第25話
茶狂いの弾正が仲の良い者だけでは無く不仲な者にも自分の手に入れた壺を自慢をする。
儂にもと言い納屋に入荷したその壺を全て買ったというが、一体幾ら使ったことやら。
確かに味がある。
舶来品ではあるが呂宋では有触れた壺だとのことだが運んでくるのも大仕事だそれなりの費えは必要となるだろうし、割れるなどの事も考えれば高いが仕方ないのかもしれぬ。
しかし、態々苦労して運んで来たというのは言わずとも解るが、高く売りつけるつもりなら有触れた壺と言う必要があるのかと思うが調べれば丸目と言う名の若い兵法修行者の提案と言う。
何故と思うが納得して買うので悪い気はしない。
商人では中々思いつかぬ発想だ。
そんな折、件の若者が高野山と揉めたという。
聞けば聞くほど面白いが、原因は弾正の自慢が原因だ。
弾正も悪気は無かったのであろうが一介の兵法修行者には普通荷が重すぎると思うが、普通ではなかった。
確かに九州の大大名の大友の鼻を明かしたとも噂で聞いたがただの噂と一笑に付していた。
しかし、高野山のやり取りを聞けば
そうこうしていると、今度はあの憎っくき石山のクソ坊主どもと揉めたという。
あ奴らのやり口は自分たちは後ろから門徒どもを煽り戦わせると言う坊主の風上にも置けぬ連中ではあるが門徒も多く力を持つ。
だからこそ質が悪いのだが、その連中が剣もホロロに追い返されたという。
実に痛快!実に天晴!!
一人報告を見ながらほくそ笑んでおった。
まぁこの災難に見舞われた若者には同情するし、弾正には必ず謝罪するようにと言いつけるつもりだ。
それから直ぐに、今度は顕如自らがかの若者と公開問答をするという。
実に面白きことだ。
見物に行きたいが無理だろう。
報告を楽しみにするより仕方ない。
会ってみたい!!
丁度、弾正と話すことがあり呼び立てていたのは行幸だった。
話は終わり雑談となると直ぐに例の話題を弾正に言う。
「弾正、お前があのクソ坊主に散々壺を自慢するから迷惑している者が居るようだぞ」
面目ないというように一瞬顔を曇らせるが、直ぐに元の顔に戻り儂の話に回答する。
「は、面目もございませぬ」
「はははは~まあ、件の若者には詫びねばの~それに同じ「ながよし」なのだし仲良くやってくれ」
「は、勿論、今後も懇意にすることとしておりますが・・・多分、怒っているでしょうね~」
「怒っているだろうな~」
調べれば同じ「ながよし」と言う名前でではないか。
益々会って見とうなった。
「会ってみたいものよ」
「長慶様!」
「近い内に詫びに行くのだろ?」
「はい、近い内には・・・」
「では、その時に一緒に連れて行ってくれ」
「そ、それは・・・」
「勿論、身分を隠してじゃぞ」
どうやら弾正も身分を隠しているという。
お前もか?・・・
公開問答はお祭りのような仕儀で行われたという。
様子を見に行かせた者の話では顕如を件の若者が言い負かしたと言う。
同じ「ながよし」があの坊主を言い負かすとは非常に胸のすく思いとまたなった。
益々会うのが楽しみだ。
様子を見に行かせた者は他にも出店で出た菓子が絶品であったという。
何でもこれも若者の考案の品で1つは黒き棒状の菓子なので黒棒と言うらしい。
甘美な味わいで今までに食べたことがないと自慢気に言う。
そんなに美味しいなら土産に買って来いよ。
もう一つも菓子も実に美味しそうに話す。
聞いていると腹が減ってくる。
ああ、分った分かった・・・
弾正と共に納屋へと向かう。
事前に納屋の主には名前を伏せることは言い含めている。
ついて早々に茶室に向かいお茶を嗜みながら話し出す。
茶狂いどもはこういう者だと諦めてはいるが・・・
茶請けに出された物は報告にあった黒棒なる菓子、実に甘美!
意識を持っていかれそうに美味い!!
儂は孫次郎と名乗ったが件の若者は気にする様子もない様に見せてちゃんと此方を値踏みしているようだ。
儂も同じようなものなのでお互い様だな。
眼光鋭く将来が楽しみな若い兵法者だ。
兵法を極めた後は召し抱えたいとすら思う。
「本当に反省しているんですか?」
「おう、勿論じゃ!悪い悪い、かっかっか~」
「はぁ~もういいですよ・・・」
反省は本当にしているが尾首にも弾正は出さぬ。
しかし、ジッと見詰められてバツが悪くなった様で儂の方に詫びの品を差し出すように促す。
今は弾正の従者と言う
中身は何か知らぬが「取って置きの品」と弾正は言い中身は教えてくれなんだ。
「詫びの品じゃ」
「へ~一応反省しているのですね~」
「も、勿論じゃ!まさかお主が巻き込まれるとは思わなんだしの~」
「の~じゃないですよ~本当に!」
「だから儂の1番の宝物をお主の詫びの品として持ってきたわい」
弾正の一番の宝物?
平蜘蛛か?しかしあれは「誰にも渡さん、これだけは長慶様でも差し上げませんよ」と言っておったが・・・
「へ~それはそれは・・・何ですか?」
「見るとよい」
「では、・・・」
包みが開けられると驚いた!
まごう事無き大名物、平蜘蛛の茶釜!弾正の取って置きの1番の宝の品だ。
驚愕したのは儂だけでなく納屋の主も同じ様だ。
茶釜を見た若者は不満そうだ。
「この茶釜は最高の品で儂の本当に1番の宝物なんじゃぞ!」
「へ~そうなんだ・・・」
「この茶釜の良さが解らんとはまだまだよな~」
「へ~」
自慢気に弾正は言うが興味無さ気にコンコンと釜を叩く若者。
慌てた弾正が言い募る。
「大事に扱わんか!!それは天下の大名物、平蜘蛛の茶釜ぞ!!」
「え?今なんと?」
「だから、大事に扱わんか!!と言っとる」
「そこじゃなく、その後・・・」
「天下の大名物?」
「その後・・・」
「平蜘蛛の茶釜・・・」
「松永久秀・・・」
「なんじゃ、バレたか・・・」
まぁ平蜘蛛の茶釜の所有者は有名だしの~仕方なし。
飄々としていた人を食ったような態度の若者も流石に驚いているようだ。
「これは受け取れませんよ」
「何じゃ、儂の誠意を受け取れんと?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「本当に悪いと思うたから持って参った、既にお主のものぞ、返すとか言うて儂の顔に泥を塗るなよ」
遠慮する若者はこの釜の価値を解っているのか?
あの釜1つで殆どの事は出来てしまう程の銭が手に入るのだぞ!
弾正も今回は流石に悪いと思って持ち出した虎の子を突っ返されるのは沽券に係わると頑として譲らない心構えのようだ。
「では、こちらの平蜘蛛の茶釜は松永様にお預けします」
「預ける?」
「はい、今の某にはこの釜の良さは皆目見当つきませんので、良さの解る松永様にお預けしますので、大事に使ってください」
「その方は・・・様は不要。儂の事は好きに呼べ」
「では、霜台爺さんと呼ばしてもらいますね」
「おお、長よこれからも仲良くしてくれ」
実に清々しき事この上なし!!
弾正も同じ心持なのか清々しい顔で一介の兵法修行者に「様は不要」と言う。
帰り道、弾正は儂にぽつりと漏らす。
「長慶様、儂はあなた様以外に人に惚れることは無いと思うとりましたが、長にも惚れ申した。流石は「ながよし」ですね」
弾正はニッコリと微笑みながらそう儂に言った後は気分良さ気に鼻歌を珍しくしておった。
また何時か会いたいものよ。
「丸目蔵人佐長恵、名前は覚えたぞ!!」
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