第14話

数日するとホクホク顔で金蔵が帰って行った。

今回のメイン商材は呂宋壺だったのだが、呂宋壺の中にも何かを詰め込んで持ち込んだようだ。

中身も売れたがそれよりも壺が良いお値段で売れたようである。

俺用として5個の壺を置いて行き1つは滞在費として宗さんに差し上げたので残り4つだが俺にはただの保存容器なので全部旅の費えになることは火を見るよりも明らかかもしれない。


「では蔵人さんお元気で、またお会いするのを楽しみにしておりますので、九州にお戻りの際は必ず博多にお寄りくださいね」

「ああ、世話になったな」

「いいえ、こちらこそ大変お世話になりました」


金蔵はウルウルお目目でこちらに深くお辞儀をしてそう告げた。

それを見た俺もウルウルするからやめてくれよな~ぐすん


「そうか・・・紹さんや貞坊、他の皆にも「長が必ず名を轟かせるから博多でその知らせを楽しみにしていてくれ」と伝えてくれ」

「確かにお伝えさせて頂きます」

「ではお前も元気でな!!」

「はい、お達者で!!」


最後は笑顔で金蔵と別れた。

いよいよ今井さん所でも神屋同様に簿記を教え始めるのだが、やはり俺改造のそろばんに宗さんが興味を示した。

交渉の場で金蔵がパチパチとそろばんを弾きながら金額を間違いなく即答する様はインパクト大だったのだろう。

情報通の商人、然も日本最大の市場を牛耳る堺の商人である宗さんは、勿論、中国式のそろばんの存在は知っていたが、そのブラッシュアップした昭和から令和の時代ではあたり前に知られているそろばんは知らなかった。

教える関係上、そろばんは20個作って今回持ち込んでいるので、早速、宗さんに差し上げた。


「こりゃ凄い!!」

「そうですか?昔からある物ですよね?」

「あるにはあるが・・・少し形が違うかな?」

「ああ、あれ参考にした改造版ですからね~」

「ほ~長さん考案かいな~」

「いえ、私ではありませんよ」

「ほな、何方のや?」


あ・・・誰?・・・全然何も考えずに話していた。

嫌な汗が背中を伝う。

今更自分と言うのもおかしいし、知っているから作れたんだし・・・天啓は使わないと決めたのだ・・・さて・・・


「どないしはったん?」

「ああ、そろばんの考案者は」

「考案者は?」

「秘密です」

「は~ネタは教えられんってこっちゃな~」

「そ、そうですそうです」


おお、乗り切りましたよ!!

神頼みし過ぎても有難みが薄れるので「天啓」は一時封印じゃ!!


「恵比須様も粋なことしはりますね~」

「恵比須様では・・・」

「では、何方?」

「ぐっ・・・だから、秘密です!!」

「しゃあないな~」


知ってますよ~的なしたり顔は止めて欲しい。

これも今後のためにも良い案を考えないと言葉に詰まるな。

今後の課題だな。

それから、そろばんも興味を示したが、簿記の説明を簡単にすると宗さんは大興奮。


「紹策さんに凄い凄いと手紙で耳にタコ出来るか思う程言われとりましたが・・・確かにこの技は凄いですな~」

「そうでしょ!」


そう、簿記はある種の革命とまで言われる。

確か、ルカ・パチョーリと言うイタリアの天才数学者が考えたと言われている。

面白い事にこの人物はあの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチに数学と複式簿記を教えたと言われる複式簿記の父などと呼ばれる人物なのだ。

そう言えば、この人物はフランシスコ会の修道士、フランシスコ・・・ザビエル!!

偶然の一致か?ちょっと知っているだけのうんちくなので日本に来た・ザビエルと会の関係性が解らん・・・ザビエルはイエズス会だったな・・・関係性は知らんが同じキリスト教だし簿記知識は持ち合わせているのかもしれないな。

チャンスがあれば外国、西洋の国辺りの商人か宣教師に簿記知識を確認してみるか~あくまでもチャンスがあればだ!!

何と言っても俺は将来の剣豪!丸目蔵人佐なのだから!!


(※フランシスコ会:またの名をフランチェスコ会で、フランチェスコさんが開いた会なのでフランチェスコ会。ザビエルは関係ありません。ザビエルの所属したイエズス会は通称「神の軍隊」と呼ばれ教皇直属の精鋭部隊です。男しかいません!!一部のうほほ~な方には垂涎の・・・まぁそんな会です。だから、偶然の一致です。主人公は中々幅広く歴史知識ありますが肝心な部分など色々知らない設定ですので色々継ぎはぎだらけで語りますが、筆者が自分が知ってるうんちく語りたいだ・・・ゲフンゲフン。ここまでお読み頂いた方なら既にご理解されたますね・・・兎に角、言いたい事や伏線の前振りとして使ってますので「ふ~そうんはんだ~」と豆知識とでも思って生温かく聞き流して頂けると嬉しいです。)


宗さんは是非色々と教えて欲しいと言われたが、俺もこのままそろばん塾の先生ばかりもしていられないので半年と期限を切ることとしたが、解らないこと等々は手紙等で教えたり、神屋に俺の知識は全て伝授済みなので更に詳しく知りたければ俺が去った後に、神屋に人をやり学んで来る人を派遣しても良いのではないかと提案しておいた。


宗さん含め今井家の営む商家、屋号を納屋なやというこの店所属の者たちに教えることとなった。

朝に一こく(2時間)と夕方に同じく一こくの計4時間を教習時間として予定が特に無ければ毎日行われることとなた。

昭和の頃にドリンクの宣伝で「24時間戦えますか~♪」と言う物があったが、この時代は「365日戦えますか~♪」と言う労働基準なので基本休みは適当だし皆が完全に休むことなど殆ど無い。

ブラックと思う事無かれ、社会状況や時代により労働の考え方すら違うのだ。


そして、宗さんが俺に自分のお友達を紹介したいと言う名目で、本当は例の壺自慢をする気満々のお茶会が催された。

後々知ることとなったが、その時俺は色々な意味で驚く様な出会いを幾つもするのだが・・・

まぁ堺の商人の茶狂いのお友達に小物は居ないと言う事を考えなかったのは実に浅はかだったのかもしれない。

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