親父との関係
もう何度も言っているが、自分と親父の間には一切の血縁関係はない。しかし、書類上では親父である銀堂茂也の『実子』と記載されており、法律的にも有効で、本物の実子である義兄とほぼ同格の権利を保有しているという、何とも奇妙な立ち位置にいるというのが自分である。
それって、『養子』になるのではと、法律の関係者の人間から指摘されることは充分に理解しているというか、それが事実なのだから反論の余地もない。けれど、このように籍を入れてもらわなければ、今ごろ自分はこの世にいなかったと思う。
親父が当主に成ってから三年の月日が流れたある日の出来事。
商店街の裏路地を歩いていた親父は、前方から走ってくる赤子を抱いた女性を見て驚きのあまり制止。前を見ていなかったその女性は親父にぶつかり、足を止めてしまった女性は青ざめた表情をして見上げてきたそうで、親父も何を先に訊けばいいか混乱したという。
その二秒後にその女性を追っていたとみられる五人ほどの集団がやって来て、親父と母子を脅し、引き剥がそうとしたようだが、親父は「女とガキを追うようなヤツのいうことなんて利けねえよ」とカッコつけて返り討ちにし、その隙に母子を連れて知り合いの店に直行。そこに偶然にも妻がいて、女性の顔を見た瞬間、最初に親父が見たときと同じ反応してから、詳しい事情を聞くことになった。
何故二人……知り合いの店員も足したら上下するが、まあいい。何故、驚いたかというと、その女性の顔が親父の妻もとい義母となる女性と瓜二つの顔だったからだ。
それもそれのはずだ。話しているうちに、その女性が義母の生き別れの姉妹だと判り、のちに自分の遺伝子を調べたときに明確なことになるのだが、そこの話またあととして、その場では次の展開のきっかけに過ぎない。
出せない仔細は省くが三日前に自分を出産し、集団に見つかるまで知り合いの医療施設に身を隠させてもらっていたそう。どこから情報が漏れたかは解らないが、居場所を嗅ぎつけて来た連中が施設を襲撃し、抵抗している隙を縫って女性は逃走。その先で親父に出逢い、助けられ、現在ここといった状態だったそうだ。
狙われた理由は父親である男に因縁があるらしく、人質としても価値あると同時に遺伝子的にも利用価値があるとか何とで、集団の組織側からしても喉から手が出るほどに自分が欲しかったようだ。
その話と父親の名前を聞いて親父は『四辻の血筋』だと気付き、事の重大さを理解。義母は「これからどうするの?」と経験者としての心配も込めて質問。
返ってきた解答は「この子を頼めますか」という苦渋の申し出だった。
質問した本人はその懇願に、どうしよう……とまごついていたが、その迷いを打ち切るがごとく親父が「任せてください!」と了承。義母は不安要素を口にしようとしたが、「もう一人子供が欲しいって言ってたじゃないか」と釘を刺され制止。
その代わりに頼んできた本人が「本当にいいんですか?」と不安要素を語り、義母は溜飲を下げて最後の判断を待つ。
親父は「それでもだ」と後顧の憂いを感じさせない覚悟を見せ、両手を差し出す。
女性はその腕に我が子を預けて、別れを惜しむ姿を見せながらダミー人形を作りその店を後にした。
その後、数時間ほど空けてその足で近所の市役所に行き、銀堂家の権力を使って本来『養子』のところを『実子』として登録。そうすることで素性を隠し、仮に戸籍を調べられても無視してくれる可能性が高くなり、加えて、当主の『実子』となれば迂闊にも手は出せない。出してしまえば、叭袈牢との全面戦争になる口実にもなりかねないから、向こうとしてもその状況は美味しくないはずだった。(この時点では。
含みはいつか話すとして、自分こと銀堂茂也の『実子』となり、「遊び学ぶ楽しい人間であってほしい」ということで『銀堂遊学』という名前を与えられ、一族の一人として多くの仕事を手伝わされることに。
そこから十五年後、友達と遺伝子キットで遊んだ時に親父が父親じゃないことを識り、続けて「母さん」と呼んでいた人間が母親じゃないと識ることになって、グレることになるのだが、それはまた別の機会に……。
本当、史実ほど現実味がないとはよく言ったと思うけれど、実際その道を歩んできた人間がそう思ってしまうんだ。ある程度は説得力あるはずだ。
なにせ、紆余曲折があったとはいえ、頼まれたことを成人を越しても請け負っているところを考えてみるに、案外その関係性を悪いと思ってなかったのであろう。例え操作された事象でも。
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