第12話

実に面白い!近隣諸国に放っておいた間諜かんちょうの者より面白い知らせが1つ届いた。

何でもあの伴天連かぶれの大友に一泡吹かせた者が居ると言う。

名前は丸目蔵人佐長恵と言う若い肥後国の国人のせがれと言うではないか。

あの博多の豪商の神屋に居を構え、家人同然に過ごしていると言う。

俄然興味を持ち間諜に探らせるとこの若者は「天啓」を聞く者だと言う。

博多に来た際には恵比須様よりご接待を受けたとの噂もあるが真偽は定かではないが、神屋がこの若者に「何処にお社を建立すればいいか?」と聞いたところ「浜辺近く」と言うので神屋が探らせると何とそこから恵比須様の像が出て来たと言う。

本物か?・・・そして、その間に大友にどうやって一泡吹かせたかを間諜が探り出して知らせて来た。

それは儂らにとっては重要な事であった。

何と大友の仕出かしたことが神の怒りに触れ神罰が降るとのことだ。

しかし、神罰が降る先が大友ではなく大内にと言う。

そんなことがあるのか?と思うが神の成すことは理解しがたいので様子見しかない。

然も来年とのこと・・・

何が起こっても良い様に大内にも多くの間諜を配しておこう。

それからその丸目なる若者の動向を探らせると毎日朝も早い内より起きて木刀を振ると言う。

間諜の見立てでは中々の剣速で今まで見た中でも指折りだと言う。

一刻程の鍛錬の後は店の者に何かを教えているそうな、何を教えているか気にはなるし武士が商人に教える?奇天烈怪奇である。

そうこうしていると、大内で内乱が起こった。

これは千載一遇の時だと大内の綻びを突き大内を滅ぼし長年の悲願が成就した。

嬉しい反面、かの若者が言ったと言う神罰がこれでは無いのか?と言い得ぬ恐れとも畏怖とも言えぬような複雑な感情を抱いたがその丸目なる人物に更に興味を持った。

そんな折、件の若者が博多を離れ堺へ向うと言うではないか。

これは良い機会だと村上へと依頼した。

依頼がどういう風に伝わったかは解らないが少し失礼な応答が成されたようだ。

しかし報告を聞けばひょうげていて面白い。

「丸目何某は居ないか?」と聞けば「何某は居ない」と返す。

「名前を名乗れ」と言えば堂々と「丸目蔵人佐長恵」と正直に名を告げる。

「お前が丸目何某じゃないか」と怒鳴れば「何某ではない」と返す。

実に滑稽で報告の書状を見ながら笑い転げてしまた。

その様子を見ていた三男坊の又四郎またしろう(小早川隆景の通称)がいぶかしがるので書状を渡すと日頃ムッとしているようで中々感情を表に出さないこ奴が笑っておる。


「父上、この人を食った様な者にお会いされるので?」

「そうじゃが?それがどうした?」

「はい、私もこの者を見てみとう御座います」

「良いぞ」


こ奴が興味を持つとは珍しいが確かにこの書状を見れば気になるところであろう。

何処から聞きつけて来たのか少輔次郎しょうのじろう(吉川元春の通称)も側に控えた。

連れて来られた者は恐れも無く平然とその場に座す。

頭を下げるでもなくじっとこちらを窺うように見詰めている。

儂が座り横に息子たちが座ると丸目と言う若者に相対し詫びを述べる。


「急ぎの所態々来てもらい悪いの~」


目礼をしただけで特に何か言う訳でもないが目が不満を讃えている。

無理やりの様に連れて来たので仕方なきことだな。

くれぐれも丁重に連れて来てほしいと伝えたのだが・・・

そうこうしていると若者が話し出す。


「それで、私に御用とか?」

「わっははははは~そう急くな急くな」


明かに話し始める前に名乗りもしないは無礼ではあるが先に無礼を働いたのは当方。

息子の一人はムッとして納得いかないと言う顔をしているがもう一人は面白い物でも見つけた様に興味あり気に見ている。

対照的で面白いが今は目の前の若者との話に集中しよう。

こちらが色々考えているのを察していたのか良い具合に問うて来た。


「それで?ご用向きは?」

「スマンな、先ずは挨拶をさせてくれぬか?」


挨拶を口にすると今までの態度を一変させて礼儀正しい挨拶をする若者。


「では、丸目蔵人佐長恵と申します。兵法修行にて旅の途中の者にて候」

「うむ、毛利もうり陸奥守むつのかみ元就もとなりと申す。運に恵まれ大内の大半の領地を得る事が出来た成り上がりの国人じゃ」


ついつい若者に当てられて卑下た表現を取ってしまったが、息子の一人が騒ぎ出しそれを止めるもう一人・・・


「その英雄殿が一介の兵法修行者に何用で旅の同中をお引止めで?」


その若者は「如何にも不満です」と言うように息子の「英雄」という言葉を捩り聞いて来る。


「いやな~あの伴天連かぶれの大友を震え上がらせた若造を見てみたくてな」

「え?毛利さんとこは既に大友さんとこに間諜かんちょうでも仕込んでおられますか?」


間諜かんちょうを瞬時に出して来る辺り中々冴えておるわ。

そう、十分に探らせた。

大内に後は大友が我が領内と隣接するし大友は大内の親戚筋だ何を言ってきてもおかしくない。


「わははははは~それは蛇の道は蛇と言うじゃろ?色々有るのよ色々な~」

「左様ですか・・・」

「時に、「天啓」を受けると聞いたが誠か?」

「さぁ?知りません」


実に人を食った態度であるが何という心地よさだろうか?

実に面白い!!

息子の一人も面白いと思ったのかニヤリと笑っているのが更に面白い!!

もう一人は・・・五月蠅いので窘めた・・・

さて、この楽しい問答を続けようぞ!


「知らぬとはどういう事ぞ?」

「声を聴いたり夢を見たりしますが、相手が何々であると名乗るのを信じているだけで本当かどうかは・・・」


自分に責任は無いとうそぶく件の若者。


「そうかそうか・・・それで、儂らの事は何か「天啓」で言われぬか?」

「そうですね~聞き及びだと思いますが、大内家の滅亡は大友様への神罰ですから・・・逆に何か思い当たる様な奇跡的な勝ちを毛利様が御拾いでは無いですかな?」


質問に質問で返されたが思い当たる節だらけでそれ以上の言葉が出ない。

大内に神罰が降ったと言う事は毛利は神より助けられたと同義である。

この者を否定することは口が裂けても言ってはならないと何かが囁くように感じ絞り出す様に言葉を紡ぐ。


「さようか・・・」


伴天連の者共が偶にする様な変な手振りをするがそれがまた滑稽でもあり清々しくもあり。

伴天連どもは馬鹿にしたように感じたがこの者がするとそう感じるのだから非常に面白い。


「引き留めて悪かった」


深々と頭を下げて謝罪すると件の若者、いや、丸目殿は目を丸くしてこちらを見た後に「いえ、良い経験を頂きました」と言って同じく深々と頭を下げた。

その後、息子の片方は丸目殿を気に入ったようで珍しく自分の方より色々と聞き始めておった。

世の中は実に面白い!このような者がまだまだいると思うとまだまだ死ぬ訳にもいかんと内から活力が漲る様な気分となった。

毛利元就は1571年までその生涯を全うした。

元の歴史と同じく75歳まで生きたが戦国時代にしては長生きの部類となる。

この出会いにより何かが変わったのかもしれないが、それは神・仏のみぞ知るところであろう。

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