彼女の正体

「なるほど、通りで行きたがらなかったわけだ」


 その店は『職人マン』という作業着店だった。


「幻滅した?気丈に振る舞っていた女性が実は作業着店のヘビィーユーザだったなんて信じられる?」と、目線を合わせず、新発売のレディース作業服を物色し始めた。


「気持ちは分からなくはないが、元が好感度マイナスなんだから気にせずに言えばよかっただろう」と共感する振りをして無神経なことを言い切る。


「そうだね。でも、田舎者を言い訳にして点数の埋め合わせとかはしたくなかったんだ」

「くだらないな。都会とか田舎とかで自分を格付けするとか。確かにクズはクズだし、天才は天才、変態は変態だ。でも、それは本人を見た上での付属品だ。たとえ、お洒落な服に作業靴との――安い⁉」


 組み合わせが悪くとも、と言いかけて作業靴の値段を見て驚いた。作業靴だから五〇〇〇円くらいすると思っていたが、自分が見たのは千円出してお釣りが出てくる値段の作業靴だった。


 その声を聴いたカナメは「ああそれ、樹脂で作られた鉄チンモドキの靴ね。丸太が落ちてきても大丈夫な代物」と淡々と答える。


「この価格で……でも、どうせ一カ月半ほどで壊れるんだろ」と嫌味を込めて漏らす。


「いや、毎日履いて最低でも三か月、長くて七カ月くらい持つかな。そういう靴って汗の油や水分を含んで耐久性を保持しているから、履かない方が壊れやすいの」

「革靴みたいだな」

「革靴は毎日履かないと駄目なものだけど、作業靴だからそこまで世話はいらないかな。丸太が降って来ても壊れなかったし」


「そうか……それにしても作業着店に女性用のものがあるのが少し意外だった。自分のイメージ上では土木工事や農家のおっさんてな感じだったから」と、少ない情報からイメージを膨らませて感想を言う。


 正直気を悪くされても文句は言えないと思っていたが「ハハア、実際ここ最近レディースが追加されたのよ特にこの店系列で。今までは『どうせ汚れるんだからファッション中クソくらえ』状態だったんだけど、女性の社会進出を受けて可愛い物への需要が高まり、作業服をあえて派手派手にすることで、事故防止にもつながるという、まさに革命的だったのよ」と、オタク張りに口が動く。


「そうか、だから目立つパステルカラー系の服が多いのか。しかも、仮に男性が着ても安全のためを言い訳にすることで違和感なく着れる。上手くやってるものだな」


「そうそう、地味な服では汚れが目立たないけど、服の色で遠くにいても誰か解るし便利なんだよね」と、さっきまで顔さえ合わせてくれなかったのに今やキラキラと目を輝かせてその魅力を伝えてくる。


 その想いにゲーセンの時の襲撃の仕返しとして、自分は少し小突くことにした。


「さっきまで、田舎だ、作業着店だの汚点だと思って気にしてたクセに随分な反応だな」


「だって、まさかここまで良い反応をしてくれるとは思わないじゃない。泥と油が混じり合う人たちが来るような店をお金持ちがプラスに見てくれるわけないと思って」と、胸の内を出す。


「まったく、安く見過ぎだ」


 この時ゲーセンで金持ちのアピールを嫌がってた人間が何を言ってると思いながらも店を堪能し、次から装備の資料として通ってみるのも良いかもしれないと思った。



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