銀堂家六代目銀堂遊学
「六代目を襲名する前に、皆に聞いて欲しいことがある。それは銀堂家五代目当主、銀堂茂也の最期についてだ」と、発した途端に空気が変わるのを感じた。
「銀堂茂也、いや、俺の親父は確かにクソ親父として散っていった。だが、それは俺が望んだクソ親父の死に方ではない。自分が望んだ死に様は勝ち逃げをする厚かましく皆に悪態を付かれて旅立つクソ親父であって、医者と看護師と母さんと兄貴だけ、自分を含めても片手で収まる人数で見送っていいクソ親父じゃない」
「晴彦の兄貴がいたんですか⁉」と、候補者の中で最も喋らなかった男、東雲健吾は驚きのあまり口走り、
「ああ、そうだ。自分は最期の言葉は聞けなかったが、兄貴は『あの世以外で二度と顔を見せんじゃねえぞ』と言われたそうだ。もしその現場にいたら自分が撮止をさしていたと思う。まったく、飛んだクソ親父だよ」と、あれ?兄貴なんていたかなと記憶を検索するが自分の記憶にはない。けど、その状況が生々しく思い浮かびその発言に至った。
「そ、そうですか……」健吾はぎこちない返事をし、あらためて己が知っている遊学じゃないと理解し、このままフェイドアウト。
五分くらい沈黙が続き、おそらく各々に思い出すことがあったのであろう。次の一手が出るのを待ち、次にその流れを作ったのは、宗谷だった。
「じゃあ、早速ですが、当主に成ったら実際なにをする気ですか」と、抱負を促す口火を切った。
身体に馴染んで来たのか、銀堂遊学は自分が発してもおかしくない口調で「解体する」と呆気ない一言。
「それはどういう意味?」と花音さんはスイッチを入れる形で訊いてくる。
「文字通り、銀堂家を解体する。正確には家の金融業を解体。それ以降は帰って来た真打である、晴彦の兄貴にその土台を渡すつまりだ」
「それは随分と、他力本願で本当に大丈夫なのか?」ここで叔父の代わりに悪役を演じないといけないと思ったのか、湊は話にわざと水を差した。
悪役が慣れてない分、下手な油さしだなと思いながらも流れに乗り「うん、正直ギャンブル性の方が高い。湊の兄貴も分かっているとは思うが、解体するということは一瞬でも無防備な状況を作ってしまう。それを前置きとして現実問題としてはデカい稼業を潰すんだ、数年単位で裸一貫状態になることは仕方ないことだ」
「それじゃあ、その間は誰かに委任させるってことかしら?」と花音はさらなる深堀を要求。
「他力本願といったらそこまでだが、なるべく外部からの介入は避けたい。精々頼めるのはこの場にいる御剣家か、天音家に助力してもらえたら良いのだが、本音を言えば、助力なしでやりたいのが個人的な見解だ」考えたことをスラスラいった結果、ご本人の前でそれを言ったから、あ、もらえる可能性が無くなったと、地雷を踏んだと思ったが、御剣氏は、
「まったく、肝の据わった当主様でこって……。まあ、現当主の言いたいことは分かりますよ。いくら、家としたら友好関係値が高くとも変にいじくられたり、握られたり、最悪の顛末として乗っ取られる危険性もありますから」と、フォローなのかナイフの突き付けわからない発言をし、とりあえずは首の皮一枚あるようだ。
「それで、そこまでするメリットは?」と宗谷が切り込む。
「そうだな。これも本音なんだが、自分が余計な真似をするよりも七代目、次の可能性がある人間によっても、やりやすい土壌を作りをしておけば、起死回生はいくらでもできると思ったからだ。それに仮に自分のこの計画が失敗したら、どこぞのおっさんが主張するように家や土地を売って、皆が生きる足しにすれば良いし、委任、譲渡をするにも都合がよくなる、それがメリットだ」
この意見に一人の候補者を除き、その大広間にいた人間たちは頷き納得した様子を見せる。そして、最後の質問はその漢によって行われた。
「ひとついいかな。おそらく最後だと思うから言うが、もし家の金が足りなくなったらどうするつもりだ?」
もっとも大きな穴に気付いた皆も「そういえばそうだ」と言わん限り表情が渋くなった。
その質問は自分も盲点だったと焦った。けど、銀堂家七代目当主銀堂遊学は「そんなもん、自分達から金を出して支えるしかないだろ。ジリ貧でもやるしかない。それにこの家にいる人間で個人で金稼ぎできないアホはいないと、この溢れ者がよく識ってんだ。期待するしかないだろ。もちろん俺からも出す」
と、勝手に自分の資産をベットしてしまい。は?と思ったが、その発言を聞いた人間全員が腹を抱えて笑い出して、
「これは面白過ぎる!みんなで家財ぶち込んでバーベキューでもするのか」と宗谷は畳をバシバシ叩き。
花音は下向いて口を押えながら「そりゃ賑やかな手段なことで」と唾液混じりの笑いを止めるのに必死。
湊は唾がへっちょこに入ったのか咳き込みながらも「最終的に耐久戦でふか」と、自らも言った内容に似てるはずなのにまるで他人事のようにに爆笑。
最後に質問した叔父はひとしきり笑い終え「どれだけ、この家を愛しているか、次ぎ込み勝負とは競馬でもやったことねぇよ」と笑いながらも「負けねえぞ」と伝えるような眼差し、どこか腫物が取れたかのように見えた。
かくいう、健吾はすげえ!みんなの意見の条件を満たす方法を出しやがったと、感心しすぎて笑っていたそうだ。
その後、代表として浩司の叔父が「そろそろ、六代目を襲名をしても良い頃では」とさっきまで、殴り込んでくるような行動をしていたのに、どうしたことか任命のために仕切り始めた。
「よく言うよ……」と内心自分はため息を吐きつつも、なんか丸く収まったから良いかと気を取り直し、ジェントリーが持ってきた当主の羽織に袖を通して襲名した「これにて一件落着!俺が銀堂家六代目当主銀堂遊学だ!異論はないな!」
「はい!」
「いいですよ」
「お手柔らかにね」
「頼んだぞ」
「しばらく任せよう」
こうして、六代目を決める家督戦争は幕を閉じた。そして、次の戦いへと皆は舟を漕ぎ出すのであった。
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