第29話

(方言は適当なのでお許しを)


「うう・・・昨日は飲み過ぎただ・・・」


朝起きると頭が割れるように痛い。

昨日行きつけの飲み屋で知り合った若い武芸者と飲み明かしたのだが、最後の方は記憶が飛び飛びじゃ。

ただし、途中の相談は覚えちょる。

長さんの言うように、今川方に加担しても何の旨味も無い。

武士になると決めた時出世をして一国一城の主を目指すと誓ったが、長さんからは「目標とは高くするから意味がある」と言われた。

「一国一城を目指すより、もっと大きな目標を持てよ」と言われた。

「じゃあ長さんは何を目指すだ?」と聞いたら世界最強の剣士と言う。

世界ってなんじゃ?という気持ちが顔に出ていたのだろう世界という物を教えてもろた。

この日ノ本は小さい島国で世界は大きな水たまりの海を隔てその向こう側に広がっとると言うちょった。

「嘘こくでねぇ」と言えば「伴天連の宣教師を知っているか?」と聞いてくる。

「馬鹿にするな」と言えば「知っているのなら話が早い」と言いあの者共が何処から来て何をしておるかを教えてもろた。

本当に物知りじゃ。

「何を目指すかはゆっくり考えるとよい」と言われた。

「酔っぱらっている今決めても面白いがな」とも言うておった。

一体どっちじゃ!!

「オラは日吉丸と言う幼名を付けられたから、日ノ本のもん幸運と思えるような国造りの礎になる!!」とその場の勢いで言うてもうた。

長さんは大いに笑い「良い目標じゃ」と褒めてくれよった。

う~やはり飲み過ぎじゃ、頭が割れるように痛い。

登城すると信長様より呼び出しとのこと。

何ぞオラに用だか?とりあえず行ってみんべ~


「まだ酒が抜けておらぬようじゃな」

「は!面目次第もねぇこってす」

「まぁよい・・・」

「何ぞ御用でしょうか?」

「おお、ご用があるから呼んだのよ」

「へえ・・・」

「禿ネズミと呼ばれるのは嫌いと聞いたが」

「え?そ、それは何処でお聞きに?」

「まぁそれはよい」

「そ、そうですか・・・」


背中に冷たい汗が流れる。

まさか、誰かに聞かれた・・・それともあの長と言う者はもしかして信長様の間諜?


「如何した?」

「いえ・・・」

「何か言う事はあるか?」

「へえ!」

「言ってみよ」

「オラ・・・某は」

「言葉を飾る必要なし!有りの侭に述べよ」

「オラは今川方の間諜です」

「ほう、それを言うという事は覚悟あってのことか?」

「へえ、覚悟してお話しております」

「左様か」

「へえ、オラは今川家の松下様の配下で、数年後の上洛時の案内役として尾張に潜り込むようにと命じられてここに来ちょります」

「ほう」

「然しながら、昨日一緒に飲んだ者から信長様にそのまま仕え逆に今川方の内情を信長様に伝える者となれと言われました」

「それでその方は如何するのじゃ?」

「へえ、オラは出世しとうごぜぇます。だから信長様にお仕えして今川方の情報を信長様にお伝えします」

「相分かった、猿よ!励め!!」

「へ、へえ!!」


額を床に付け深々と首を下げると信長様が愉快そうに高笑いをしてござった。


★~~~~~~★


昨日はお忍びで市中に遊びに出向いた。

何時もは傾いた格好で出歩くのだが今回は趣向を変えて普通の町の者と同じ格好で出歩いたがこれがまた面白い。

誰も気付きよらん。

偶々入った飲み屋で酒を飲んでおると、禿ネズミがいつの間にかおり見知らぬ者と酒を酌み交わしておる。

あ奴は今川の間諜だと目星を付けておったがとうとう尻尾を出しよったと思えば、ただのたまたま知り合った者と飲んでいるだけだったようだ。


「あのさ~信長様がオラの事、禿ネズミとか言うんすよ~」


え?嫌だったのか?早ように言えばいいものを・・・


「お前さん信長の家臣なの?あはははは~ウケる~禿げたネズミ!どっちかっというと猿だよね~」


確かに猿じゃ。


「お前さんも大概言うね~」

「え?禿ネズミと猿ってどっちがいい?」

「そりゃ~・・・猿?」


うう、それはすまぬがもう今更じゃ。


「猿は縁起良いぞ~」

「へ~縁起良いのか?」

「尾張と言えば熱田神宮とか色々あるけど猿田彦さるたひこだろうが!!」

「へ?何それ?」


儂も聞いたことも無い。


「あれ~?」

「それで、猿田彦がどうしたって?」

「おう、猿田彦って神様知ってるか?」

「名前だけはな~」

「おう、じゃあ教えてやるから聞いとけ」

「おう」

猿田彦神さるたひこのかみはあの天孫降臨てんそんこうりんで天照大神様より使わされた邇邇芸命ににぎのみことを案内した国津神くにつかみよ!」

「ほう」

「案内とは呼び込むってことで《勝を呼び込む》てことで戦勝の神よ!!知らんけど!!わはははは~」

「おお!何か解らんけど、猿いい!!」

「おう、そうだろ~そうだろ~」


ただの酔っぱらいの戯言か・・・

しかし、明日からは禿ネズミではなく猿と呼んで使わそう・・・

お互いに一気に酒を飲み干すと大声で笑いあっておったが急に雲行きが怪しくなる。


「そんな物知りの長さんに相談あるんだけど?」

「何でも聞いてくれよお猿さん!!」

「実はオラ、今川の松下様って方に仕えていてな」


な、何と!!


「え?信長に仕えているんじゃないの?」

「一応は・・・仕えてる?」

「何じゃそりゃ・・・あ~間諜ってこと?」

「まぁ有体に言えば・・・」


やはり間諜・・・先ほど疑いを解いていただけに気持ちが揺らぐわ。

出て行ってたたっ斬ってやろうかと思っておると、まだ続くようだ。

斬るのは何時でもできることじゃ。


「は~で?相談とは?」

「おう、・・・信長様にこのまま使えようかそれとも松下様の命通りに情報を流すか考えちょる」

「ふ~ん・・・まぁ俺なら信長一択!!」


ほう、中々目の肥えた御仁じゃ!!

儂の事を高く買っておるのじゃろう。

さっきから呼び捨てで、信長、信長言うのは頂けぬが・・・


「え?何でじゃ?」

「今川の方に味方してもお前の手柄ってどれほどよ?」

「それは・・・」

「それよりも逆に信長に有りの侭の事を話して」

「そ、そんな事したら殺さるわ!!」


まぁ何もなくそれだけ言えば斬る!!


「まぁ聞け!」

「お、おう・・・」

「さっきの事を信長に話した後に即座にこう提案しろ。逆に今川の内部情報を流しますてな」

「え?それは~・・・」

「どうせ数年の内に尾張に今川が攻めてくる時の為の案内要員か何かだろ?」


今川が数年の内に攻めてくる?

この御仁何処から情報を・・・


「うう・・・」

「そんなのやっても手柄なんて雀の涙」

「解っちょるが・・・」

「いいや、解ってないね~信長が勝てばお前の立場どうなる?」

「立場?」

「おう!今川に味方しても立場は変わらんが、信長に味方して信長勝てば」

「勝てば?」

「間違いなく上から数えた方が早いほどの大手柄よ!!」


確かにその通りじゃ。

元敵であろうと関係なし、それとは評価の物差しが違う。


「おお!!」

「俺の予想だと間違いなく信長が勝つぞ!!」

「なんぞ理由でもあるんけ?」


そうよ、理由を述べよ!!


「そんなもんは運が良いからよ!!」


そう言って大笑いした後は禿ネズミが幾ら聞いても教えなんだ。

さて、明日禿ネズミと話すか、明日からは猿と呼ぼうぞ。


★~~~~~~★

作品本編と関係はございませんが、本来は尾張の後は加賀経由で上泉信綱に弟子入りしに行く予定としておりましたが、能登半島地震の被災者の方々の気持ちを考慮して三河の方を通り信綱に弟子入りする話に変更致しました。

能登半島地震の被災者の方々には「頑張ってください」と言うのは既に頑張ってあるであろう皆様に何だか失礼かと思いますので「応援しております!!」と在り来りの事ですが申し上げさせて頂きます。

本当に応援しております。

本来は加賀の一向一揆に対し大暴れ予定でしたが今回は大幅に変更をする関係上、経路も今川→北条となり本来考えたものと全く違う構成となる予定なので少し考えるのに時間が掛かるかもしれませんので先にお知らせをさせて頂きます。

今川家までは今大凡考えておりますが問題はその後なので、何話かの後UPが遅れた場合は読者の皆様にはお待ち頂けると有難いです。


大まかには上記となりますが少し詳しくは近況ノート「お陰様で歴史・時代・伝奇の週間ランキング 10位です!!」に記載しておりますので気になる方はお読みください。(※大体内容は同じです。)

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