銀堂家の軌跡 4.866

銀堂家、五代目当主までの歴史

 自分こと銀堂遊学もとい銀之字遊学は銀堂家の人間ではあるが、一族の人間ではない。この話をするには少し『銀堂家の歴史』について学ぶ必要がある。


 江都えと時代中期のころ、初代当主と成る幸村が讃久奈さくなの国(現在の香取県)で銀山を発見したことから始まる。御剣家に貯蔵されている『銀堂記』によると、初めは自決するため人里離れた銀山に行き、そこに封印されていた、上位者(のちに銀堂家の土地神)となる存在と邂逅し、命を絶つことを諦め、銀を扱う装飾職人に転身した。経緯としては、上位者の『土地を守護する』使命と幸村の『家名を守ってくれ』という契約により力を得て、地域有数の名家に成り上がり栄えた。


 一時期その活躍を見た役人たちは何時か脅威になるのではと反発を恐れ、難癖をつけて潰しにかかったそうだが、現在も在る通り上手くいかず、返り討ちにされた。


 表舞台としては、銀は金ほど影響はないだろと幸村の話術により納得させたことになっているが、実際は「祟られても文句言うなよ」と幸村が忠告し、聞き入れなかった役人に上位者は悪戯を仕掛け、のちに命乞いをしてきたから恩赦という形で祓いし、以後そんなイヤがらせしなくなり、その噂によって繁栄の盾となったことは言うまでもない。


 二代目に移るころには、神社に奉納する銀細工として重用され、当時の幕府が大政奉還と鎖国の解除をしたことで一部海外に輸出するまでに成長。これを機に第二の拠点として伊椥いなぎの国(現在の蝦媛えびめ県)に進出。幕末を越え、維新も過ぎた明成めいせいの時期、先見の明があったのか四目国しもくこくで最も発展した都市で商売することができた結果、多くの一等地を確保することができた。


 だが、その大きな風呂敷が次の世代で悲劇を呼び、『銀堂家の血筋ではない人間』に当主の座を事実上、譲ることになる。


 三代目となったのは四辻よつじ皆からは『シト』と呼ばれる海外からやって来た人間で、来た当初は宣教師の皮を被り、裏では工作員として活躍。また自分の御先祖様にあたる人間でもある。


 銀堂家の生き残りとなる平八郎との出逢いから始まり、世界の秘密を識り、その秘密を護るため、銀堂家の押さえていた土地に仲間を措き『叭袈牢』を設立。


 四辻はその活動によって得た資金をもとに『金融業』も始めて、地域産業の活性化、借金を担保に滞納者を捕らえ、仕事が出来るように教育、地方に派遣。この活動のおかげで地域犯罪率が下がり、「食や職に困ったら銀堂さんのところに行け」と言われ、しがない中年の運転手すら知る名家へと変化していった。


 最初の予定では、平八郎が成人した時に四辻は三代目を返そうとしたが、三人の配偶者を言い訳に当主の仕事を委任し続け、結局は多くの子孫と新たな分家『銀狼ぎんろう家』『銀嬢ぎんじょう家』創り、平八郎は天寿を全う。そこからまだ十年以上も生きることになる四辻は事実上の三代目として、後継者を選ぶ立場となる。


 明成は終わり大華たいかと呼ばれる時代に突入。家督戦争が行われ、結論から言うと『東雲慎吾』という銀嬢が推薦した男が『四代目当主』となった。


 無論、正統な血を持つ者からは猛反発を食らい、殺人未遂もあった。しかし、この家督を得る戦いには大きな問題点があり、後で詳しく触れるが、土地神である上位者との兼ね合いで、一族全体として不利な面が出てくることが判明し、これを解決するには部外者を玉座に据わらせる必要があった。


 銀堂家の男衆は苦服ながらも器のデカさを見せて納得し、女性陣も一族の人が成って欲しかったが、一人の同陣営の娘が慎吾を連れて来てくれたおかげで、問題解決と後の世代で女性の権力を高めてくれる一助となったため、当主に従う姿勢を取りやすくなった。何より決め手は、四辻の発言で「自分も外部の人間なんだか」と進言されたことで、家督戦争は幕を下ろした。


 かくして『銀堂家四代目当主、東雲慎吾』が誕生することになった。


 その十数年後、時代は唱和じょうわとなり激動の渦に巻き込まれることになる。第一次、第二次の世界大戦を越えて、冷戦の時代に入った時、四辻の子孫から伝達があった。


 彼曰く「あの自国に落とされた爆弾の何百倍の兵器だ」と語られ、最初はその話に皆猜疑的な視線を向けられた。しかし、そのとき一緒にいた予言者?未来人?かは知らないが、そいつが持ってきた資料を観せられた結果、信じてもらい。叭袈牢が護っているブツの使用許可が下り、それで歴史に遺らなかった兵器を破壊。


 通常であれば、そのようなブツの性能公開されたら危険視されるだろうと思うが、あれは使用すると『存在した記憶や概念ごと粉砕忘却する一種の安全装置』が付いているようで、次に使用する準備期間、並びにその存在が確認されるまで、そのブツはただのガラクタに成り下がる。


 したがって、使命を持た者以外からはその存在を忘れられ秘匿状態。次回の使用に持ち越しされるのだが、歴史からしてその使用は早かった。

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