身銭を切る楽しさ
相手の選択肢を奪いたくば、急がば回れ
ゲームセンタの店内に入り、相坂すぐさに両替機へと向かった。自分はこれは痕になるなと、卑屈な思いを抱きながらその部分を見た。握られた箇所は確かに赤みを帯びていた。でも、それはアレルギー症状の赤みではなく、強く握られたことによって起こる軽い鬱血の症状で数十秒したら元の皮膚の色に戻っていった。
「はいこれ」と、相坂は自分に小銭を渡してきた。
「なにこれ?」
「なにこれって、百円玉が五枚で―—」
「そうじゃなくて!」
「ん?」と、頭を傾げ疑問顔。
自分がその顔をしたいと思いつつも、最初にこのお金はいらないという話をした。
「別にこの店なら自分がいるから無料でゲームを遊べる。銀堂家の管理しているゲームセンターだから、わざわざコインを用意しなくて良い」と説明。続けて。
「お前さっきの店では一銭も払わなかったのに、何でここでお金を使おうとする?」と本当に訊きたかった内容を伝えた。
相坂は「ハア……」呆れたため息を吐き「だから何?」と不機嫌な様子を見せた。
「だからって、質問に答えていない!」
「あのね!さっきのお店についてはあなたに落ち度があったって、話は終わっている事でしょ。それにいくらここが遊び放題ゲーセンだからって、小銭を入れて遊んではいけないなんてルールも法律もないでしょ」と矢継ぎ早に答えた。
「確かにそうだが、無駄にお金を使っているとは思わないのか」と、一喝。したが、彼女の次の発言を受け、ふたたび思考を破壊されことになる。
「まさにそれが『だから何?』よ。……もしかしてアンタ、たった五百円で女一人満足させることができないからって、家の財産に頼ろうとしているのかな」と、わざとらしい煽り文句を添えて、ププッと笑って見下してきた。
そうされた瞬間、カチンと来た。コイツが煽ってきていることは怒りを覚えながらも解っていた。しかし、商業科の血が疼き「上等だ!その長く伸ばした鼻をへし折ってやるから覚悟しろ!」と完全に乗せられてしまった。
この時のことをカナメは、家のことを嫌っていることを前提に攻めたそうだが、まさかそっちの気を起こして歯向かって来たことが予想外だったと後に語っている。
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