間章

間章

 雨は夜になってもやまない。


 図書館から帰ってきてから、夕食は昨晩作ったジャガイモとたまねぎの味噌汁と、それから鮭の切り身、スーパーで買ってきたサラダで簡単に済ました。


 シャワーを浴びてパジャマを着て、あとはもう寝るだけだ。


 眠気がくるまでわたしはパイプベッドの上に座って部屋の壁にもたれかかり、雑誌を読んでいた。


 六畳一間のこのアパートは、薄い黄色のカーテンも、ベッドのシーツの色も、本棚の片隅にある小物も、なにもかもわたしの好みの品々で埋め尽くされた、百パーセントわたしのための空間だ。


 黒いCDラジカセからは、ラジオでかかっているギターの、ガスランプの灯火を思わせるような音色がかすかに流れてきて、雨の音と一緒にわたしのそばで、わたしと同じにくつろいでいるようだった。


 それは変わりばえのない夜だった。


 今日の昼間。わたしの今までの人生の中ではトップ5に入るであろう大事件、生まれて初めて男の人に告白されるということがあったにも関わらず、いまこうしているとなんてことはない、変わりばえのしない夜だった。


 明日も多分、ぱっと見はこんな感じなのだろう。


 いつもと何も変わらないようにわたしは学校に向かい、授業を受けて、薄い壁一枚向こうにあるこの緊迫した事態に気付かないふりをする。


 しかし彼に大学のどこかで出くわしてしまえば、いつものわたしを知っている周囲の人間からすると、お、こいつらなにかあったなと容易にばれてしまうような、不自然な対応をわたしは見せてしまうのだろう。


 ラーメン・ライダーズの湯沢遠征のあと、仕方がないことだけど高木くんは立場が少々悪くなってしまった。


 サークルの先輩たちは、公式の遠征以外にも少人数でちょくちょく市内のラーメン屋を巡っているのだが、そういうときわたしと歩には声がかかっても、高木くんは誘われないことが何度かあった。


 そんな状況を打開してくれたのは、小松和也だった。


 そして高木くんは、戦いの日々にみずから身を投じていくことになる。


 後から考えれば、あの湯沢遠征の出来事がきっかけだったのだ。


 わたしは雑誌を置いて玄関の方を見た。


 誰かがドアを開けて訪ねてきそうな気がしたけど、いつまで見ていても来はしなくて、わたしはひょいと立ち上がり、カーテンを少し開いて外の雨がまだやまないことを確認してから布団にもぞもぞと入った。


 いつものようにこのほうが落ち着くので豆電球はつけたまま。


 横になりながら本棚に目をやると、そこにぶら下げてある、あの人がくれたなんだか珍妙なご当地キャラクターのキーホルダーと目が合った。


「見てんじゃないわよ」


 わたしはくすりと笑って、それから目を閉じた。


 しかし、どうにも寝付くことのできないわたしは、どこかに大事な答えを包み込んでいるのかもしれない、彼との思い出をまた辿り始めていた。

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