異端児達の未来構想
「みんな聞いてくれ。俺の最高傑作を!!」
キドが持ってきた企画書を見て、各々のリアクションをした。
自分は思わず吹いてしまい。
志保は「これマジでやるの?」と地味にイヤな顔。
小鞠は「アハハ!!最高に差別的なビジネスね!」と適切なまとめ。
創英は「確かに冒涜的だが……うちの才能を採用するならそうなるだろうな」と、良識的には駄目だと認めつつ、こうでもしないと活かしきれないと納得。
他は「言葉に成りません。リアクションできるのが凄すぎますよ」と幹部たちを引き気味に見ていた。
その内容は『女性たちにご飯代を出させて、男性陣には場所代を払わせる』というあまりにも画期的すぎる企画書で、まさに『新しい体験と出逢いを提供する魅音座』にふさわしいビジネス内容であった。
この二年間書いてないこと以外にもいろいろあって、普通は揃わない手札がいろいろあるから用途の可能は幅広い。それを組み合わせて、たどり着いたのが『婚活ビジネス』というのは何とも面白いものだ。
細かい内容を読んでいて、よくこんな話を覚えていたなと感心する内容がチラホラ。言った本人すら「はええ、こんな考え方があるんだ」と人ごとのようにいう始末だ。キドは良い着眼点と解釈を持っているといえる。
以前自分が「もともと服装や礼儀は相手に文化と民族を知らせる言葉ない言語だ」と語ったことがある。そこで「それを忘れて、伝統という名の形骸化した論理に押し付けられ、現代人は表面上の美学に縛られ文化の発展を妨げられている」と文句を垂らしたことがある。
キドはその話と仕立て屋が貸し出しで抱えているドレスや背広があったことを思い出し、偶然テレビ番組で見た中古ウエディングドレスを販売して利益を上げる方法を知り「だったらその在庫を客人に提供して、販売すればいい」という考えと「敢えて中古というブランドを使って、人柄を中心に見れる環境を作り。スーツ効果を利用して対象の礼儀を聞き出すことも可能、くわえて変に汚しても罪悪感を残さない仕組みが構築できる」と熱弁。
「確かにそうだけど、男女で払うものを分けているのは何でなの?」志保はみんなが気にする点を指摘。
「それは料理人だからこそよく分かることだ」と創英が答えた。
横取りされてキドは気分を悪くしてデシャバッテくると思ったが、スっと後ろに下がり創英の話に聞き耳を立てる。この行動を見て、二年前のあの不躾な男であったのが嘘みたいだと、キドの成長に身を見張るものを感じた。
創英はその技に気付くこともなく気分よく言った。
「よくSNSとかで映えだがバエだか知らないが、写真を撮っただけで出て行ったり、お腹いっぱいだとか言ってそのまま残す女が結構いるんだよ。作っている側としたら、処理も面倒だしその生ゴミから食中毒の原因が――」
「それで」と小鞠が長くなりそうだから一度創英に蹴り、結論を煽った。
創英は気分を悪くした様子を見せたが「そうだな」と二秒ほど内容を咀嚼する間をおいて「結論、女性陣に費用と配膳してもらえると、余計な残飯が出にくくなるってだけの話だ」と、どこか引っ掛かる投げやりな口調。
幹部女性たちは、ただの愚痴かと創英を下に見て睥睨する。
「二人とも睨むなって、折角の可愛い顔が台無しだぞ」とキドが茶化しを入れ「創英がいったことも考えの一部だ」とフォローも入れて、キドの話に繋げた。
「残飯問題は食品業界の暗部だ。そこを無視すれば、世間体もあまり良ろしくない。俺が発案した理由はそれとあと二つ。単純に女性に食事代を負担してもらえると、食べ物を無駄にしようという気持ちが減ること。食事の減り具合でその娘にどれだけの人気とチャンスがあるかが可視化できるという点。もっとは、用意された食事で相手の性格が把握しやすいという最大の点だ」
「なるほど、確かに料理のバリエーションは人生そのものだからな」と創英は大きく頷く。小鞠も志保も納得した上で、小鞠は「ではこのゲテモノ枠とは何だ?」とキドに質問。
「ああそれね。中古論と同じで、人の暗部……いや、その娘の素直さを出すための枠って奴かな。人は完璧ではない。善もあれば悪もある。相手の良いところもそうだが悪いところも識ることで関係というものは強固になる。いくら相手が天才をうならせる変態でも、実は下ネタばかり言う紳士で受け入れられずキレたり、見た目は美人で気が利いて相手のサポートが上手い人でも、昆虫食が好きなんだとか言い出すモリガールだっているかも知れない」などと、例えが独特な論調で皆に伝える。
「そうだね。そこまでいけば、どんなクズでも支えたいという情は少しでも出てくるしね」と、志保は淡々と肯定する。
続けて志保は「それに、男女比が三対一構成だから食事が余ることも女性が余ることも少ないだろうし、よく考えられた内容だ」と企画書を評価。
「くわえて、女性をエサに参加人数を調整するという発想は現代の世論と手ごろに逆行していて帆に充分な風が入ってくる。長くはできないだろうが、オープンする事業としては期待値があるな」と自分の意見も突っ込み、キドはそれを見て自信が付いたのか。
「そうとなれば、もうやったよう。まずは仕立て屋と取引できる業者に協力を仰ごう。後はモニタリング用の人材を集めて……とりあえず、五人ほどに当たってみようか」と思い立ったが吉日と言わんばかりにキドは教室を出て行った。
「ちょっと待って!あんただけで行ったら絶対事故る!」と志保も追って出て行ってしまった。
「もうちょっと、練ってから行動しないか。詰めが甘すぎる」と創英。
「言いたいことは分かるけど、あれがキドの良いところよ」と小鞠はクスクス笑っていた。
「まったくだ……」
自分はその騒々しい様子に呆れながらも、一つ心配なことがあった。どんな優秀な組織でもチームでもそうだが、必ず失敗は起きる。特に原動力が一人という状況は、一夜にして組織を崩壊させるものだと識っているからだ。
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