第5話

大凡2年間博多に行き足し算引き算掛け算割り算から始まり複式簿記をスポンサー様の家人に教えることとなった。

報酬としては兵法修行の為の金銭的な援助をお願いした。

期限を決めないとな~とか思ったが「1人分位は身代傾くまでお出ししますよ」と言われた。

流石は博多の大店の商人である。

天草さんには口裏を合わせて兵法修行していることとして、お殿様より呼び出し等あればその時は今は博多にお使いに出していると言う事にして手紙で知らせて貰い、手紙を受取り次第こちらに戻ることとした。

親父にも一応は伝える必要があり伝えると、呆れられたが事情が事情なので容認してくれた。

正直言えば戦国時代の博多には興味がある。

前世で偶に遊びに行った福岡の町がこの時代ではどんな街なのか凄くワクワクである。

博多商人の神屋かみやさんとは後々何だか仲良くなってしまいながさんしょうさんと呼び合う程の仲になるのだがそれは後々の話である。


一月後、俺は博多の街に到着した。

商家が軒を連ね往来では人々が行きかっている。

とても活気のある街でその場に居るだけで気分が高揚してくる。

前世の子供時代に商店街の通りを歩く時の様なウキウキ気分になってくる。

道を尋ねながら神屋さんのお店を目指す。

到着してみると・・・大きい。

来る途中に見掛けた商家と比べても明かに大きい商家であった。

早速店の店員らしい者を捕まえて神屋さんの取次ぎをお願いする。


「神屋紹策殿を尋ねて参った丸目蔵人佐長恵と申す」

「はぁ、お武家様が旦那様を・・・」

「取次ぎ願いたい」

「す、少しお待ちを・・・」


店員はそう言って店の奥に行き少しすると戻って来た。


「生憎と旦那様は所用で出払っております」

「そうか・・・では何時お戻りか?」

「へえ、何時戻るかは皆目見当もつきません」

「そうか・・・では日を改めてまた伺うが、生憎と博多は初めてでの~旅籠を紹介してくれぬか?」

「へえ、確認してまいります」


武士らしい言葉使いって未だに慣れんわ~少し疲れる。

しかし、TPOは重要だ。

行き成り軽い口調で話せば舐められる、舐められれば舐めた対応しかされないのだ。

前世で鍛えた営業スキルが火を噴くぜ!!

そうこうしていると、さっきの者より立場が上の者が現れた。


「あんたが旦那様を尋ねて来たって奴か?」


行き成り態度が悪いな此奴。

しかし、これからここに居候するんだし少し様子見だな。


「いかにも、それでそちらは?」

「はぁ?武士だからって偉そうに!!」


あ~はいはい、何処にでも居るよね~こういう奴。

何に対しても否定的で喧嘩腰、でも強い者には媚びる。

多分、元服したばかりの若侍である俺の事を舐めてるんだろうな~

ふと彼の後ろを見ると、さっきまで俺の相手を知ってくれていた者がアタフタとしているが立場的に俺の目の前の此奴に意見出来る立場ではないんだろうな~

何処にでもあるあるの手に余る上司と言う処か?

そんなことを考えていると、目の前の奴が怒り顔で言ってくる。


「おい、若侍、聞いとっとか?おまーごたる若造が旦那様を訪ねて来たってん会える存在じゃ~無いんばい!!帰りんしゃい!!(訳:おい、若侍、聞いてるのか?お前の様な若造が旦那様を訪ねて来ても会える存在じゃ無いぞ!!帰れ!!)」


(今回だけ試しに方言入れましたがこれ以降は出来るだけ入れないように気を付けます。ただ入れてみたかっただけです・・・)


仕方ないので「明日また訪ねるから神屋紹策殿にお伝え願う」と後ろの者に聞こえる様に少し大きな声で告げて店を後にした。

仕方ないので見知らぬ街を散策して今日の宿を探す。

前世は昭和、平成、令和と3つの年号を生きて来たが、あの時代の便利さがしみじみと解る。

この戦国時代はあたり前ではあるがスマホも無い、標識も無い、宿と解る大きな看板もない・・・何だか昔聞いた演歌歌手の「オラ〇〇出るだ~」みたいな状況が今発生している事案に肩を落とすが仕方ない。

腹も減ったので近くの飯屋にでも入って宿を紹介してもらうか・・・


★~~~~~~★


旦那様に呼び出しを受けた。

何だろうか?

思い当たることは何もないが「急ぎ来るように」と伝言を受けて旦那様の私室へと赴く。

障子の前に座り部屋を開ける前に旦那様にお声がけをする。


「旦那様、お呼びと聞きましたが何か御用でしょうか?」

「ああ、入って来なさい」

「へい、失礼します」


障子を開け入ってまた障子を閉める。

旦那様は囲炉裏の前でお茶を点てていた。

爽やかなお茶の香りが漂って来た。

お茶を2つ点て終わると1つを私の前に、もう一つはそのままご自分の前に置いた。


「あなたが今日、お相手した若いお武家さんを覚えていますか?」

「へえ、あの若ざ」


若侍と言おうとしたところでハタと気付く。

旦那様の目が笑っていない。

旦那様はお茶を一口飲むと溜息を吐きながら私に静に告げる。


「あのお武家様は丸目様と言う方で、これから二年程こちらにご滞在頂きこの店の今後を占う様な重要な秘儀を伝授頂く予定の大事なお客人です」

「へぇ?」


驚き過ぎて声が裏返る。

そして、何だか旦那様の声が遠くに聞こえ冷たい何かが背中を伝う。

明かに失態をしたことに今気が付いたが取り返しは・・・


「あの御仁は若いからと言って舐めていると痛い目を見ます。私も直接相対した際に驚きましたが正に傑物ですよ」

「・・・」

「私を訪ねて来たと聞きましたがあなたが追い帰したと聞き及んでおりますが間違いありませんか?」


言葉が出ないが旦那様の問いに答える必要がある為何とか首を縦に振って答えた。


「実に残念ですね~あなたは働き者だと思っておりましたので本当に残念です」


旦那様は何を言おうとしているのか?

この大店のそれなりの地位にいると思う自分が1つの失態で何が起こるのか・・・

考えるだけでも手先が凍る様な感覚に襲われ寒くも無いのに震えが止まらない。


「明日またお出で頂けるそうなので、その時に丸目様のお許し頂けなければ」


旦那様はそこで言葉を止めジーっとこちらを見詰める。

怒っている?旦那様の怒った所は見たことが無いので判断できないが冷たい目線が怒りの様にも感じてしまう。

ブルブルと震える私を見た旦那様は目線を私から外しお茶をまた一口飲み静に続きの言葉を告げる。


「覚悟しておきなさい」


旦那様より今日はもう休んでいいとのことを言われたが確かに今のまま働く事等出来る状態ではないことは当の本人が一番解っている。

そして、眠れぬ夜を過ごした。

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