第27話

山科様に叱責されて皮のコートと簿記の教本的何かを献上する運びとなったのだが、その後に話したら実は前天子様は崩御ほうぎょ(天皇陛下が亡くなること)されているが践祚せんそ(天皇の位を継ぐこと)はしたが大喪たいそうの礼(亡くなった天皇のお葬式)も即位の礼(正式に位を継ぐ儀式)はまだとのこと。

そう言えばこの時代の朝廷は金がなくて数年がかりでこの2つを行ったって聞いたな~天皇陛下・・・違った、今は天子様か、まぁどっちでもいいか~凄く可哀想と言うか残念極まりない。

何とかしたいが先立つものが・・・


「宗さん、壺って1個幾ら?」

「1壺で三千貫位ですね~」

「残り2壺だっけ?」

「はい、そうですね・・・まさか!!」

「換金して献上しちゃって」

「ぜ、全額ですか!!」

「おうともさ~あんな物はあぶく銭!食うに困らなければ問題なし!それに、紹さんも宗さんもこれから援助してくれるって言うし壺無くても困らないよね?」

「困る困らないかで言えば私もあなたに困る様な援助はする気ないですし紹策さんもそうでしょうし助五郎も同じくだと思いますよ」

「じゃあ全く問題なし!!」


壺は俺の手元から消えるが豚に真珠だしね~ここは漢を見せる時!!

あ~山科様がポカーンとしてます。

まだ状況把握できてないんでしょうね~


「長よ・・・本当に良いのか?」

「え?何か問題ですか?」

「問題と言えば大問題じゃが・・・正直助かる」

「それは良かった」

「丸目蔵人佐長恵殿、感謝つかまつる!!」


山科様は恭しく頭を下げ、目には涙を讃えていた。

金は天下の回り物と言うし、国の象徴たる天子様が葬式出来ない即位できないじゃ~国の恥だよ!!

この噂は直ぐに堺の町に流布した。

そして、堺で広まれば直ぐに全国に飛び火する。

文通相手の小早川君に経緯を説明する手紙を出したから毛利家は全国で一早く献金を申し出て五千貫もの献金をした。

小早川さんから「あなたには負けましたが今、我が家で出来る最高の献金をさせていただきました」的な返しの文が届いた。

その後は続々と献金された為、直ぐに葬式と即位式を執り行えると大喜びして山科様は後日お礼に来たよ。

あ~勿論、霜台爺さんにも「俺が金出してるのに今天下を治めているって言っていい三好さんが金出さないとか恥ずかしく無いの?」的に煽ったので大名の中で最高額の献金を三好家は行った様だ。

集まった金額は空前の金額となり朝廷の会計さんは嬉しい悲鳴と共に仕事に追われたことは言うまでもない。

山科様が俺にお礼がしたいが?と言ってきたが、お礼目当てでもないので「上泉殿への紹介が最高のお礼です」と再度言っておいたので間違いなく紹介してもらえること間違いなしだ!!


(戦国時代の逸話で一番残念に感じたのが後奈良天皇の大喪の礼の話です。この天皇様は、清廉潔白な方で位を目当てに裏取引で献金したお金を突っ返した逸話の残る方で、本当に戦国の世を憂い自分の出来る範囲で精一杯努力した方だと思うので葬式すら直ぐにあげられなかったのは聞いた時に非常に残念に感じたものでした。物語の中だけでは早めに葬式を!!と思い盛込みました。)


★~~~~~~★


顕如めの願いで知り合うことになった丸目蔵人佐長恵と言う武士は知れば知るほど面白く、好感が持てる。

人たらしと言うのはああいう者の事を指して言うのであろう。

しかし、あ奴には味方も多いが敵も多い。

力無き公家ではあるがあ奴の望む兵法修行には是非とも協力してやりたいものである。

納屋へよく通うようになったが、あ奴は商人に何やら変わったことを教えていると聞き見学がてらにその様子を見れば凄まじく高度な算術を駆使しておる上に、そろばんと言う器具を使い計算も速やかに行うと言う。

公家で羽林家の一員である儂はそれなりの高度な教育を受けて来た自負があるが、こと算術に関しては長のやることに遠く及ばない。

聞けばまだまだこれはこれから教える簿記なる技の前段階と言うではないか!!

に恐ろしき事よ!

長の書いたという簿記の秘伝書を見ればその高度な技が如何に洗練された物かが解る。

何という事だ!これは後世に残すべき宝だ!!

儂は即座に無理を押して借用できないか長に問うと、簡単に「どうぞ」と言い借用を認める。

こ奴、本当にこの秘儀の重要性を理解しておるのか?

まぁよい、納屋の店主の今井に聞けば、何でもこれは長が幼少の折に天狗様より授けられた秘伝と言うではないか!!

長と知り合ってから驚きの連続である。

これは写本した後は清書して主上に奏上すべき物よ。

寒くなって来た折に納屋より皮の外套が届いた。

長曰く、「偉い人が着ていれば皆が欲しがるので是非着て欲しい」と言ってくる。

長の知り合いで一番偉いのが儂らしいので儂が着ることが納屋の利益になるらしい。

送られて来た物は白いウサギの皮を縫い合わせて外套にしたものでこ洒落ておる。

袖を通せば暖かし、実に良い!!

白は汚れ易いという事で家様にと革地鞍かわじゃんなる物も一緒に送って寄越してきた。

こちらは鞣した皮で出来た着物じゃ。

上に羽織るとこちらも暖かし!!

それにしても、くらでも無いのに何故に皮地かわじくら革地鞍かわじゃんなのか?あ奴の頭の中は奇天烈怪奇の摩訶不思議じゃ。

写本も済んだし長に返しに行くがてら主上に奏上する件も伝えておかなければなるまい。


「長、借りとった物を返しに来たぞ」

「あ、山科様も皮の外套がいとうっすか・・・」

「これは良いの~暖かいし見た目も洒落とる」


気軽に話しかけてくるがそれを許しているのは儂じゃしこ奴との付き合いはこれで良い。


「長よ新しい良き物は主上に先ずお納めせんといかんぞ!」

「はぁ?主上って天子様?」

「そうじゃ!」


察しの悪い奴め、納屋はどうやら気が付いたようじゃが・・・


「納屋よ頼んだぞ」

「は!よろしくお願いいたします!!」

「うむ、それで、長よ」


流石は納屋と言うべきかツーと言えばカーと言う具合に言わずとも察する。

しかし、長、此奴は解っておらん様でホケーとしとる。


「何じゃ!今の話を聞いておらなんだか?」

「え?皮の外套は天子様に献上しないと駄目ってことですよね?」

阿呆あほうめ、新しき良き物じゃ!」


理解半分と言うところか・・・


「お主はこれを主上にお納めするべきじゃ!!」

「え?それって簿記の教本的な物ですよ?」

「そうじゃ!これじゃ!!」


「何言っているの?」みたいな顔をしよるが「何を考えとる?」と言いたいのは儂じゃ。


「これを軽く読ませてもらったが、凄い知識じゃ!」

「そんなに褒めないでくださいよ~照れるじゃないですか~」


照れて頭をかく阿呆が目の前に居る。


阿呆あほう、褒めとるが褒めとらん!!」

「え~どっちですか~」


褒めたいが褒める気になれんのが悩ましい。


「これをちゃんと清書して主上にお納めしろ!!」

「え?何言っちゃってるんですか山科様、ボケるのはまだ早くないですか?」

「失礼なやっちゃな~まぁ良い、兎に角そういう事や」


その後は儂が清書して皮の外套と共に主上へ献上する運びとなった。

来たのでその後は世間話をしたのであるが、ついつい愚痴を漏らしてしまった。

一介の兵法修行者である長に言っても詮無き事である。

しかし、儂の考えを余所に長と納屋が何やら話始めるが話についていけぬ。


「宗さん、壺って1個幾ら?」

「1壺で三千貫位ですね~」

「残り2壺だっけ?」

「はい、そうですね・・・まさか!!」

「換金して献上しちゃって」

「ぜ、全額ですか!!」

「おうともさ~あんな物はあぶく銭!食うに困らなければ問題なし!それに、紹さんも宗さんもこれから援助してくれるって言うし壺無くても困らないよね?」

「困る困らないかで言えば私もあなたに困る様な援助はする気ないですし紹策さんもそうでしょうし助五郎も同じくだと思いますよ」

「じゃあ全く問題なし!!」


はぁ?今話題の呂宋壺を売り払いその銭を献上?それも全額?何を言っておるのじゃ?

あまりの事に呆けておったが理解が及ぶと本当に良いのか?と思える。


「長よ・・・本当に良いのか?」

「え?何か問題ですか?」

「問題と言えば大問題じゃが・・・正直助かる」

「それは良かった」


ニッコリと笑いながら自然体の兵法修行者を名乗る若者に深々と頭を下げる。


「丸目蔵人佐長恵殿、感謝つかまつる!!」


これほど自然に儂がこうべを下げるなど思いもよらなんだ。

気が付くと涙まで流しておる。

儂の人生で始めて流す嬉し涙じゃ。

その後は今までの苦労は何だったんじゃ?と言うように各地より献金が山のように舞い込んできた。

毛利など真っ先に献金を送り付け「丸目殿には負けるが精一杯のものを送らせて頂いた」と言って来たのがまた痛快であった。

時の主上より長が何を望むか探るようにとお達しされるが聞けば「上泉殿への紹介」としか言わん。

ほんに困ったことである。

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