太鼓の鉄人

 太鼓と鉄人とは、ポンとタンで構成されたシンプルなリズムゲームのことである。

そのため、老若男女問わず直感的にプレイができ、その単純さゆえに幾多のプロゲーマーたちを屠り、唸らせたリズムゲーの金字塔と称される。


 仮に彼女が鉄人の初心者であっても、ルールが分かんないとは言わせない。


 くわえて、週末は人通りが多いことからワンコイン当たり二曲までだが、今日は平日のため三曲遊べるよう設定されているから、勝負としてはもってこいのゲームだ。


 相坂は慣れた手つきで自分が渡したコインと手元のコインを一枚ずつ入れる。コインが入った音が鳴り、いつも通り財布を出し専用カードが入っている側面を機械に当て、自分アバターを表示する。相坂も同様の手を使っているようでポンとおいてアバターを表示させた。そこで実力がどれほどか、すぐに分かった。


「ヘルロードか、案外やってんだな」

「家のすねかじり強化じゃないからね。ちゃんとした純正よ」

「そりゃそうだろ」ポンッと太鼓を叩き、セレクト画面に行った。


 ヘルロードとは『かんたん』『テイバン』『なんあり』『ヘルロード』という四段階の難易度が存在し、それぞれに細かく難易度も設定されている。


 通常プレイだと『ヘルロード』は追加されないもので、検定モードをクリアしたら超高難易度クラスの譜面が解放される。そこではレア衣装や称号衣装などが存在し、服装だけでどれだけのプレイヤーか、やった奴なら判別がつく。


「最初は小手調べに難易度は『ナンアリ』で『ナイツオブザガンツ』にしておくか」

「おお、良いお眼鏡を持っているようで」とわざとらしい反応


 太鼓をポン!と叩き「ヨーシ!ハジマルポン!」セレクト音声が鳴る。


 選曲したのは『ナイツオブザガンツ』。テンポが速く変曲譜面もあり、難易度を低めにしておいたとしても見栄えのある譜面が人気。上手な人間になると、あえて連打のところで回ったり、休憩を入るとかいうイカレタ行動を取る輩もある。


 机上の空論で、最初から『ヘルロード』じゃないんだよなどと、能弁垂れるアホがいるが、さっき言った通り小手調べであって、ただ体力を削るだけの本気の遊びは求めてはいない。だから、相坂も良いお眼鏡だと評価した。


 大体この1曲の所要時間は一分五十秒ほど。中には五分にもなる譜面があるから短い部類には入るものの、この難易度だとひとつでも打ち損じれば一気にリズムが崩れ、追随する譜面な連鎖的に不可を出してしまう。短時間であるほどにそのショックは大きい。


そのプレッシャーに耐えつつ彼女の勝負が始まった。


 通常譜面は何事もなくお互い全優を出し通過。譜面の入れ替わりで開幕、彼女は良を出してしまい、これはズレるなと確信。だが追突してやってきた布石を良で処理して、変譜の中盤まで良で畳みかけ、自分のリズムずれを煽ってきた。そのズレに不協和を感じならがも染みついた動きは最後まで優を叩きだしていた。一個でも外させるためにわざと不をだしてずらそうとしたが結局彼女の思惑は徒労に終わった。


「ああ~負けた~」

「生憎、猿真似は苦手なもんで」


相坂は勝負に負けた事よりもひとつも乱すことができなかったのがよっぽど悔しい表情を含みつつ、最後まで外さなかったことにどこか喜びを感じている表情。


 負けても楽しい、遊びの外にも遊びの外にも遊びがあるという醍醐味を改めて再確認ができた。だからゲームって奴はやめられない。

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