第53話

師匠は何時もの様に下段に構えている。

相手の井・・・吉岡さんは正眼に構えている。

え?名前間違ったって?・・・何のことだかさっぱり意味が解りません!

お前も立合いに集中しろよな!!


「では、御免!!」


一言発すると吉岡さんがスーっと間合いを詰めて攻勢に出る。

師匠は相変わらず後の先で向い打つようだ。

それにしても将軍家兵法指南と言うのも伊達ではないな。

おっと、この時代は伊達って言葉は無いからこの時代にとか言っても通用しないぞ~そもそもこの言葉は・・・うんちく語らず試合の実況PLZだと!

はいはい分かりました~・・・あ~そのセリフ聞き飽きたわ~

さて、吉岡さんの足捌きは見事である。

すり足で基本に忠実な間合い詰めで一気に近づき首筋に向けて袈裟斬り。

本当に基本的で美しい流れるような動きで師匠に攻撃するが、師匠はその攻撃に軽く自分の木刀を添わせるように当てて相手の切っ先を逸らす。

流石剣聖としか言いようがないね~それだけで相手が大きくバランスを崩した。

師匠はすかさず相手の頭の上に木刀を置くような形で添える。


「ま・・・参った・・・」


師匠はスーっと間合いを外してから将軍様に向かって一礼する。


「上泉殿!もう一手!!」


吉岡さんは再戦を師匠にお願いすると師匠は「うむ」と頷きまた下段に構える。

吉岡さんも同じくまた正眼の構え。

特に誰かが声を掛けなくても始まったことがその場の気勢で解るが、師匠は自然体で殺気など微塵もない。

相手は今度こそと言うように闘気と殺気が入り混じる様な気勢を飛ばしてくる。

今度はどうするのかと思うとまた吉岡さんが素早く間合いを詰める。

今度は突きを放って来た。

師匠はその突きをまるで巻き上げる様にして相手の木刀を天高くに放り投げた。

剣道で言う巻き上げと言う技だね~

逆に巻き落としと言う下に落とさせる技もあるが、原理は同じ。

上か下かってだけ。

普通は相手の得物を奪う程の物では無いんだけど師匠だと相手の得物奪うまでの威力に昇華してしまう。

剣豪の中の剣豪、流石剣聖だね~惚れ惚れする技前だね~

大技決めても涼しい顔の師匠・・・Coolだ!!

それと対照的に更にメラメラと燃え上がる様な気勢を放ち木刀を手放してしまった吉岡さんは悔しそうに師匠を見詰め「参った・・・が、もう一手お願いできるか?」と言って来た。

チラリと将軍様たちの方を見ると相当に驚いているようだ。

決して吉岡さんが弱い訳じゃないよ~師匠が強過ぎるの。

師匠はまた頷いているが、今度は自分の木刀を相手に渡して間合いを離す。


「上泉殿・・・木刀を某に渡したはいいが、そちらは木刀をご用意されてないが?」

「当方は官位を賜るに相応しい腕を披露するためにここに立っており申す。然らば、得物えもの(武器の事です)すら持たずとも某が編み出した新陰流が凄い、官位に相当すると言う物をお見せしたいかと・・・存ずる」


おお!!口下手の師匠の長台詞頂きました!!

え?そこちゃうやろうって?はいな~ここは定番の無刀取むとうどりちゃうかな~って読んでる読者も解ってると思うよ?説明いる?ねえ、いる?・・・今回は天の声に勝った!!(心の中でガッツポーズ!!)


「では、いいのですな?」

「何時でもどうぞ」


吉岡さんが今度は斜め上に木刀を構える。

師匠は腰を落とし半身になり片手を突き出す様な形で相手の攻撃を待つ。

先程と同じく素早い足捌きで間合いを詰め斜め上から渾身の袈裟斬りを放つ吉岡さんに対し、師匠は前に突き出していた手でその木刀の横っ腹に手を添えて相手の攻撃を逸らす。

そして、バランスを崩したところですかさずもう一方の手も木刀の反対側の腹に手を添えて両手で挟むようにして体を捻り相手の手から木刀を捥ぎ取った。


必殺!無刀取り!!ここにご披露である!!


辺りは静寂に包まれるが、ふと将軍様を見るとワナワナとしている。

如何した?変な持病持ちか?そう思っていると、立ち上がり拍手!


「上泉信綱!見事!!」


お~これが巷に聞くスタンディングオベーション!!

それに釣られ他の観客たちも「お見事!!」と師匠に言葉を投げかける。

師匠は一礼して投げ飛ばすような格好となった吉岡さんを助け起こす。

は~いい試合を見た!!

確かに師匠が圧倒したが、吉岡さんが弱かったからではない。

何度も言うが、師匠が強すぎるのだ!!


次回、主人公に危機が!!


〇~~~~~~〇


無刀取りは実際は柳生石舟斎が使ったと言われる新陰流の奥義の1つです。

徳川家康と会った時に見せたと言われています。

上泉信綱が敢えて出しました!!

信綱が石舟斎に対して印可を渡す条件がこの無刀取りだとも言われています。

そしてここで公に無刀取りを信綱が使ったのか?それは何故か?それは一応伏線ですね~後々の為です!!


剣豪将軍の足利義輝は剣術大好きという事もあり異常なまでの無類の刀コレクターでした。

勿論、足利家所有の物も沢山あります。

前に紹介した大般若長光もその1つです。

しかし、足利義輝の愛刀と言えば「基近造もとちかぞう」が有名です。

福岡一文字派の基近さんが作った太刀です。

名前の由来?まんまですね~

特徴は猪首切先いくびきっさきと呼ばれる切先が猪の首みたいに詰った感じで太刀を作成する時は鋼を折り返したりするのですがそれが刃紋になります。

しかし、この刀は表裏の刃紋が殆ど均一で、乱れが無い美しい太刀らしいです。

足利義輝がこの刀を最も好んだとも言われますが、名刀は数々持っている中でもお気に入りのこの「基近造もとちかぞう」はどんだけ高い技術の粋が詰っているんでしょうね?

マジで職人さん凄いです!!

刀の話を何故?と思うでしょ?それは、そろそろ主人公の刀登場させたいな~とか思っている前振りですが、少し考えているのですが、何を持たせると面白いですかね?

まだ決めておりませんが、その内面白そうな刀持たせます!!

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