選別と餞別 7.311
待ち合わせ
「来ねぇな……」
昔の全かが言うのもなんだが、待ち合わせの銀天通りの公園の時計を見やりながら、約束の相手が来ないことに「運命の当てつけか」と憂いように待っていた。
連絡が無いなら過ぎて一時間経ったころに帰るが、定期的に連絡があり「『十分遅れる』。『三十分遅れるかも』。『もう十分遅れるかも』」と連絡が来て、かれこれ二時間のズレが発生し一時間前に音信不通になってしまった。
何か事故にでも遭ったのかと連絡をしようとは考えたものの、言霊が現実に成ったら面倒だと思いそのままにして相手を待ち続けることにした。それは昔の贖罪をこなすように。
さらに十分経過し軽食を買いに行く暇さえもあって、それでも来なかったから名残惜しいが帰ろうと、帰路の方向をみたら「え、まだいたの?」と口を押え、引き気味に驚く、今日の相手である相坂カナメがいた。
「遅かったじゃないか」
「え~とその……どうも」
彼女はここまでの大遅刻をしたことに引け目を感じているらしく、どう反応したら良いのか戸惑っているようだ。蛍のように「来たんだ、さあ行こう」と言えたら格好良かったのだろうが、アイツの真似をするなおは何か癪だったから、とりあえず相手の様子を観察することにした。
本気で急いできたのか白いワンピースのスカートの裾が粉ぽく汚れており、履いているパンプスも下ろしたてだろうに薄汚れていて、心なしか靴先がすり減っている様子。運動靴なら未だしもヒールのある靴で走れば足だってただじゃ済まないはずだ。けれど、足を痛いと我慢している顔には見えない。
しばらくの沈黙にシビレを切らしたのか、相坂は「そんなに楽しみだったんですか?あたしが来ることが」と、あのイカレタ女の経験がなければ「は?何いってんだ」と冷酷に突き放していたところ。まさか蛍と同じようなことを言う奴がいるとはなと内心思いながら「行くぞ」と彼女に指示を送った。
相坂はまさかこれで赦してもらえたと驚きすぎてか「あ、あの怒――」と何か言う前に「早く来い。来ないよりかはマシだ。行くぞ」と自分は再度、付いてくるよう指示を送る。
堪忍してか「あ、はい……」と駆け足で自分の三歩後ろにつき付いてきた。
じいさん世代の女性かよと心の中でツッコみながらも目的地である行きつけの食事場『シャ・ゴーレ』を目指した。
後日、二度目のデートの時に遅刻した経緯を教えられて、カナメ曰く遅刻しないよう気合を入れて予定時間より三時間前に到着しようとしたそう。
だが、運悪くハイヒールの踵が水路の側溝に嵌り、三十分ほど悪戦苦闘して抜けたかと思ったら折れて、渋々靴屋を探して一時間。靴屋に入ったら店員に長いこと拘束されて、さらに一時間。ギリギリ着けと思ったが、バスが事故で遅延していて、仕方ないから電車を利用し目的地の五駅前まで行けたものの、同じ路線の電車に猪が引っ掛かったらしく。停車。連絡しようとしたら、電池切れですることも叶わず。もう行くだけ行って、帰ろうと思っていたが、何も叱責されなかったものだから一瞬、待ち合わせ時間この時間だっけと思ったとか。
そうしていたら「遅かったな」と言われたから、やっぱそうだと罪悪感と申し訳なさが混在し、昔祖母と同じ病棟にいた女性に教えられたことを咄嗟に出して対応したら何か、そう上手くいってますます混乱したが、最後に「来ないだけマシだ」とその女性が返した言葉と同じだったから、さらに驚いながらも、「来い」って言われてるから行くしかないなと思いついていったとかなんとか。
その女性が誰かはもう説明する必要は無いだろう。
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