六代目家督戦争 9.489
影打ち襲来
もう既に戦いが始まっている大広間では候補者たちが議論を重ね、過去の事例や個人の方向性、どれだけ己が当主に相応しいかの内容をすり合わせていた。
伝達者健吾から聞いた話では、最初は銀堂茂也が五代目になったことはベストだったと意見されて、もし、あのまま銀堂浩司が成っていたらバブル崩壊と一緒に家の命運も瓦解していたと有力候補を影打ち。そのあとパンジャガールの活躍を挙げて、彼女を選んできた五代目に称賛しながらも、業務に固執し過ぎな面と融通の利かない点は駄目だったと指摘。
その後は叭袈牢や海外企業、シモク政府との関係性のおさらい。候補者たちは個人の主張に移り、そこが最も激化したという。
現段階、有力候補である銀堂浩司氏は、自分が当主に成れば銀堂家の幕引、つまりは一族の解散を考えていた。一見してみれば当主としていかがなものかと、悪く勘ぐってしまうが、本人の意見としては変に延命しても全体的に傷口が広がるばかり。もしこのまま最後まで踏ん張り続け、本当に瓦解するときが来たら一族、個人が汚点を遺し、挙句の果てに路頭に迷うことになると危惧してそのことを発言した。
確かにその危険性は大いにある。いくら溢れ者の自分であっても腐っても銀堂家の関係者。仮にその最悪の結末が来ていたら、しばらくはいじられ続けていたと思われる。銀堂家の当主の条件上その結末も全然あり得たし、そうなる前に幕引きをできるのもまた当主であるとも納得がいく。
他の候補者も理解は示すものの、それは最終手段という目線で一度意見としては取り下げ、他の候補に耳を傾ける。
湊の兄貴は叔父の意見を加味した上で、それでもジリ貧でも良いから耐えるべき、維持すべきだと表明。当時の現実問題としては絶望的だが、先の未来ではどうにかなるかもしれないと希望を持たせ、我々の一族の神を信じる必要があると説いた。
現在ならその神を信じることができる。けれど、見えない立場からすれば、神頼りという他力本願に体を措こうとする態度には苦服なところが感じられる。
宗谷と花音は頷きを見せ、健吾も浩司と同じ渋った表情をして、不満があったが、同様の顔をしてしまうのも無理はないと割り切ったとか。
次に発言したのは銀狼の代表宗谷。二人の後始末のような意見に喝を入れるように、宗谷は新規事業を行うと宣言。根本的に金融業が斜陽の下火なら、家財をくべるのではなく、希望の陽があるところに鍋をおこうと発したのだ。
宗谷さんらしい無難な考え方だと思う。けれど、そこにはギャンブル要素、そもそも金融業が下火になるほどの社会が来ているこの状況で果たして、良いところが見つかるとは思えない。いくら神の力があっても砂の上に棒を立てただけでは、横転の可能性はぬぐえないものだ。
有力な男性陣の回答が聞いた上で銀嬢の花音は、最悪から二番目の回答をした。
「では、私が成ったら、叭袈牢のどこかに譲渡か委任でもさせていただきます」と発言。
花音さん曰く、問題なのはこの家の家名や土地が失われる可能性があるのが問題なのだから、そのリスクを失くすことが重要だと説明。当主はあくまでその二つを護るのが務めだと、あらためて当主の条件を掲示した。
そして、候補者最後の伝達者でもある健吾は、弱気ではあるものの最もベストな回答をした。それは「遺言書通り、遊学君にやってもらうか。もしくは当主の正統の嫡男で長男である、晴彦の兄貴にことを任せるのが良いと思う」と、怖気づきながらも候補者たちに真打に賭けるべきだと発した。
候補者たちは各々に、
「いねえ奴らの話をしても仕方ねえだろうが!」
「確かに晴彦なら間違いないが、現にいないから残念ながら話にならない」
「同様にその影打ちである人間も今ここにいないわけだし、なまくらでも我々でどうにかしないんだよ」
「悲しい話、皆がいってることが現実よ」
等々、生憎その意見に全肯定する者はいなかった。
その後、統制のない討論が続いて、健吾は「もう、万策ときた」と心が折れる寸前。パシャっと聞き心地の良い中央の襖が開く音がして、狼狽の空気を切り裂いた。
そこには、次期当主に成る権利を持つ――遊学じゃない遊学がそこにいた。
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