だから、イケオジって嫌いなんだよ

 一方そのころ、町中でパトカーとのカーチェイスを繰り広げている最中、自分は叫び疲れて、しばらく車内で魂を泳がせていた。


「銀堂さん、あと五分ほどで目的地に着きますぜ」


 その渋い声に反応を返すために、紐で繋がった魂を引き戻し「そうですか」と揺られ過ぎてグロッキーになった苦し紛れの声で現状報告。


 視界が少し淀んでいたが、その目で周囲を確認。あんな走行をしていたんだ、法の秩序を守る者たちからすれば、カモどころか狩猟対象であったはずだ。警察に見つかってから序盤は五台のパトカーに追われていたが、腕利きの刑事が追跡観察をしているのか、七、八〇メートル範囲を基準に一台のパトカーが追ってきている。


 自分はこの後さっさと主戦場に行ってしまったから、追って来ていた警察官と会話をすることがなかったが、のちにあのテロ事件でそのパトカーを運転していた新人警察官と獄中で会話できる状況があって、詳しい話が訊けた。


 余談だが、その経験と正義感が相まって、「正義のためなら法だって無視しますよ」と闇落ちギリギリの発言をしていて、「今はそのときだが、日常に戻ったら法律は守ってくれよ」と、余計な真似をさせないために釘を刺したものだ。そんな人間でも、今ではシモク政府の偉いホストについている刑事になっている。


 人生、何が起きるか何か本当に成ってみるまでわからないものだ。


「銀堂さん、降りる準備と横揺れの衝撃に備えてください。失敗したらすんません」


「な――」にする気、と口から出る前に――喋っていたら舌噛み切るぞと思考が過ったから黙り、運転手の言った通り衝撃に備えた。

 

 本山に着く一本道でドリフト走行し、門前寸前で横付けして停車。


「ふう~行ってください!!」


「アリガトウゴザイマス……」と自分はお礼を言ったあと「タクシー代!」と財布を開ける。


 運転手は「賄賂なんていりませんから、さっさと行け!!」と、ドスの利いた声。


 自動ドアを既に開いている。


「払うものは払う!」と、融通が利かない発言をした。


 イケオジはそのくらい意固地になるのも分かっていたのか「あなたには成すべきことがあるのと同時に、私にもやるべきことがあるんですよ。邪魔だからさっさと行きな!これ以上巻き込み事故をごめんだからよ!」と、今しか見ていない自分に一喝。


「んっ…………」


 自分の法を否定することになるが、確かに今はその我を通すべきではないと判断した自分は、運転手に対し「だから、イケオジって嫌いなんだよ!!」と、感謝の悪態を付いて、その車内を後にした。


 ここからは運転していた新人からの話になるが、追跡していたパトカーがやってきて、運転手は手を上げ投降。


 新人は「手をだしてください」と事情も知らない無作法な行動を取った。


 その行動に上司が「待て、彼と話がしたい」と、その行動をやめさせ、暴走タクシーの運転手に歩み寄り「久しぶりだな」とお互い挨拶を交わしたそうだ。


 新人は前科者かと、正義感に任せて暴走タクシーの運転手を憎々しい目線で見ていたそうだが、上司は「散々でしたね。最初に遭ったのもここででしたね」と懐古の念を漂わせた。


 イケオジも「そうだな。もう二十年も前の話しですが……」と同じ念を抱く、口調で共通意識をすり合わせて、現在の人柄とすり合わせているようだった。


「実は、偶然にもドリフトしている時にあんたの姿が見えましてね。後ろに昔大暴れてた銀堂家の人間を乗せているのが見えまして、何が起きたか察しました。それで何台も追いかけてきたのを交通整備に分け、こうしてあなたを裁きに来ました」


「それはご苦労様で、同時に最高のシナリオに参加していただき感謝するほど。この時点での悔いはありませんよ」


 これがプロの警察官かと新人は感銘を受ける中、上司はとある二択を用意した。


「左様ですか。罪を認めるのですね。では、このまま署に行くのと、ここで運命を見届けるのどちらにいたしますか?」


 この選択肢に、当時の新人はすぐに犯罪者は捕まえるべきという価値観だったため、上司が提示したその選択肢の不信さを抱き、「そんな慈悲もいらない大悪党ですよ。今のうちに逮捕しないと、大変なことに!」と幼稚な反抗だったと反省するほどの行動に上司は「彼は逃げない」と何の根拠もない回答をしたという。


「逮捕とは何かな?新人」

「逃げないように捕まえることです」


「そうだな」と、肯定した上で「悪人にも三分の理がある」と諭され、運転手に「それでどうします?」と訊く、交通違反をした運転手は「できれば、見届けたい」と車体に背中を預けて余裕をかますように、一本タバコを出して火をつける。


 新人の目線からはその態度が癇に障り、声をあら上げようとした。が、上司にふたたび止められて、寂しそうに「これがジェネレーションギャップという奴なのかな」と、まるで自分が悪人のように扱われ不満が募らせた。でも、これをきっかけに上の世代とも話ができる人間になる必要があると反省し、過去の作品を漁ったとかなんとか。

 

 現在では、昔の世代はほぼ一本道で学ぶ方がラクだが、若者文化は多岐にわたりすぎてよく判らんと、三十代後半の癖にジジクサいことを言っている。


 現に三十代になって自分にもそれが分かるから、自分の世代より上だろうが下の人間だろうが、優しく事を教えてくれた方が、お互い僥倖な関係になれるとは思う。

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