第19話

爽やかな晴れ渡る朝、清々しい。

何時もの様に木刀を振り、水浴びで汗を流し美味しい朝食を食べていると、店員さんの1人が慌てふためいて主人の宗さんの下に何かを知らせに急いでやって来た。


「だ、だ、だ、・・・」

「どうした?慌てずにゆっくりとお言いなさい」

「旦那様!!大変です!!」

「何が大変なのです?」

「店前に僧兵が沢山居てこの店を取り囲んでおります!!」

「へぇ?」


落ち着いていたはずの宗さんも慌てて表の様子を確認しに行くと、僧兵が店を取り囲み「店主を出せ!!早くせんと打ち壊すぞー---!!!!」と怒鳴っております。

僧兵の異様な雰囲気に周りにも人だかりが出来ております。

あ~数日前の僧侶の件が頭を過りますが・・・宗さんも流石に顔を青くしております。

大商人なので度胸はあると思いますから表に出れば違うでしょうけど今は僧兵を見ているだけだし油断しているところの襲来なので・・・怖い物は怖いんですよ~


「旦那様・・・如何しますか?」

「そ、そうですね・・・先ずは話し合いが肝要ですね・・・」


まぁ武力衝突できる訳もなしである。

深呼吸して十分に息を整え覚悟を決めた大商人が表に出て行くので付き添いで斜め後ろに付き俺も僧兵の前へと躍り出る。


「私がこの納屋の主の今井宗久です。何様でしょうか?」

「お前が高額な金額を吹っ掛けた今井か!!」

「高額と言いますと先日来られたお坊様の件ですか?」

「そうだ!保存用の壺に途方もない金額を要求したと聞いておる!!」

「お言葉ですが、説明させて頂きましたがそのくだんの壺は舶来のお品でして呂宋より取り寄せました壺となります。割れ物ですから輸送にも気を使いますからそれなりには・・・それに今回は無理をして手に入れる関係上どうしてもそれなりの金額となってしまいますのでそれを高いと言われましても当方では今回はこの金額でしかお売りできかねます」

「何?おのれ商人風情が仏様にお供えすると思い寄進してもいいものを、仏罰が下るぞ!!」


此奴ら本当に、口を開けば仏罰、仏罰とその言葉でなんでも自由に出来ると思うなよ!!

頭に来たので宗さんの前に出る。


「長さん?」

「宗さん、ここは某に預けませんか?悪い様にはしませんよ?」

「良いのですか?」

「はい、泥船に乗ったと思って任せてください!」

「それ、くふふふっふ~沈んじゃいますがな!」


宗さんは笑顔で「お任せします」と言うので任されました。


「何だお前は!!」

「ああ、某は今、納屋に世話になっている兵法修行者の丸目蔵人佐長恵という者だ」

「その丸目何某が何様か?」

「何某じゃない!蔵人佐長恵と言う立派な名があるぞ!!」

「名前など如何でもいい!!」

「相分かった。そちらは何処の者だ!!」

「我らは根来寺の者だ!!その商人をかばい立てするならその方も容赦はせんぞ!!」

「ほ~根来寺・・・」


根来寺、通称は根来衆、鉄砲集団としても有名だが簡単に言えば真言宗の過激派集団である。

根来ねごろ盛重もりしげが有名かもしれないが、彼はまだ生まれたばかり位だったはずだからここには居ないだろう。

さて、その真言宗の暴力装置の過激派集団を如何すべきか?・・・ここは向こうが仏罰と言う名のSRスペシャルカードを出すのだからこちらもSSRスペシャルスーパーレアカードを封印から一時解除すべきであろう。


「何だ!根来寺と聞いてビビったか~がはははは~ビビったならそこを退け!!」

「はぁ?ビビる?何言ってるのお前?」


あ~此奴らは一度同じ立場にしてやらんと今後も仏罰の名の下にやりたい放題するな~

よし決めた!限定解除致します!!


「弘法大師が泣いておるぞ!!」

「はぁ?何言っておるお大師様を出して我らがビビるとでも思うたか!!」

「ああ、弘法大師だけではないぞ、弘法大師様の後ろに控える仏様も「情けなや」と嘆いてござる」

「は?仏を語るか!!」

「お前には見えんのか?聞こえんのか?」


後ろからまた別の僧兵が現れて問答をしていた僧兵に耳打ちした後にその代表者の僧兵がこちらを脅威の目で見る。


「お前には何が聞こえる?何が見える?」

「先ほど言うたがお前は耳が遠いのか?」


弘法大師様、仏様、今回はお名前をお借りします!

悪事には使いませんのでお許しくださいませ。

この馬鹿どもを悔い改めさせて・・・ごめんなさい、それは無理です・・・とりあえず、この場を収めてそちらにお返ししますので、そちらで悔い改めるようにお導きください。


男はじっと俺を見詰めて身動みじろぎもしない。


「もう一度言ってやる。弘法大師様は衆生を救うために遠くは海を渡り真言密教の奥義をお持ち帰りになった。それはお前たちの様に衆生に迷惑掛ける為にしたことではない!だから泣いておられる!!」

「うう・・・」

「そして、その後ろに控える仏さまは仏罰など無いと言われておられるぞ!!」

「そんなはずはない!!」

「仏とは人救い上げて助け悟りに導くものぞ!その仏様が罰など与えるものか!!」


周りは静寂が支配し民衆も固唾を呑んで事の成り行きを見守っている。


「仏罰などと言いながら虎の威を借る狐のようなことをする者に仏の慈悲は必要無いと言われておるが、このまま事を起こして死んだ後地獄の業火に焼かれるか!!」


僧兵が皆、青い顔になり慄く。

一人逃げ出すと波が引く様に僧兵が逃げて行って俺と宗さんが残された。

僧兵が逃げて居なくなると大歓声がその場を包んだ。


後日、高野山金剛峯寺の一番偉い人からわび状が届いた。

お詫びを言われたがこのままわだかまりがあるのも怖いので、俺所蔵の呂宋壺を1つ寄進した。

寄進のお礼を言われたので高野山の見学をお願いした。

ソウダヨネ~一度は行きたい観光ス・・・聖地!!

是非ともお大師様にもお詫びを言いに行きたいのよ、観光は序だよ~


後日、許しを貰い高野山へと伺い心行くまで世界遺産を堪能した。

最後に弘法大師が入定された奥の院へとお参りして高野山を後にすることとしたが、奥の院に入ると一人の僧侶がお辞儀して迎えてくれた。


「今回は弟子の弟子たちがご迷惑をお掛けしました」

「いえ、こちらこそ喧嘩を売るようなことして申し訳ございません」

「はははは~ではお互い水に流すということで」

「そうして頂ければありがたいです」


そう会話した後にお参りして奥の院を去ろうとした時、後ろより先ほどの僧侶より声を掛けられる。


「時の旅人よこの時代を楽しんでください」

「え?」


振り向くがそこに誰も姿はなく静寂に包まれた奥の院だけがそこにあった。


弘法大師は自分の病を知ると命懸けで真言密教の基盤強化と衆生の安寧を願いこの奥の院に入定されたという。

死んだのではなく生き仏となって今も衆生を導き助けているという。

今も弘法大師はこの奥の院に鎮座され偶にその姿をお見せになるという。

幸運にもそのお姿を見る者もいるというが・・・

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