格の違い
※切り貼りう内容
食事を終えて、会計のときになった。ここが最終問題とも呼べる項目だ。ここで経済的価値観をはかることができるからだ。
例えば、割り勘にしようとか、食べた分を払うとか言い出すのは定番なところ。中には男が奢るのが当然などと偉そうにする奴もいれば、経済力を見せ付けるためにすべて払う大胆な人間もいる。
相坂はどのようなタイプか。見極めなけらば、彼女の本性は判別できない。
「相坂さん」
「なに?」
「いくらこの店に金額を払う?」
「そうね。三千……」
そう訊かれて彼女は財布を取り出そうとカバンを探り始めたが、ピタッとその動作を止め、突然不機嫌な表情を浮かべ始めて、
「今回は払う気はない」と請求を突っぱねた。
ん?と何に気を悪くしたかは知らないが、少なくとも『この店のサービスに価値わない』という意思表示を見せられたことだけは間違いない。
「そうか、全部払っておくよ」と、対価とチップも払い、店を出た。
途端に「自分は帰る」と彼女に言い放ち背中を向けて置き去りにした。常人ならば何で置いていかれているのか理解できず、説明を求めたり、思考がショートして一気に情が冷め怒りの声をあげて、何かしらかのアクションを起こす。それを合図にどこが悪かったか発表して、心をへし折り、反省を促す。これは放蕩生活を始めたからそうしている。
そうすることで、魅音座の方にはヘイトが向かず、自分だけが恨まれるだけで済む。思い出すに最初はそうだった。しかし、この時の自分は人生の中で最もクズだった時期で、人間の絶望している姿を見て欲を満たす化け物になっていた。
でも、今回は違った。振り返った瞬間に見た光景は、腹を抱え、涙を流し、爆笑している淑女の姿であった。
「アハハハハ、可笑しい。腹が捩れる」
「何が可笑しい!」
人相手にしかも女性に向けて煮えかえるような憤怒の怒りをぶつけたのは何年ぶりだろうか。もしかしたら、ここまで怒ったのも始めたかもしれない。
「だって、アハハハハ」
「……」
ビビるどころかさらに笑い始めた。あまりにも予想外の展開にフリーズして頭が真っ白になった。酒を飲んでもここまで真っ白になったことはないとクラクラした。
それもそのはずだ。ここでやっとネタバラシするが、実は彼女、相坂要はこの店の経営に関わる人間の一人であり、彼女の両親に挨拶した時、どんだけヤバいことをしていたかを脂汗を滲ませるくらいに思い知らされることになった。
だって彼女の母親はこの店シャ・ゴーレの名付け親であり、店主の師匠。そして、食材もそこ縁があって提供されている一級品の生産者でもあったからだ。
つまり、ずっと釈迦に説法を説こうとする
前情報としてそれを知っていたらここまで無作法なことを働かなかったと個人的には信じたい。まだその事実を知らない自分は何が起きているのか理解できなかった。
そこに喝を入れるように相坂要は、自分のどこが可笑しかったか語り始めた。
「そりゃ、腹抱えて笑うに決まってるじゃない。ここの店にお金を払わなかったの別に価値がないからじゃなくて、あんたが勝手に予約して、勝手に私を罠にはめようとして、挙句の果てに失敗したからって、尻尾巻いて逃げる。これを笑わない方が失礼でしょが、アハハハハ」
解説を聞いた刹那、自分の中で大切にしていたものが音を立てて粉々に散った。恥の感情か、それ以上に強い何かだ。胸の奥の芯が締め付けられような虚しい痛み。中学の時に味わった絶望とも全く違う漂白感。頭の中で今まで食い物にした女性の顔が実際は違うと確信が持てるのに、目の前の淑女を見ているとすべてが、嘲笑の表情に書き換えられてゆく
説き伏せられる
「なら、お前ならどうするんだよ。この後のデートプランをどう提供するんだよ」
自分がどれだけ薄情で冷徹、そして何よりもどれだけ弱い人間かを自覚した瞬間に耐えきれず、その言葉が洩れた。
彼女はその隙を待ってましたと言わんばかりに、走り込んできて、咄嗟に自分の手を握り、身体がビックリしている隙も利用してその場から足を滑らせ、ほぼ店の向かいにあるゲームセンタへと自分を引きずり込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます