第107話
朝より三好の軍勢が御所を取り囲んだ。
昨日まで勢いは何処へやら、父・進士晴舎は青い顔でその軍勢を見詰めている。
「上様、予定通りに御座います」
「左様か・・・」
上様は既に戦支度が終わり直ぐにでも戦える体制を整えている。
しかし、此方は200人程の者しかいない。
敵は三好勢一万と勝ち目は元より無し。
上様も覚悟を決めた目をしてジッと一点を見詰めておられる。
昨日の内に藤英殿たちは闇に乗じて京を離れているのかもしれない。
上様にも報告したが、「よく手配いたしてくれた」と責める言葉一つも無い。
上様は「討死以外は認めぬ!一人でも多くの三好の者を閻魔の前に案内してやろうぞ!!」と気勢を吐かれたのでここに居る者は殆どの者がその覚悟で事に臨んでいる。
昨日あれほど上様に言い募った我が父は青い顔で覇気は無い。
昨日までの威勢は何処へ鳴りを潜めたのか・・・
「上様、三好側より使者が参りました!!」
「通せ!!」
「はっ!!」
三好側より御所巻きをして何かを要求する使者が来たが、はなから相手にする気はない。
三好側にも無いであろうことは四位蔵人殿より聞き及んでおる。
「して?用件は何じゃ?」
「これに
使者の者は恭しく盆の上の書状を前に置く。
某はその盆を受け取り上様にお渡しする。
上様はゆっくりとした動作でその書状を開き吟味される。
「これを呑めと?」
「はい、お呑み頂けますか?」
「戯けたことを!」
上様が書状を突き返そうとした時に父がその場に飛び出し物申した。
「上様!!」
「おう!美作守何ぞ用か?」
「是非とも内容を吟味されますよう」
「内容に小侍従とその子の誅殺との記載があるが、その方はそれを呑めとでも言うか?」
「いえ、冷静にお考えされる時は必要かと・・・」
「ふん!これを呑もうとて三好の者どもが此方を攻めぬ保証はない!!」
「しかし!!」
「まぁ、よい!美作守よお主が三好と交渉してみよ!!」
父が交渉することとなった。
無駄な事をと思うが、死ぬ運命が変わるとも思えぬが、己の遣りたい事を遣って死ぬるは本望であろうからもう止めはせぬ。
父が交渉をしたいと言うのであれば好きにさせておけばよい。
問題はその際に隙を突かれぬ事ぞ!!
三好の使者と共に父は三好の陣へと向かっていった。
「上様、如何なされます?」
「打って出ても無駄死によの~籠城して敵を迎え撃つと聞こえは良いが、防備も手薄、人は居らぬし守る塀・壁も不完全・・・」
「では敢えて誘い込んで打撃を与えまするか?」
「おお!面白きかな!!」
策として下策かもしれぬが、もうこの段階で上策も下策も無し。
敵を一人でも多く道連れにすることだ。
三好勢の方を見やると種子島を持つ者どもが門に近づいて来ておる様じゃ。
即座に伝令を飛ばしその一団に矢を射かける。
敵兵はバタバタと倒れ伏し侵入を阻止できたようだ。
三好の卑怯者どもが使いそうな手じゃ。
交渉を仄めかしておるのに片方では兵を動かし戦端を開く。
今回は無事に防げたが、時間の問題で有ろう。
父はその後音沙汰がないことを見ると三好側に斬られたか?
交渉など無駄な時間を費やして無念の死か・・・自分の意思で選んだ行動であったであろうが、武士としては犬死としか思えぬ死・・・本望だろうとは言えぬが我が親だ冥福だけは祈ろう。
時間は刻々と過ぎて行き段々と戦う気勢が此方へと寄って来る。
上様も薙刀を片手に持ちジッと身構えておられる。
「報告申し上げる!!」
「申せ!!」
「三好方、間もなくここに攻めて参ります!!」
「相分かった!!」
上様と伝令のやり取りが終わるのを見計ったかのように敵兵が雪崩れ込んで来た。
「居たぞ!!」「あそこだ」と言う敵の声がする。
お目当ての上様を知らせる為の奇声であろう。
上様は立ち上がり前に出られる。
次の瞬間には一兵卒となり敵兵に突っ込んで行かれた。
「上様に続け!!遅れるな!!上様より後に逝くは不忠と知れ!!」
「「「「「おー----!!」」」」」
某の掛け声と共に居並ぶ同僚の幕臣たちも上様の後に続く。
猛攻で一時三好勢を跳ね返したが、被害は甚大。
某も五人目を斬った際に疲れからか不意を突かれ致命傷を受けた。
「藤延!!」
「はぁはぁ・・・上様・・・お先に御免・・・」
そこで某の意識は途絶えた。
★~~~~~~★
今日の飯は俺特性のスタミナ炒め!!
良い肉が手に入ったので寺なんだけど肉野菜の味噌炒めを作っちゃったよ!!
仏様も「粗末はいかん!!」と言われるだろう。
奪われた命は俺たちの糧となり無駄にはしないぞ!!
そんな美味しい昼食の最中に知らせは届いた。
三好が御所巻きから将軍を弑逆したと言う知らせだ。
藤林忍軍の第二陣がやって来た。
大凡10名だ。
その内4名の者にお願いして京の様子を見ていて貰ったのであるが、1人目が三好の軍勢上洛を知らせて来て戻り、2人目が御所巻きからの戦闘開始を知らせて来た。
3人目が将軍弑逆の知らせであるが、200人程の手勢で2,000人程の三好勢を道連れにしたと言う話だ。
10倍のダメージを与えた将軍勢は京の町で流石は武門の長よと秘かに噂になていると4人目が知らせて来た。
俺の知る・・・いや、俺は何人位を葬ったとかそんな詳しいことは知らないけど、三好側の死傷者は、多分、俺が居た元の世界の物より多いのではないかと何となく思えた。
「天啓」として俺が情報をリークしたから万全とは行かないまでも備えがある程度できたことでの結果かもしれないが、元々をよく知らない俺には比較も出来ない。
ただし、噂では将軍様が100人程斬り伏せたなどと言う何その戦〇無双は?と言うような飛んでもニュースもあったようだ・・・
そして、何故か見覚えのある幕臣たちが目の前にいる・・・
「あ~何時ぞやお会いしましたな・・・」
「任官前の御前試合にて・・・」
「あ~そうでしたね・・・」
気まずいとはこの事だろうか?
とても「何しに来たの?」とは言えないが、何しに来たのであろうか?
「某たちは・・・上様にご依頼されて・・・丸目四位蔵人殿をお訪ねした・・・」
「左様で・・・」
「此方、上様よりの書状に御座る」
俺は差し出された書状に目を通す。
内容は事前に三好の襲撃を知らせてくれた事への感謝の言葉と避難できなかったので三好と戦い華々しく散ることが記載あった。
事前連絡の礼として二本の刀を与えるとのことだ。
「上様よりお預かりしております此方もお渡しいたします」
「これは?」
「はい、此方が
「然らば御免!!」
俺は受け取った刀を一本づつ確認していく。
間違いなくいい刀だ!!
元に戻しもう一本を鞘から抜き刀を見詰める。
こちらは
龍の浮き彫りに裏に不動明王の浮き彫りか!何か中二心を誘うかっこよさ!!
両方とも中二装備と言えばそう見える様な刀だ。
確認を終えて元に戻し脇に置くと幕臣の残党君が語りだす。
「申し遅れました、某、細川藤孝と申す」
「それで、将軍様は何と?」
「感謝していると・・・地獄に多くの刀は持ち込めまいから礼に二振り下げ渡すと・・・」
「左様で・・・」
特に礼を言われる程の事はしたつもりはないが、死人に貰った物は返す当ても無し、更には返すなど礼に失するので有難く貰うこととした。
そして例の如く弟子に持たせる予定だが、少し俺も中二心が疼いて欲しくなってしまう・・・おぅと、スマヌ、愛刀のミーちゃん!!
それにしても・・・俺でも知る細川藤孝が此奴か・・・他の者も名前聞けば・・・いや、止めておこう・・・知らないとか俺の底が見えるわ・・・
幕臣たちは覚慶さんにも数本の刀を渡し身を隠す為に去って行った。
覚慶さんは意気消沈してお堂に籠り読経を続けているようだ。
出会いはあれだったが剣豪将軍様の冥福を祈るよ!!
〇~~~~~~〇
ここから先はうんちくと作者の独り言の様な部分ですので必要ない方は飛ばして次の話でもお読み頂ければと存じます。
再三言っておりますが、「〇~~〇」で区切っているので解り易いと思いますので、これからも必要ない方は飛ばし読みどうぞ!!
今回もうんちく聞いていいぞ!!と言う方は是非ともお読み頂きたい!!
永禄の変が完結完結!!
形見分けで2本の刀が主人公の手元に!!
新選組の鬼の副長こと土方歳三の愛刀「和泉守兼定」と同じ刀工集団の作品で、特にこの
作中に書きましたが九字が書かれた何とも中二心を刺激するお作りとなっております!!
タナゴの作者名の所に「之定」とある為、別名ノサダとも呼ばれます。
さて、もう一本は
此方も中二心を
実はこの刀、織田信長が最も気に入っていた刀とも言われます。
しかし、それ以上に所有者として重要なのが松永久秀が永禄の変後にその戦の戦利品としての分け前として貰った刀と言われています。
それを信長に二度目の降伏の際に岐阜で献上品として譲った名品の有名な二振り刀の一本で、「薬研藤四郎」と言う名品と共に献上しています。
そして、本能寺の変の後には安土城に在ったその刀を明智
大徳寺で行われた信長の葬儀で、秀吉自らこの「不動国行」を掲げて参列したと言われます。
その後に家康へ渡る訳です!!
この作品の重要人物が軒並み手にした中二心擽る名品是非とも手に入れたかったのです!!
さて、誰の手に渡るか!!こうご期待!!
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