第108話

九字兼定くじかねさだは刀身が少し長めだな・・・真里使ってみるか?」

「宜しいのですか?」

「飾って眺めて悦に浸るのもいいかもしれんが、刀は使って何ぼだ」

「では使わせて頂きます」


1本目は真里に手渡した。

もう一本はさて・・・

不動国行ふどうくにゆき、刀身は少しだけ短い?


「長師匠」

「春麗欲しいか?」

「欲しい」

「莉里はどうだ?」

「春麗に」

「分った、春麗」


俺は春麗にもう一本を渡した。

さて、次にもし良い品が手に入れば莉里に渡そう。

刀の行く先が決まったが改めて思うが、絶対俺の下にある刀って可成りの逸品だよね?

刀の来歴とか知らんけど本来は歴史的な有名人たちの手を渡り歩く品なのかもしれないが、この世界線では俺の下にある。

さてさて、そんな事を考えたり日々の生活を送っていると、近衛家より手紙が来た。

近衛殿下の妹は三好の者により送り届けられたそうだ。

叔母さんの方は自害されたとかで遺髪と自害時に使われた守り刀が送り届けられたそうだ。

こちらはこの叔母さんの侍女さんが自害後には近衛家に届けて欲しいと伝えられて持って来たそうだ。

元の世界線と同じ結果になったが、俺が干渉しても変わらない事象と言う物は往々にしてあるという事だろう。

自死までは変えることは難しいし、結果を知りつつも変えられないこともある。

更に日々過ごしていると、今度は霜台爺さんよりお役御免のお手紙が来た。

今回の報酬を手紙を持って来た家臣さんに聞かれたので刀を依頼した。

莉里の刀が手に入るだろう。

さて、霜台爺さんの家臣さんに護衛の任を引き継ぎ俺たちは京に戻ることとした。


★~~~~~~★


三好家の重臣たちが居並ぶ場に重苦しい雰囲気が漂う。

御所巻きの末に将軍弑逆を行ったが1万人で囲んで200人余りの者たちを取り囲みなぶり殺しにしたと京雀どもが騒ぎ、更にはたった200人に手を焼き2,000人もの兵を失ったことで「三好は弱い」と言う者たちも出て来た。

楽勝と思ったところに手痛いしっぺ返しを食らったのであろうが、今後の戦などではこの噂は馬鹿に出来ない。

強いからこそ人はそれを恐れて戦う前から萎縮し有利な状況になって行くのだ。

弱いと思われれば侮られ無駄な戦が増えるし、相手が萎縮しないので手古摺ることも出よう。


「久秀殿久しいな」

「長逸殿もご健勝の様子」


場の空気が凍る。

同じ三好の者であるが父の久秀と日向守(三好長逸)殿とは昔から反りが合わない間柄だ。

事あるごとに対立するようなことがしばしば・・・


「して、覚慶様を賊よりお守りしたとか?」

「左様、次の将軍になられるお方かもしれませぬからな~」


一言一言にお互いの間合いを削るが如く探る様にそれでいて大胆に相手を煽る。

父上の一言で更にその場の空気が一段と重くなった。

確かに父上の言うように次に将軍に着く可能性が高い人物として覚慶様は上げられる人物だ。

何と言っても前将軍の弟君・・・

噂では日向守殿が刺客を放ってそれを父上が依頼した護衛の者が退けたなどと言う物がある。

嘘か誠か解らぬが、狙われた事実はあるようだ。


「久秀殿は如何されるおつもりで?」

「それを決めるのは某では無かろう?」

「いや・・・確かにそうじゃが・・・」

「三好家は、今、窮地に立たされておるのじゃ手札が一枚増えて良き事ではございませぬか?」


手札・・・次の将軍を覚慶様にした場合は傀儡と考えているのであろうか?

確かにそう思えば良い手札だ。

しかし、自分の親兄弟の敵を何時までも野放しにしておくだろうか?

前将軍の義輝様はその前の将軍の義晴よしはる様が三好に恨み言を吐いて亡くなった事に端を発し三好家に対して良い印象を持たれず一度は協力体制を取ったが、結局は物別れとなり先の将軍弑逆が起こった。


「次の将軍は阿波の義栄よしひで様を奉じるのが良いと思うが?」

「義輝様の弟君であらせられる覚慶様がおいでなのにですか?」


既に権力闘争は始まっているのだ。

父上以外の三好の者の殆どは義輝様の従弟に当たられる義栄様を奉じる構えのようだ。

義継様は如何お考えなのか?はっきりとは自分のご意見を言われぬ・・・

権力基盤の弱い義継様は自分の主張をあまりされぬお方のようで、今は黙って事の成り行きを見ている。

この話し合いも数度目となるが・・・今回もまた何方と決まらずに終えるようだ。


★~~~~~~★


妹が無事に戻って来た。

いや、無事と言うのが怪我等が無いことを差すのであれば無事なのであろうが、心の傷を負っているようだ。


「私は夫を亡くしましたので尼となります」

「そうでおじゃるか・・・」


妹は尼となった大陽院だいよういんと号し叔母や夫の義輝殿を弔いながら静かに余生を過ごすと言う。

長に頼んだが何とか妹だけでも助かったことに感謝した。

叔母は自分で自分の命を絶った。

息子を亡くしたことに意気消沈しての事であろう。

義輝殿の死を聞き守り刀で髪を切り遺髪として侍女に手渡し、自死した後にその刀も回収して近衛家に持ち込む様にと言付けられたと泣きながらその侍女は語った。

我が父・稙家は意気消沈して塞ぎ込みがちとなった。

持病が悪化して最近では普段の生活にも支障が出始めた。

気落ちばかりはして居れぬ。

朝廷の要職である関白にあるので今は特に多忙である。

それで気が紛れているとも思えるが・・・

長に頼んだ件は見事に長がやり遂げてくれたようではあったが結果は芳しい物では無かった。

しかし、長には苦労を掛けた。

松平の件はしっかりと麿自身が動き良きに取り図ろう。


〇~~~~~~〇


ここから先は以下略、好きな様にお読みください!!


永禄の変の後日談となりましが、先ずは刀の所持者が確定!!

そして、三好家の権力闘争が静に幕を開けました!!

近衛前久が松平の件を上手く取り計らってくれるようです。

次はいよいよ主人公が京に戻り例の伝説を行います!!

史実では丸目蔵人は弟子の丸目寿斎、丸目吉兵衛、木野九郎右衛門を伴い上洛したが、信綱は上野に帰国中であったことでどうしようかと考えます。

実際はそうですが、この物語の主人公は上泉信綱に会ってから京に舞い戻っており、本当の歴史とは違う行動を取っております。

そして、愛宕山、誓願寺、清水寺で「兵法天下一」の高札を掲げて諸国の武芸者や通行人に真剣勝負を挑んだらしいのですが、誰も名乗り出ず勝負することなく帰国したことが伝えられています。

この当時、「「兵法天下一」の高札を掲げて」と言う行動は簡単に言ってしまえば「兵法界で俺の流派が最強じゃ!文句あるならかかってこいや!!」と言うのを情報発信したような物です。

今ならネットを使ったりと色々な方法があるのでしょうが、時は戦国時代ですからと言うと木の看板に文字を書いた物だと思われます。

識字率も低いと思われますので何人がこの看板の事を理解したか不明ですが、事実として人は来ませんでした。

今だったら企画失敗ですね。

現代人感覚の抜け切らない当物語の変人・・・剣豪・丸目蔵人は何か良からぬことを考えている節がありますので・・・

そして、「兵法天下一」の高札の件を知った上泉信綱は、上泉伊勢守信綱の名で「殺人刀太刀」「活人剣太刀」の2つの印可状免許皆伝を書いて与えたようです。

次回は京に主人公が舞い戻ります!!

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