

勝ち残る自信はあるが、何にしても相手次第である。

某よりも強い者も居ようからその者と当たれば丸目殿と試合も出来ぬ。

そして野試合が始まった。

幾つもの場に分かれて試合を行う。

某の番となり丸目殿の門下の者と手合わせをした。

無事に勝つことが出来、次なる戦いへと駒を進めることが出来た。

人数が多いという事で、当初から言われておった勝ち残り戦が行われる。

最初は丸目殿とその高弟たちがくじを引く。

丸目殿は「一」と書かれた札を掲げた。

ここで「二」の札を引けば丸目殿と試合か・・・

神仏よ是非とも我に「二」の札を引かせ給え!!

祈りながら札を引けば、見事に「二」の札を引き当てた。

神仏に感謝じゃ!!


「小次郎様~素敵~!!」


昨日から京の若い女子に持て囃されておる。

試合前から某を応援する声がそこかしこと聞こえて来る。

逆に野太い声で「負けるなよ助平!!」「好色剣豪行け!!」等の丸目殿をやじるともつかぬ歓声が聞こえる。

丸目殿を見ると苦笑いをして御座る。

丸目殿と向き合い得物を構える。

丸目殿は某の持つ得物よりも少し長めの物の様である。

此方は小太刀と言ってもいい位の少し短めの物なので当初予定通りに間合いを詰めようと思うたが、隙が見当たらぬ・・・

出来る御仁であると聞いては居った噂以上の人物じゃ!

睨み合っていても埒が明かないが、攻めるにも隙が無い・・・

そんな時に「勝者!!伊勢太郎!!」の勝ち名乗りが聞こえる。

もう片方の試合の決着がついたようである。

その瞬間、一瞬、丸目殿気勢が隣の試合会場へと移る気配!

ここぞとばかりに某は間合いを詰め攻めに出たが、うまく躱されて打ち合いとなった。

相手はまだ余裕が有りそうじゃ。

攻め続けるが攻め切れぬ。

少し息が上がり一息入れる為に間合いを開ける。

相手はあれだけ動いたのに息は・・・切れていないようじゃ・・・

次の瞬間跳ぶように間合いを詰めて袈裟に斬り付けて来る。

粗だけ大振りならば躱せば隙も大きかろうと躱すことへと意識を集める。

躱した!!

そして、間合いを詰めようとした瞬間に下から得物を跳ね上げられた。

見れば相手の得物が首筋に添えられておる。


「参った・・・」


何をされたか予想は付くが、立合って対処の難しき技を繰り出された物よ。


「勝者!!丸目蔵人!!」


見届け人が丸目殿の勝ちを宣告する。


ふ~と息を吐き此方を見詰めて来る丸目殿。


「お見事です」


にっこりと笑う丸目殿は実に清々しき事この上なし。


「今の技は?」

教えて貰えないだろうとは思えたが聞いてみた。


「あ~秘剣「燕返し」・・・」

「ほほ~秘剣!!「燕返し」!!」


燕のような動きの太刀筋か成程の~

某はまだ上があるという事を知り何時の日かこの秘剣を体得しようと心に誓った。


〇~~~~~~〇


さて、丸目蔵人と伊勢太郎がそれぞれ駒を進めました。

作中で得物の長さを語っておりますが、何人の方が気が付いたでしょうか?

愛刀のミーちゃん三池典太光世の長さが語られています。

国宝にして天下五剣の一振り大典太の刀身の長さは65.1㎝と言われています。

しかし、主人公の持つ愛刀のミーちゃん三池典太光世は70㎝と少しです。

これを見抜いた読者の方いたら凄い刀通ですね!!

さて、作中で語った刀の長さですが、基本的には可成り曖昧です。

65.1㎝の大典太も太刀にカテゴライズされます。

では、どう違うのかと言えば、明らかに長い物・短い物は大太刀・小太刀と言いますが、何方とも言える様な長さの物は使う人が太刀と言えば太刀、小太刀と言えば小太刀なのです。

小太刀って脇差わきざしと違うの?と思う方も居ると思いますが、脇差は短刀の一種です。

短刀は一尺(約30㎝)位の物を差してそう呼びます。

太刀(小太刀・太刀・大太刀)と脇差の違いは、用途の違いとも言えます。

短刀は守り刀とも言われます。

自分が自害する時や相手の手柄首を斬り落とす際に使ったようです。

戦場で短刀を抜くと言うのは殆どの場合は決着がついた際の事なのでそれ以外では使いませんが、最後に自分の首を落としたり相手の首を落としたり、はたまた切腹・自害する際の道具なので実は太刀よりも重要視された道具とも言えます。

そう言う理由で子供や女性も懐刀として短刀は所持していたようです。

また、相撲の行司ぎょうじさんは立ち行司さんと言うよく相撲で軍配を持った土俵中央で仕切をする方いますが、この方は短刀を持ちます。

何でも間違った判定を下した場合は切腹すると言う意味で所持している心構えの道具なのです!!

勿論、現代では心構えであって実際に物言いがついたからと言って切腹はしませんが、そう言う気持ちで臨むと言う意思表示の物となります。

前も言いましたが神は血を嫌います。

神事である相撲は血を流すのは本来は駄目なのですから覚悟です!!

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