第70話
私たちの事は奴隷としてではなく弟子として買い取ったから奴隷ではないと言う長師匠。
「弟子とは何の弟子?」と聞けば「何でも好きな事をしろ」と言う。
好きな事と言われても今まで奴隷として生活して来たので何をして良いか解らない。
とりあえず、長師匠について回ることとした。
長師匠の一日は早い。
朝は日の昇らぬ内より起き出して稽古着と長師匠が言う汚れてもいい格好に着替えられ、顔を洗った後はひたすら朝日が昇るまで棒を振る事から始められる。
最初は何をやっているのか解らなかったが見ていると決まった動作を繰り返しすることにより動きを確認していることが分かった。
太陽が山の裾野より顔を出すと太陽に向かって2回頭を下げて2回手を叩き1回頭を下げられた。
「長師匠、今の何?」
「おう!今のは太陽の神にご挨拶した」
「太陽の神?」
「そう、それより何時から見てたんだ?」
「長師匠が起きてから?」
「ちゃんと寝てるか?」
「ちゃんと寝てます」
「おう!それならいい」
「そんな事より太陽の神って何ですか?」
長師匠は色々教えてくれた。
この国は
ジャパンとも言うらしいのだが、何故全く違う名前なのか聞くと、別の国からはそう呼ばれていると教えてくれた。
日ノ本には沢山の神が居てその中でも一番の神が太陽の神らしい。
確かに多くの神々を祭る国も多いと聞くが、私の国では神と言えば唯一無二だった。
「真里はキリスト教徒か?」
「はい・・・でも・・・」
「如何した?」
「私たち姉妹はキリスト教の宣教師に売られて奴隷になりました・・・」
「あ~この時代のキリスト教は滅茶苦茶だからな」
「この時代?」
「まぁ今のこの世の中という事だ」
師匠はまるで他の時も知っているような口ぶりで話される。
不思議ではあるが、
多分、神から色々な時の事とか私たちの知らないことを沢山教えられているのかもしれない。
イエス様は「汝の敵を愛せ」と言われたと昔、司祭から聞いたが私たち姉妹を奴隷に落とした宣教師は許せそうにないし、会えば必ず殺してやる。
キリスト教に対して疑念を今感じている。
綺麗ごとを言っていたあの宣教師は私たち家族を騙し父母を殺し、私と妹を奴隷に落とした。
そして、奴隷になって如何にあの宗教の行っていることが酷い事かを肌で知った。
「イエス様は何故あんな酷いことを許しているのです?」
「酷い事?」
「そう、奴隷を作ること・・・」
長師匠はイエス様では無いから答えられないと思いつつもこの人なら何か答えを持っているのではないかと思えてならない私は変な質問をしてしまった。
「おう!中々に深いことを聞いて来るな~」
「深い?」
「あ~そうだな・・・奴隷と言うのはイエスが生れる前からあるものだ」
「そうなのですか?」
「おう!イエスよりもずっと歴史ある社会の仕組みだ」
「社会の仕組み・・・」
「そうだ、しかしな~俺はその仕組みが好かぬ」
「私も嫌い」
長師匠は話しながら汗を拭いていたが拭き終わったようでそのまま地面に腰を下ろし話を続けられた。
「社会の仕組みだから奴隷になった者か奴隷の無い所の者でないとその酷さが解らぬ」
「当たり前だから気が付かないってことですか?」
「そう!」
長師匠は水を飲みながら更に話を続けられる。
「イエス様が許しているのではなく皆が奴隷と言うのは当たり前と思って悪いことだとは考えてすらいない」
「考えてすらいない・・・」
「イエス様の考えは俺には解らぬが」
「長師匠は神と話せるんじゃないの?」
気まずそうな顔を一瞬されたが何だろうか?
少し考えられてから話を続けられた。
「話せるとしてもそんな物は何の価値も無いと思うぞ」
「そんなことは無いと思うのですけど・・・」
「じゃあ若しも神が「死ね」と言ったら従うのか?」
「神が死ね?・・・」
「要は自分の意思で選択するかどうかだ、神が助言をくれたとしてもそれを行うのは人だ」
「従わなくてもいいと言う事?」
「自分の運命は自分で決めるものじゃないかな?」
「自分で決める・・・」
「少し話が逸れたが、奴隷の制度が悪いと思うなら」
「悪いと思うなら?」
「それに
「抗う力・・・」
「力も色々あるからな~まぁ少しづつ色々教えてやるよ」
長師匠はそう言うと立ち上がり私の頭を軽く撫でると「皆も起こして来い」と言い着替えにご自分の部屋に戻られた。
〇~~~~~~〇
今回は真里(元白人種の奴隷)の目線でのお話でした!!
奴隷制度、根深いですがこの戦国期は当たり前の様に世界では奴隷が売り買いされていました。
さて、戦国期は南蛮貿易が行われたりする関係で、奴隷が入ってきましたが、日本人もかなりの数の人々が奴隷として海外に売られていきました。
特に甲斐武田は人買いと呼ばれる者に敵方の領民などを売り払って資金を捻出していた為、かなりの数の奴隷を作ったと言えますが、甲斐武田家だけが特別という訳ではなく、どの戦国大名も行っていました。
しかし、秀吉が九州に上陸したことで情勢が変わります。
秀吉の最大の功績と言われる奴隷販売の禁止に繋がるバテレン追放令(1587年)が先ず施行されます。
何故、追放令が最大の功績に繋がるのか?というと、日本人の奴隷を海外に売っていたことを知った秀吉は当時のイエズス会の日本における最高責任者であったガスパール・コエリョに4箇条の質問をします。
1、何故、熱心に日本人をキリシタンにしようとするのか?
2、何故、神社仏閣を破壊し、他宗教の坊主を迫害するのか?
3、何故、牛馬食べようとするのか?
4、何故、ポルトガル人は多数の日本人を買い、奴隷として国外へ連れて行くようなことをするのか?
と言うものです。
実際に奴隷として売られた日本人の数は推定ではありますが5万人と言われています。
あくまでも推定で多分はもっと多いでしょう。
前話で話したミゲル君一行はローマで若い日本人女性が何人も奴隷として普通に売られていく姿を見た様です。
秀吉は九州征伐の折にこの事を知り、ガスパール・コエリョに対し、四箇条の質問と共に日本人奴隷の売買を即刻停止するよう命じ、「売られてしまった日本人を連れ戻すこと。無理なら助けられる者たちを買い戻せ」的なことを伝えたと言われています。
そして、即座に国内で奴隷販売を禁止しました。
しかし、結局色々あり奴隷販売は続けられたのですが、それを知った秀吉は更に行動に出ます。
それによりポルトガルの日本人奴隷の交易はオワコンします。
しかし、南蛮貿易は旨味有ったので数年後には秀吉も奴隷販売以外の部分は通常に戻しキリスト教はまた復権したようです。
さて、秀吉はバテレン追放令などからキリシタン弾圧のイメージが強いと思いますが実は見せしめにしたのは1件のみで、それは歴史的にはサン・フェリペ号事件と言われています。
1596年にフィリピンからメキシコに向かっていたこの船が嵐に会い日本(土佐国浦戸)に漂着したらしいのですが、最終的にスペイン人の宣教師・修道士6人を含む26人が長崎で処刑されました。
何故処刑されたか?・・・実は尋問した乗組員からとんでもないことを言われたやイエズス会の宣教師が日本を侵略する為に測量に来た船だと言ったとか、当時これに対応した奉行の増田長盛がやらかした結果など色々な説があります。
しかし、史実としてサン・フェリペ号の搭乗員は処刑されました。
そして、事実として再度、禁教令が出され京都や大坂にいたフランシスコ会のペトロ・バウチスタなど宣教師3人と修道士3人、および日本人信徒20人が捕らえられ、彼らは長崎に送られて1597年に処刑されました。
これを日本二十六聖人殉教と言われますが・・・
この一連の流れはポルトガルよりも露骨に日本の植民地化を推し進めてくるスペインに対する秀吉の見せしめであったと言われます。
ただし、イエズス会(ポルトガル)側には実は秀吉による直接的な迫害はないのですよね~さて、これは勿論、伏線です!!
言っておきます、伏線です!!
秀吉、奴隷、キリスト教に主人公!!
まだ先の先ですがここはポイントです!!
テストに出ます!!(知らんけど)
次話、主人公目線に戻りま~す。
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