銀堂家当主に成るという意味
何故ここまで『当主に成る』事を嫌がったのか?それには大きく二つの点がある。
一つは『当主に成ると銀堂家の責任』が全部のしかかってくること、二つ目は誰よりも『当主に成るのに相応しい人間』がいたからだ。
まず、責任についてだが、一般論だけでも想像はつきやすいだろう。よくドラマでも跡取り争いになったとき、大概は資産をほしいままに独占することを狙って工作するのは定番なところ。ひとつの事実として、叭袈牢の家の中でもそういった考えで家督を得た人物を何人も知っている。
だが、忘れていないだろうか。資産の他にも負の遺産も継ぐことになることを。
言われてみればそうだなと、少し頭をひねれば分かる話だ。そのくらい分かる!と反論したい人間もいるだろうが、別に世間侮って発言しているわけではない。ただ以前「名家に生まれて地位も名誉も生まれつき持ってるとか人生楽チンだろ」とかほざいた何もかもが青い若造がいたから、そこを基準に発言している。
なるほど、五代目でした借金はが怖いのかと思われるかも知れないが、残念ながら作った借金は返済は終わっている。しかし、金融事業としての売掛金や借金(関係を繋ぐための)はまあまあ嵩んでいて、言ってみればその分、当主になったときの付き合いも多いというわけだ。人付き合いが好きじゃない個人に取っては地獄だ。
くわえて、この時の銀堂の財政は厳しい部分があり、時代の流れとしても金融業は斜陽に位置していた。要因の一つに、人々がお金を余計に使わなくとも、評価や信頼で生活できることに気付き味を占めたしまったからだ。
その性かお陰か、国は食費金額を保証するベーシックインカムを開始して、無理やりにでもお金を回そうとする動きがあったほど。わざわざ転覆寸前の泥船に乗るつもりはない。
もっとも自分は銀堂家のやり方が嫌いなあぶれ者。それだからと、家からは勝手に仕事を積んでくるは、家柄を理由にすり寄ってくる下賤な奴らも山ほど対応させられてきたものだ。もちろん、得をした部分もあったけども、それらを帳消しにするバカけた事象もたくさんあった。
――それは今もそう変わらないか……。
続いて二つ目は、『当主に成るのに相応しい人間』がいるという点だ。その漢こそ度々名前が登場する現在の七代目当主を務める『
人格者なんておおげさな――と思うかもしれないが、話しを聞けば納得いく。
先に伝えておくが、曲がりなりにも銀堂家には『どういう人間が当主であるべきか』という家訓が存在する。
家訓といって大したことではない。ただ『家名と土地を護り、役目を果たす未来に連れてゆくこと』という、言い伝えレベルの内容だ。家名と土地はまでわかるが、あとの役目とは何だと疑問を持ってしまうだろうが、一度当主に成った人間でも逆に訊きたいと思う部分。
ともかく、当主には『家名と土地を護る』ことが重要というわけだ。その部分を失くしてしまえば、その役目も果たせなくなる。
それで人格者と何の関係があるのだと指摘してくるはずだ。つまり、当主に成れる人格者というのは先述した『家名と土地を護れる存在』というわけだ。
兄貴は幼少のころから当主に成るため積極的に世間に顔をだし、独自の人間関係を構築し、銀堂家の未来ためだと言って、世界中を飛び回る行動力の鬼。学生の頃いじめて来た女性に対し、「もっとも俺を構ってくれたのは君だ」と言って、裏社会から救いだし妻にするほどの人格者。一部の同性からも、もし性別が違えば惚れるどころか速攻襲っていたと言わしめるほどの評判と精神性を持ち合わせている。
それに引き換え当時の候補者といえばどいつもこいつも自分の利益ばかり、挙句の果てには銀堂家を解体して金にした方がいいと言い出す不届き者がいる有様。それにとある溢れ者は他人任せで、自分を苦しめた分を正統後継者にじっくり痛めつけてもらうんだと息巻いているとまできた。
とてもじゃないが、晴彦の兄貴以外の当主はあり得ないと思っていた。
それなのにその長男を無視して親父は自分こと『溢れ者の銀堂遊学に当主に成って欲しい』というのだ。バカにし過ぎにもほどがある。
もちろん、「正統後継者がいるだろ!」と指摘したが、それでも「頼む、頼む」の一点張り。自分は折れるどころかキレて押し返し、勢いで立った上で尻もちをついた親父に向かって「少しは頭を冷やせ。もしくは病院で頭でも見てもらえ」と辛辣な言葉を吐きつけ、そのまま襖を開けて部屋を出た。
外にいた母は着いたときと変わらない浮かない顔をしながら、こちらを見て何か言うわけもなく見詰めていた。本当は何か言いたかったのだろうがこの時の自分は気が立っていて「クソババ、あのクソ親父を病院連れて行ってやれ、何ならいいとこ紹介してやる」と、これもまた勝手なことをいって、後ろも振り返らずにその場を後にして、自分は自室へと帰った。
いま思えば物凄く酷いことをしたと思う。その時両親はどんな顔をしていたのだろうか、どんな気持ちで見ていただろうか。その答え合わせはあの世に逝った際にでも、神様に教えてもらうことにしよう。
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