食事の仕方は人相を語る

 注文して十五分ほど、頼んだ料理が目の前のテーブルに並んだ。


 ここからが最も人相が出てくるところだ。蛍にいつも言われていたが、食事はよっ教に根差したもののため、その立ち振る舞いが如実に表れるそう。続けて自慢げに特に食事の最期の処理の仕方に人間性が現れるとか。


 最初は「どうでもいい」と何度も否定しようとした。けれど、そのこれはこうといったことはほとんど当たっていて、目の当りにしたらもう否定のしようがない。その記憶がこべり付いていたのか、気付けば頼むものは失敗しない内容に変わっていた。これも傲慢さを助長させた要因だなと現在は反省している。


 そう、この時頼んだ料理の品々は、気分で選んだ物ではない。着ている服にソースがついても目立たないようあえてカルボナーラ選び、お皿を綺麗にするためにパンを用意してもらっている。ジャガイモのポタージュはパスタのクリーミーさとイモの触感と塩気をかけて味を調節にした。


 対して、相坂が選んだ物は飛び散れば服の白いところに目立つミートスパゲティーを選び。最後同様に綺麗にいただきつもりなのであろう。スープがオニオンスープにしたのはきっと形態を真似したものだと、この時点では決めつけていた。


 だって彼女が選んだ料理には致命的なところがある。パスタという食べ物は現地人であっても確実に飛び散る食べ物だからだ。したがって、エプロンを着けて食うのが基本となっている。


 とはいっても、フォークを使えばほぼ飛び散らずに食べる方法があるから自分には必要ない。けれど、相坂は一度オニオンスープで一服して、その飛び散りの王様に対し、箸で挑もうとしている。その姿はカレーうどんの悲劇を知らない所業だ。

 

 食事の後、こんなソースが付いた女とデートするのかとタイプだった分、勝手に萎えていた。この態度には自分も呆れるほどに失礼だったと今でも後悔している。


 なにせ、この後まさかの神業を見せられることになるのだから。


 自分は先に手本を見せてやろうと、すぐさにフォークを手に取り、文字通りフォーク一本でパスタを引っかけ巻いて口に運ぶ。え、それだけと呆気にとられる方法だと思う。実はフォークの外側一本から隙間へとパスタを数本ひっかっけ回すとパスタがほどけにくくなり、通常時解けて飛び散る飛散リスクがグーンと下がる。


 何も知らない現地の方法ではエプロンまで飛ばないにしても、机がソースでベシャベシャになる。そうなると掃除が面倒になるからどれだけ飛ばさずに食うかで、格の差が出てくる。


「どうだ」と内心の感情がドヤ顔として表情に現れていたと思う。


 それで彼女の食べるところを見たとき、フォークを動かす動作を止めて魅入った。


 彼女は難もなく箸でパスタを折りたたむ形で口に運び、最後の尻尾を器用につまんで口の中に放り込む。飛び散りを確認しようと服や机を見たが、一切確認できない。


「なに?何か変なことしてるように見えるの?」と一度ナプキンで口元を拭き訝し気に訊いてくる。

「箸で器用に食うなと……」

「……そう、あんたの方がキレイに食べてるじゃない。フォーク一本で。フォーク使う人ってただ気取っている人間ばかりだと思っていから感心した」

「まあな、そのやり方にはコツが―—」

「ああもう、そういうの良いから美味しいうちに食べましょ」

「そ、そうだな」


 と、お互い特に会話をせず黙々と相手を気にせずに食べ進めた。そして、ほとんど食べ終わり、食後のパンが出てきてきたころ、さらに驚かせる展開があった。


 自分はパンを裂き、さらに残ったソースをパンにつけて口に頬張る。至ってきれいな事後処理だと思いながら彼女の様子を見る。最初にパンを残ったオニオンスープにつけ、その個所をかじったあと、お皿のソースを救って口に入れる。


 何が凄いって、パンの粉まで出さないように食べているのかよと、配慮の差を見せ付けられ自分は愕然とした。真似しようとポタージュに付けたとき重大なことに気付かされた。ギャグのようなことを言いたくないが、でんぷん粒子と粘度関係でポタポタ落ちる危険性が高いことをカップ内で思い知らされたからだ。


 ちゃんと頭を使って料理を選んでいたのかよと心の中で何本も取られ頭を抱えた。


「ごちそうさまでした。……どうしたのパン掴んだまま固まって?」

「いや、なんでもない。気にするな」

「……そう」と、相坂は簡素に返答し、自分が食べ終わるのを文句も嫌な顔も出さずに待ち続けてくれた。


 食事の面では、何ひとつグウの音も出ないほどに負けたと感じた。だが、この後のことが重要だと思いを気を持ち直し、次の項目に移った。

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