第21話

その後、本願寺派の信者の数は堺では激減した。

根来寺の時は僧侶のみへの批判であったことやその後に和解して呂宋壺と200貫の寄進・献金が行われたことでダメージは少なかったが、本願寺派の法主である顕如が寄進をするように強制して来たと民衆は捉えたことや、俺が言った「進者往生極楽 退者無間地獄」の説明で信者を扇動していることを民衆が嫌い、信者離れが起こっている模様。

自分たちが利用されていると思うと嫌だよね~しかも「進んだ者は極楽行けるよ~退いた者ははい無間地獄行き!!」て言われて無理くり頑張ったのに実はそんなことは全くないのかもしれないと疑心が生まれれば・・・

今までやって来たことが裏返るという自業自得的な結末だよね~

まぁこれ以上関わることは・・・無いよね?

それにしても・・・呂宋壺が何でここまで求められる?

これは宗さんにお願いして情報を集めてもらう必要がありそうだな。

何となく、本当に何となくだが思い当たることはあるが・・・


★~~~~~~★


実に忌々しい。

高野山に今話題の呂宋壺を一介の武士が納屋を通じて寄進したという。

高野山に寄進したのだから我が石山本願寺にも寄進を願ったことを無視された上に確認の者を送れば「強請ゆすたかり」の様な扱いを受けたと報告を受けた。

腹立たしく思い少し脅しのつもりで今度は僧兵に命じてみれば「進者往生極楽 退者無間地獄」を鬼や魔の所業だと言い、言うに事欠いて宗祖聖人を貶めたと聞く。

あのような者が現れることが末法の世なのだろう。

乱世の続くこの世に楽土を気付くという崇高な目的が解らぬ所詮は下賤なものかと思っていたが、最近、特に堺で門徒の数が減っているという。

堺は富裕な者も多くこの石山にとっても重要な場所の1つでもある。

その堺で本願寺の評判を貶めたあの者に目にものを見せてやらねばならぬがただ武力で押し込めてもこの石山本願寺の威光が回復することはないだろう。

さて、如何すべきか・・・

考えを巡らしていると一人の者が話しかけてきた。


「宗主様、何かご杞憂のご様子ですね」

「ああ、件の堺での出来事を考えておった」

「ああ、あの件ですか・・・」

「ただあの者を押し込めても堺の門徒の信任は戻らぬ、如何すべきか考えあぐねておったのよ」

「そうですね~それならば」


その者は耳打ちをして名案を我に示した。


「ふむ、それは面白いが、負けられぬぞ?」

「はい、だからこそ宗主様が直接、丸目何某に相対すれば良かろうかと」

「ほう、我が出る意味は?」

「はい、宗主様があ奴に勝てば宗主様の株も上がり、門徒の信任も戻りましょう。それに、如何に親鸞聖人のお教えが素晴らしい物かを民衆に知らしめる事にもなりますし、その教えを一番深くお知りなのは宗主様を置いて他にございますか?」

「ほほほほ~成程、その通りよ」

如春尼にょしゅんに様(顕如の奥さん)にお願いして公家どもに動いてもらえば・・・」

「傾いておっても権威は権威か・・・よい、奥に頼まず私自身でお願いしてみよう」

「はい、まだまだ侮れませぬな。件の武士の話を持っていけば面白がって乗ってくる者もおりましょう」

「そうよな~・・・山科亜相あそう様など特に面白がって協力頂けるのでは?」

「良いご思案かと」


面白い考えをくれたこの者に感謝しつつ策を練る。

一介の武士が石山に唾を吐いたことを後悔させてやろう。


(山科亜相:山科やましな言継ことつぐ、亜相は大納言の唐名です。この時代の有名な公家の1人です。)


★~~~~~~★


石山の顕如上人より書状を貰う。

何でも本願寺の僧侶が一介の武士に親鸞聖人の浄土の教えを馬鹿にされて恥をかかされたという。

本来はその程度で目くじらを立てる話ではないが、堺の町で悪い噂が蔓延しており仕方なくその武士の考えを改めさせて民衆にも誤解を解いてもらいたいとのことで、顕如上人自らがその武士と問答を公開で行いたいとのことだ。


「ふむ、面白い」


書状の件の武士は今話題の人物であろう。

三好の寵臣の松永も面白い人物だと言っておったが・・・

それに根来寺とも事を起こしたが言い負かしたと聞く。

次にまた違う宗と問題を起こすとはつくづく不運な人物である。

しかし、納屋に居候し、天王寺屋とも懇意にしていると聞く。

実に興味深い。


「それで、山科様、ご協力頂けますでしょうか?」

「協力?公開問答の立ち合いすることは吝かではないが、石山に肩入れする気はないがそれでも宜しいか?」

「も、勿論でございます!今回の事は行き違いであり、あの者の勘違いではございますが、親鸞聖人の浄土の教えを馬鹿にされては黙っておれません」


どうだか、不用意に手を突っ込んで噛まれたからその仕返しがしたいだけではないのか。

まぁ武力で押し込めるよりは余程にましであるし、面白そうである。


「相分かった、では立ち合いはさせていただこう。しかし、相手方は了解しておるのか?」

「いえ・・・実は、その件の人物の説得もお願いできますればと・・・」

「本当にお前たちは・・・」

「それもお願いするに辺り、お手間を取らせる分の費用は勿論こちらで弾ませていただきます」


う~む、公家は貧乏だからこの収入は捨て置けんが・・・まぁ件の者に会ってみたくもあるので受けるか。


「仕方ない・・・会ってみるとしよう」

「何卒、宜しくお願いいたします」


頭を下げておるが下卑た笑いをしよるこの生臭坊主が。

そんな生臭坊主のお使いまでしないといかんとは・・・これでも正二位の権大納言ごんだいなごんなのじゃがの~


(山科家は公家では羽林家うりんけに属します。羽林家とは鎌倉時代以降の公家の家格の一つで公家の家格の2番手の家格となります。トップは摂家、大臣家、清華家となりますので羽林家はその次の家柄です。大納言は羽林家の上り詰めた官位となります。1569年の山科言継の晩年に山科家初の権大納言となるのですが、官位コロコロ変えると解り辛いのでこの作品では山科言継の官位はこの時点で権大納言としておき固定ます。)

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