第77話

兄上に課題の様な謎を投げかけられた。

円匙えんし(スコップの事です)の工夫について聞こうとすれば丁度声を掛けられてそちらに向かおうとした兄上が「どの様に考案したか考えてみろ」と言われた。

単純に普通の円匙えんしよりも丈夫そうである。

普通の円匙えんしは先の部分だけを鉄で作る。

場合によっては全て木で作るが、兄上考案のこの円匙えんしは持ち手の部分と先の部分が鉄で出来ておりそれを木の棒で繋いでいるので間違いなく丈夫である。

しかし、ただそれだけで「」と兄上は言うのであろうか?

あのくわは驚いた。

新しき物と言ってよい。

初めて見る姿形に仰天ぎょうてんし、使ってみればその利便性が直ぐに判った。

それを考案された兄上がただと言うだろうか?・・・

考えても、考えても兄上のといの答えが見つからぬ・・・

夕飯まではもう直ぐだ・・・答えが出ぬままでは・・・


★~~~~~~★


いや~全然思い付かん!!

お兄ちゃん面したいから何か良い事を言おうと思っていたんだけど、皆目思いつかん・・・

スコップなんて農作業が楽になりそうだと思って作らせただけで深い意味はない。

正直にそう言えばよかったと今は思うが・・・

何故、あの時あんな意味深な態度を取ったかと過去の自分を問い詰めたいが、自分の蒔いた種だ・・・刈り取らねばなるまい・・・

そうこう考えていると晩飯の時がやって来た。

頼蔵たかくらを見ると思案顔だ。

俺は顔引き攣ってないよね?


「兄上・・・」

「ん?如何した?」

「いえ・・・あの円匙えんしですが・・・」

「えんし?・・・おお!あれか!!」


やべ~ってスコップの事だよな?・・・

スコップって昔からある物なの?

軍用品として結構近世で使われたと聞いたと思ったんだけど・・・

えんし・・・戦国時代にスコップあったんだ・・・


「兄上、翌々考えたのですが・・・」

「おう・・・そうか・・・」

円匙えんしを壊れ難い様に工夫されたと思うのですが・・・」

「ああ・・・」

「あの鍬の様に初めて見る物でもなく・・・」

「ああ・・・」

「兄上が何をお考えか解りかねます・・・」


あ~俺も知識チートアイテムとか思ってイキってたよ・・・

心の中では今は無い道具で俺知識チート使ってかっこいい!!とかイキってたよ・・・

考えろ!考えるんだ!俺の脳みそフル回転!!・・・「!!」

鳥肌が立つようないい案が浮かびガッツポーズを取りそうになったが何とかこらえたぞ!!


頼蔵たかくら

「何でしょう?兄上」

「その考えることが重要なのだ!」

「考えることですか?」

「そう!何気ない今まである物に対しても少しの工夫がされておるとする」

「はい・・・」

「その工夫は何の為にしたかを考えることにより己の発想を育てることが肝要ぞ」

「な、成程!兄上は某に考える機会をお与えになったんですね!!」

「そ、そうだ・・・」

「流石、兄上!!何でも聞くのではなく自分で考えることが先ずは必要という事ですね!!」

「おう!その通りよ・・・」

「兄上!」

「なんだ?・・・」

「感服しました!!」


ヤフーーーーー!!今回も何とか乗り切った!!

いや~勝手に解釈して補完してくれてありがとう頼蔵たかくら!!

他の弟子たち弟たちも俺の事を尊敬の眼差しで見詰めてくる。

少し胸が痛いが、これからは気を付けよう。

にわか知識で調子に乗っていると恥を掻くことを俺は知った!!

この事を教訓にスコップの件は墓まで持って行こう!!

俺は農家ではなく剣豪であることを思い出し初心に立ち返ることとした。

よし!ある程度弟子が育ったら旅に出よう!!


1年後


弟子たちに新陰流の剣術を伝えられたので更に次のステップに進みたい者と、とりあえずここまでで満足した者とに振り分けた。

更に研鑽を積むと言う者で旅に着いて来れそうな者を選抜すると、寿斎・吉兵衛・九朗の3名が俺に着いて来る意思を示した。

頼蔵は算数の深淵に嵌ったので簿記本渡すとそれに更にめり込んだ。

1年以上神屋に教えたので更に知りたければ博多の神屋に行けと伝え、紹介状も渡したので己の道を突き進むだろう。

さて、他にも元奴隷の女の子の弟子たちは愛以外は着いて来ることとなった。

愛は頼蔵と恋仲となった。

兄ちゃんよりも先に結婚し更には国際結婚となるが祝福するよ。

丸目家は先進的な価値観を持つ家なので父も母も特に反対はない。

父母共に「早く孫の顔が見たい」と言うからな~大賛成の様だ。

他の者は俺と共に九州を周ることとなった。

九州で敵が居なくなってから京へ向かう予定としている。

何だかいつの間にか九州でも俺の名前が有名になったので他の地域からも俺を訪ねて立合いを望む者も出て来た。

今の所は無敗であるのでそれも含めて有名になって来たのかもしれない。

決してその前にやらかした数々の事で有名になった訳ではないはずだ!!

え?そっちはそっちで有名と?・・・気にしたら負けだ!!


「長師匠!私も他の流派の人と立合いしたい!!」

「おう!美羽は立合ってもいい戦い出来そうだな~」

「私も是非!!」

「真里もいい勝負できそうだな」


そう、この一年で女の子の弟子たちは日本語をマスターし剣術も中々の腕前となった。

特に美羽・真里は双璧だろう。

美羽にはやはり剣術の天賦の才があった様でメキメキと腕を上げ、俺の門下で一番の手練れとなった。

そして、それに劣らず秀才の真里も美羽と互角の戦いを演じる程の腕前となった。

弟たちも流石俺のDNAの片割れたちだ、腕前はこの2人の次にたつ。

そして、まだ未知数なのが莉里と春麗だが筋は良さそうだ。

まだ12歳と13歳なのでこれからだろう。

春麗は忍術を教えたら凄く気に入っていたからもしかするとそっち方面に伸びるかも?

莉里は学問程の天才度では無いが姉の真里と同じく基本に忠実で真面目なのでこのまま伸びて欲しいものだ。

咲耶は槍が気に入った様で剣術よりも槍を好むのでその内咲耶を連れて宝蔵院へ行ってみよう。

九朗も寿斎たちに負けていないので門下では上位者となる。

中々の陣容であると自画自賛してしまうが、修行の旅と言うのはウキウキしてしまう。

先ずは日向、そして、薩摩へ行く予定である。

今、九州で落ち着いているのがこの地域であるし、その後は博多に一度行ってからその後に一度師匠に会いに行こうかと思っている。

さて、目指すは日向!!


〇~~~~~~〇


さて、主人公がまた動き出します!

これからまた歴史の色々な部分に絡んできますのでお楽しみいただければと思います。

九州を周る上で6人の人間に会いたいと考えております。

うまく噛み合えば全員コンプできますがさてどうなるか・・・

特に今回はうんちく語る様なものが無いためうんちく無し回となります。

はい、そんなことはありません!!

うんちく語りますね~

スコップ、シャベル、円匙えんし円匙えんぴ色々な呼び名はありますが同じものです。

紀元前にも使われていた様でエジプトの古代遺跡で発見されたとかなんとか。

世界初の塹壕戦ざんごうで総金属作りのスコップが使われたのが624年のことで、この戦いをハンダクの戦いと言います。

この戦いはメッカ連合軍と、ムハンマドを受け入れたメディナの間の戦でイスラム教では聖戦の一つに数えられる重要な戦いです。

ここで面白いのが塹壕でしょう。

古代で塹壕?何それ?て思うでしょ?実はこの塹壕を使い騎兵を封じ、数的不利を相手を塹壕に誘い込むことで覆したようです。

更に伝統的にこの時代は一騎打ちの文化があり野戦で一騎打ちと言うのが伝統であったのに対しムハンマドたちは塹壕による攻城戦を仕掛けた訳ですから敵側は驚いたことと思われます。

それともう一つこの戦いの面白い所はユダヤ人が関わっていることです。

当初ユダヤ教徒はメディナ側に味方していました。

しかし、戦いが長引くとメッカ連合軍側が内部攪乱かくらんを画策してユダヤ教徒にそれを持ち掛けます。

ユダヤ教徒はメッカ側に人質を要求しますがメッカ側は難色を示し話がこじれて結局は成功しませんでした。

この戦いを機に急速にイスラムが勢力を伸ばす結果となります。

スコップからイスラムの聖戦に話を持ってくるとは思わなかったでしょ!!

では次回、日向に三位入道殿にご対面しに行きます!!

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