意外性は小物から

足許の違和感

 ゲーセンから出たら心地いい風が吹いてきた。遊んでかいた汗が気化して余計な体温を拭い去る。隣の彼女は湿った髪の束を手で解き、軽く乾かしている。


「次どこに行く」とカナメに質問してみると、「しばらく当てもなく歩こうよ」とどこか落ち着がない。


 一瞬、トイレを我慢しているのかと過ったが、いくらペットボトル飲料を一気飲みしたとはいえ、さっき済ましているはずだ。他に何があるだろうか?


「どうしたの?寒暖差で具合でも悪くなった?」と三歩先に言ったカナメは問い掛けて来る。


「いや、むしろ心地いいくらいだ」

「そう……何か気になる事でも?」

「そうだな……ん?」

「どうかした?」

「カナ、少し向こうに歩いてみろ」


「…………わかった」と彼女が観念したように先を歩く。


 その歩き方を見て、疑惑は確信に変わった。


「もしかしてお前、ヒールや厚底の靴をあまり履かないのか?」


 カナメはその質問にギクッと表情をこわばらせ「な、何の話しかな……」と目を泳がせる。


「はあ……いくらお洒落は我慢と言っても、合わない靴を履いてそこら中を歩こうとするのは感心しないな」

「……それって、迷惑してっるてこと?」

「別に迷惑って訳ではないが、不愉快ではあるな」

「…………」


 彼女は何かまだ隠しているようで、すっきりしない表情を浮かべる。


 仕方ないと思い「歩きながら靴を選ぼう。話はそこからだ」と近づいて肩を叩き、靴捜しの旅を始めた。


 彼女の歩き方はつま先かるするような歩き方で、明らかに靴底がある靴で歩くような動きではない。どちらかというと着物を着ている人または指先で安全を確かめてから進むような作業場の人間の歩き方だった。


 待ち合わせの時点で変だとは思ったが、どうせすぐに別れる人だと思い無視をしていた。けど、ゲーセンで遊んだ経験と相性の良さ、お互いの悪いところ知っている今では、鼻にも目にもつく。


 咄嗟にどの靴が良いかと最初に挙がったのは運動靴だ。お洒落としてはいまの服装と会うのかは疑問だではあるが、歩きやすさは段違いと考えた。しかし、数十分歩いて利うところをみて、運動靴では好ましくないと思った。仮に運動靴を履いてもらって、数時間後にはたぶん、先の辺りがボロボロになると思ったからだ。


 確かにするような歩き方には間違いない。でも、足を上げるときにつま先に力を入れてまるで尺取虫のように動いている足を見て、運動靴では駄目と思った。この時、際の硬い靴があるなんて想定してしてなかった。


「お前、普段どんな靴を履いてんだ?」と思ったことをその質問。


 カナメは考える間を入れて「いつもは運動靴を履いてるよ」と事実なのだろうが、明らかにその言い方が室内でスリッパを履く程度の発言。メインの外履きではないことは透けて見えた。


「あのさあ、外歩くのにスリッパ要求するような態度やめてくれないか。何を気にしているか知らないが、ベストなものが見えているなら教えてくれ。時間の無駄だ」と威圧するように言った結果。


「芋臭いとか思わないなら……」と慣れない靴を擦りながら、躊躇していた理由を証明する場所へ足を運んだ。

 

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