第11話 確かな成長

イルスと鍛錬をするようになり、さらに5年が経ちオレは15歳になった。

5年前に比べ、身長もかなり伸びて今は170後半そこら

くらいだ。

このタッパだと同年代の中じゃ頭一つ抜けてるだろうな。


ベッドから出て着替えていると、ドタドタとやかましい足音が近付いてきて勢いよく扉が開け放たれる。


「兄貴!オレと試合してくれ!!」


「(たち…?)分かった、先に中庭行ってろ。」


「分かった!」


イルスは元気よく返事をして駆けていく。


「アイツ、そろそろ社交界デビューじゃねぇのか…?」


イルスは今年で10歳だ。

まだまだ幼さはあるものの、黙っていれば同年代の令嬢からはモテまくりだろう。


「ま、オレや親父に似た気質のアイツには貴族のパーティなんぞ退屈だろうがな。」


1人呟きながらシャツのボタンを止めて、腕を捲る。

時々街を散策したりするようになってからこの格好がお決まりになってきている。


「さて、試合だったか…たまにはやる気出してやるか。」


中庭にはイルスの他にセレスと髪を一纏めにして動きやすい格好をしたイーシャもいた。


「ん?セレスはまだしもイーシャがいるのは珍しいな。」


「イルスに誘われたので、いい機会ですしお兄様に今の私を見てもらおうと思いまして!」


「そーいうわけで、オレと姉上対兄貴で勝負だ!!」


「しょーぶだ!」


イーシャの横にイルスが立ちビシッと指を指してくる。

イルスに続いてそしてやけに幼い声も聞こえたと思ったら、イルスの隣に同じポーズを取った快活そうな赤毛の幼女が立っていた。


「アンナか、珍しいなお前が模擬戦見に来るなんて。お袋から許しは出たのか?」


「出てないよ兄さん…」


後ろから声をかけられ振り返ると、紫紺の髪を後ろで一纏めにした美少年が立っていた。


「エレンか、てことはお袋に隠れてここにきたのか。」


「アンナもうおねーさんだから大丈夫だもん!」


「ダメだよ、それでも一番ちっちゃいでしょ。」


末の妹アンナと末の弟エレン、昔はあまり話さなかったが2人ともいつの間にか俺に懐いてた記憶がある。


「まぁ、見るくらいなら良いだろ。オレから後でお袋に言っといてやるよ。」


「おにーちゃん好き!!」


そう言ってオレの足にギュッとしがみつくアンナ。


「兄さんがそうやって甘やかすからアンナがわがままになるんだよ。」


逆にエレンにはジト目を向けられる。


「まぁまぁ、アンナはまだ幼いですし甘え盛りなんですよ。」


「姉さんまで…」


「なぁって!早く始めようぜ!!」


イルスが痺れを切らしたみたいだ。

オレはアンナを抱き抱えるとセレスの元へ歩いていく。


「それもそうだな。お前ら離れてろ、セレス2人を守れ。」


オレはそう言ってアンナをセレスへ渡すと、オレはイーシャとイルスへ向き直る。


「さて、ギャラリーも増えたことだし…ガッカリさせんなよ。」


そう言ってオレは不敵に笑った。


イーシャとイルスが構え、向かいにオレが仁王立ちする。


「では、僭越ながら審判は不肖このセレスが務めさせて頂きます。各々方、準備はよろしいですか?」


そう言ってセレスが右手を上げる。


「はい!」

「おう!」


「いつでもいいぜ。」


「では…始めッ!!」


セレスが手を下げた瞬間イルスとイーシャの魔力が高まる、その威圧感は昔と比べるべくもない。


「(魔力量は順調に育ってるみたいだな。)」


オレは2人を


「「!!」」


オレの圧を受けて2人はそれぞれの反応を見せた。

イルスは魔法を中断して咄嗟にオレから距離をとる。


「!(やるな、判断も早い。)」


そしてイルスに気を取られていた間にイーシャの魔法が発動する。


「【黒霧ブラックミスト】!」


オレの周りに黒い霧が現れ、視界がゼロになる。


「【闇牢プリズン】!」


霧の外からイーシャの声が聞こえた。

その瞬間、足元から闇が噴き出し檻を形成する。

たが檻が完成する前にオレは範囲外に飛んで回避する。


「なるほど…名前の通りってことか。」


「隙ありだぜ兄貴、【火槍ファイアジャベリン】ッ!!」


「ばーか、んなもんねぇよ。」


オレの真後ろから槍の形をした炎が飛んでくるが、横に避けてかわす。


「まだだァ!!こいつはオレのとっておきだ!【炎槍フレイムスピア】ァ!!」


イルスがそう言って魔法を発動する。

見えちゃいないが、

次の瞬間、目の前に槍の穂先が迫る。


「バカ正直に真正面から撃つやつがあるか。」


オレがそう言って横にかわした瞬間、槍の穂先がさっきまでオレの頭があった場所を通過すると


「ッ!」


槍が横に薙ぎ払われる、オレはそれをしゃがんでかわしすぐに距離をとった。


「…(どういうことだ?イルスの今の魔法は追尾機能があんのか…?)」


そして、今度は後ろから炎の槍が現れる。

オレは最小限の動きでそれを回避するが、立て続けに槍が振るわれる。


「そういうことか…!」


何度も振るわれる槍の穂先に合わせて蹴り上げる。


「ぐっ!」


イルスの声が聞こえ、即座にそこにも蹴りを入れる。


「うわっ!?」


「最近アルベルトから近接戦闘術を教わってるのは知ってたが…まさか魔法で近接戦を仕掛けてなぐってくるとはな。」


「【闇穴ダークホール】。」


「!」


突如オレの足が地面に沈む。


「だらァ!!」


イルスがチャンスとばかりに槍を振るってくる。

槍が空を斬る音を頼りに全て受け流し、叩き落とす。


「(コイツら、思いのほか良い連携するじゃねぇか。その上目と足まで封じられるとは…クソゲーだな。)」


そう思いながらも口角が上がるのが抑えられない。

今オレは確かにこの戦いが『楽しい』と感じている。


「(定石通りなら、まずはイーシャサポーターからだが…)」


オレは槍を捌きつつ、足元にあった石ころを拾って目を瞑った。


「(どうせ目は頼りにならん、ならより聞くことに集中する。)」


そうして聞こえる槍を振るう音、土を踏む音、そして…呼吸。


「フッ!」


イーシャの足元に小石をに投げる、地面に着弾すると大きく砂煙が巻き起こった。


「ッ!」


オレが投げた石が何かしら上手く作用したらしい、一瞬だけ霧が揺らぐ。


ほんの一瞬の緩み、それさえありゃ十分。


オレの視界に炎の槍を振り下ろそうとするイルスが映る。


「そこか。」


そう言ってオレがニヤッと笑うとイルスの顔が焦燥に染まる。


「やべっ」


手が焼けるのもお構い無しに槍を掴んで引き寄せると、イルスの顎を軽く小突いた。


「ッ!?」


人間てのは脳を揺らせば簡単に気絶するオチる

掴んでいた炎の槍が消える、そのまま糸の切れた人形のようにイルスは倒れ込む。

オレはイルスが地面に倒れる前に荷物のように肩に担いだ。


「はぁ、降参です…本当に規格外ですね、お兄様は。」


イーシャの声がするとオレの周囲を覆っていた霧が晴れ、足元のぬかるみも消える。


霧が晴れ視界が戻ると、へたり込んだイーシャが困ったように笑っていた。


「そこまでっ!勝者はノル様です!!」


セレスの声が響く。

試合が終わるとオレは自分の手を見る。


「お兄様、どうかされたのですか?」


イーシャとセレスが不思議そうな顔で見てくる。


「いや…なんでもねぇよ、屋敷に戻るぞ。」


「あ!お兄様お待ちください!」


「(フフ…ノル様はなんだかんだでご弟妹を可愛がっておられますからね、お2人が強くなっていたことが嬉しかったんでしょうね。)」


オレがイルスを担いだまま歩きだすと、イーシャとセレスも後に続いた。


「(たった5年でまさかイルスお前に傷を付けられるとはな。)…フッ」


オレはマヌケな顔で気絶したイルスを見て笑った。


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