城島蛍との出逢い
地獄の中学時代を終えていろんなしがらみから逃げる形で、とりあえず県外の高校に行こうと思い適当に入ったのが運の尽きだった。その学校では自立できる道を求めて商業科に入り、勉強漬けで卒業しようと考えていた。
はずなんだが、この学校の特徴によりその計画の道筋はかき消された。この学校には商業科の他にも普通科や調理科、看護科、哲学科といった学科があり。通常はその学科それぞれの勉強をするのだが、他の学科の人間と協力して他学科の勉強や資格を取ることを推奨されているため、人との関わりがイヤでも回避できない特殊な仕様の学校だった。
したがって、式が終わった後は食事も用意される馴れ合いが始まり、案の定、自分が銀堂家の人間だと先生にあっという間にバラされて、その名前を知っている人間たちが群がり、自分のことではなく家のことばかり訊かれてくるものだから、どこ行っても変わらないのかとその時はうな垂れたものだ。
そんな中一人の女子生徒が目に入り、母親のもぞもぞ声で鍛えられた口の動きで判別できるスキルが働き彼女の「可哀想な人」という言葉を読み取れ、誰に言っているんだと興味を持った。
けれど、気にするほどじゃないと目を反らしたが、目線を見た商業科の先輩が「気になるなら行ってこいよ。他学科と関わりがないと逆に目立ってしまうぞ。それに赤点取った時に言い訳ができるから今のうちに行ってこい」と肩を掴み叩かれ、面倒だと思ったが、後顧の憂いを無くすためにも、とりあえず接触することにした。
それで最初に言われたのは「あ、可哀想な人」と自分が求める答えを即答された。
「誰が可哀そうな人だ」と対抗したがさらなる運の尽き。
城島蛍と名乗る普通科の彼女は「だって、人間不信のクセに何の因果か、この学校にぶち込まれてしまった可哀想な人だと思ったから」と、まるで自分の運命を見透かしたような発言をしてきて、最初の印象としては「何だこの異星人みたいな女は」と内心呟いてしまったほどだ。
だが意外にも喋りやすく、自分の捻くれてしまった価値観を聞いても彼女は「面白い考えだね」「じゃあこう考えられない」などと決して、「辛かったね」「苦労したね」と、いらん励ましも憐れみもせず、さっきは『可哀想な人』なんて言ってた割には、随分と人の心理が分かっていると、感心させられたものだ。
いくら人の暗部とはいえ、そこに対して余計な善意や共感は逆に相手を傷つける。
ここまでの文章を読んでいてやたらと逆接的な多いなと気付いた人もいると思うが、この癖は彼女が「どう思う?」「他の見方は?」「それできるの?」と定型文を応えさせられた結果、妙にそんな文章が多くなった。芸がないと思うかもしれないが、自分は小説家でもないからそこら辺は赦してくれ。今更いうことではないが……。
そうこうしていると、いつの間にかに「君って商業科の人?彼女は哲学……ごめん、普通科の人だった」と、調理科の方シレッと参加する男や「私もいいかしら」とその輪に侵入してくる看護科の生徒。
「う~ちの部活に入らない」と哲学科の人間も入り込んでくる始末。
挙句の果てに先輩が立ちも入ってきて、いつの間にかに『城島蛍と自分がデート』をする流れになって週末にそれが決行されことになっていた。
どうせこの場のノリだろうと軽く見て、自分は当日行かなかった。
これがマズかった。その事態は休み明けの昼休みに起きた。
「ちょっと来い」と他学科の同級生や先輩に呼ばれ、哲学科のヤツが所属する部活の教室に突っ込まれ「お前、デート当日行かなかっただろ」と椅子に括りつけれ、尋問された。
「安心しろ。先生から許可貰って問題解決以降に教室に戻ります」と雑に応えたら、昼休みどころか放課後まで尋問されそうだったから、自分は「その場のノリで勝手に決めといて、よく言うよ」と愚の音も出ない回答をした。
「ああ、もちろん」とその行いについて肯定した上で「けどな、彼女の健気な態度を見たら泣けてきて」と監禁までする理由を語りはじめた。
デート当日、城島は待ち合わせ場所で時間が過ぎてもずっと待ち続けていたそうで、昼を過ぎたところで隠れて監視していた女子が「もう帰らない?来ないみたいだし」といったが、彼女は「来るまで待っておく」と言い出してそのまま待ち続け。最後に先輩が三時まで監視を続けてトイレ行っている間にいなくなって、その時は帰ったのかなと思っていたそう。
だが、登校日に「デートをしたよ」と同クラスの人に上手く言ってたようだが「写真とかないの?」と問われたことにより嘘だと発覚。これは由々しき事態だと思いこの軟禁状況に持ってたと、泣きながら語り終わる。
そこにタイミング良く、蛍がやってきて「ちょっと、あたしナシで何してるのよ」と叱責し、先輩方は「不誠実な奴はこうなるんだよ」と伝統を示した。
チャイムが鳴り、蛍は「もう教室に帰って」といったものの「問題が解決できるまで帰らない」と言われたから、蛍は悩みながらも「遊学くんこの状況を収めるためにまた今度デートをしてくれない。このままの長引くと一発やらないと終わらなそうだから……」と、周りからは下ネタぽくいってるが、拳を握っているところが見えて、そうなっては余計にこじれると思い「分かった約束する」とその場を収めた。
「今回はノリなんて言いうんじゃねえぞ」と釘を打ち付けれ皆戻ってゆく。
自分は蛍に拘束を解いてもらいながら「悪いことしたな」と謝罪。
蛍は「別に待つのは慣れてるから」と彼女の闇を垣間見て「そうかとしたか」としか反応できなかった。
思い出してみれば、随分と過激な学校だったと思う。だけど、この伝統があるからこそ、社会でも通用するし、通常の学科の人間が持たないスキルを持って世界へと羽ばたけるのであろう。まったく運命もこの学校も末恐ろしいものだ。
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