第10話 再出発
爺さんがセレスを治癒してからオレが担ぎ上げる。
そして双子を置いてきた場所まで戻ると、2人ともいなくなっていた。
双子が先に屋敷へ戻っ来ていると踏んで、オレたちは屋敷へ戻ってくる。
すると、屋敷内のメイドたちがバタついていた。
「おかえりなさいませ、ノル坊っちゃま、イーシャお嬢様、レウルス様。」
アルスタット公爵家の執事長であるアルベルトがオレたちに恭しく頭を下げる。
アルベルトはさすが公爵家の筆頭執事なだけあって、身内全員に平等に接してくれる。
もうかなり歳だろうに老いを全く感じさせない綺麗な立ち姿だ。
それに、何よりコイツかなり強い。
「あぁ、今戻った。(もう佇まいがヤバいんだよなぁ…)」
「ただいま戻りましたアルベルト。」
「お邪魔するぞい。」
オレたちが返事をすると、アルベルトは頭を上げて丸メガネをクイッと上げる。
「何があったかは凡そ把握しております。セレス様は
そう言うとアルベルトはオレが担いでいるセレスを姫抱きにする。
「イルス坊っちゃまは部屋に篭っておいでです。ですがアレス様は…」
いつもは物事をハッキリと言うアルベルトが珍しく言い淀む。
「…どうした?」
「いえ、申し訳ありません。アレス様の行方が分からないのです。」
それを聞いたオレは驚きはしたが、何故か少し納得していた。
「…アルベルト、お前はどう思う。」
「お生まれになった当初は他のご子息ご令嬢と変わりないお方でしたが、貴族教育を進めていた際、違和感が拭えない…と言った印象ですね。」
アルベルトはオレの大雑把な問いの意味をすぐに察して答える、さすがだな。
「オレもだ、アイツと話してると年下の子供と話してる感覚じゃなかった。単純に賢いイーシャとは違う…老獪さを感じた。」
「左様でございますか…(私は貴方様にもその老獪さを感じているのですがね、ノル坊っちゃま。)」
「アレスの行方を調べろ、だが邸には連れ戻さなくていい。親父たちには悪いが、アイツは危険だ…と思う。場所を把握したら、そのまま動向を探って欲しい。」
「御意、暗部の者にやらせましょう。」
そう言って頭を下げると、アルベルトはセレスを抱え去っていった。
「お兄様…アレスに一体何が…?」
イーシャが不安そうに尋ねてくる。
「分からん、だがアイツはオレたち公爵家の敵になりうるかもしれん。」
「たしかに生意気ではありましたけど…でもそんな…」
あれだけの暴言を吐かれたのにイーシャはアレスを敵と断じることはできないようだ。
「もしもの話だ、絶対そうだってワケじゃねぇよ。」
オレはイーシャを安心させるために嘘をついた。
イルスを見るアイツの目を思い出す、あんな目をする人間を前世の記憶でも何度か見た。
「(あの目をする奴らは総じて人を人とも思わないクズだったがな…)」
「イーシャ嬢の教育もひと段落はしたからワシの方でもアレスの行方を探ってみるとしようかの。」
「あぁ、頼む。」
爺さんの申し出にオレが返事をすると、爺さんの姿は空気に溶けるように消えた。
「大魔法師の爺さんが手伝ってくれるんだ、すぐ見つかるだろうよ。」
イーシャは爺さんが動いてくれると分かり、少し安堵したようだ。
「ひとまずオレたちは普段通りに過ごすしかねぇよ。」
「そう…ですね。」
セレスに勝ったこの日を境にオレは屋敷の人間から舐められることはなくなった。
だが、怯え、尊敬、安堵とオレを見る目は様々だ。
そうしてオレを取り巻く環境が変わり数週間が経ったが、何より変わったのがイルスとセレスの2人だった。
バンと勢いよく扉が開け放たれる。
「兄貴!今日も鍛錬付き合ってくれよ!!」
「イルス様お待ちください!あぁ!すみませんノル様、イルス様にはよく言っておきますので!!」
鼻息荒く言うイルスとブンブンと頭を下げるセレス。
「気にしてない、中庭に行くか。」
「よっしゃぁ!今日は兄貴に一撃入れるぞー!!」
「ありがとうございます、ノル様。」
元気にはしゃぐイルスと、以前と別人かのように綺麗に微笑むセレス。
毎日毎日部屋に突撃してくるイルスにウンザリしながらもこの2人が変わったキッカケになった日を思い出していた。
ー回想ー
イルスはオレにボコされた後、部屋に引きこもった。
屋敷にいる人間はイルスが引きこもった原因を知っているため、そのうち腹でも減ったら出てくるだろうとタカをくくっていた。
だが、イルスはなかなか部屋から出てこなかった。
そんなある日、オレが中庭で筋トレをしているとイーシャが歩いてきた。
「今日も精が出ますね、お兄様。」
「あぁ、ようやく邪魔してくる奴らがいなくなったからな。」
オレは逆立ちで腕立てをしながら答える。
「あの…お兄様、たしかにイルスがお兄様にした仕打ちは許せませんが、どうか許してあげられないでしょうか?」
イーシャの言葉を聞いて、ピタッと腕立てが中途半端な体勢で止まる。
正直、意外だった。
オレが双子から害されてることをオレよりも怒っていたイーシャからそんなことを言われるとは思いもしなかった。
「許すも何も、1発ぶん殴ったんだからこの話はこれで終わりだろ。」
腕立てを再開しながらオレがそう言うと、イーシャは目を見開いた後嬉しそうに微笑んだ。
「フフ、お兄様はやっぱり素敵な殿方ですねっ!」
そう言ってパタパタと駆けていった。
恐らくイルスにオレがもう怒ってないことを伝えに行ったのだろう。
しばらくするとイーシャがイルスの手を引いて来た、その後ろにはまだ包帯が取れきっていないセレスもいた。
「ほら、2人ともお兄様に言いたいことがあるのでしょう?」
イーシャがそう言ってイルスの背中を押す。
そして、イルスとセレスは意を決したように前に出て勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい!!!!!」
「大変申し訳ございませんでした!!!!!」
オレは逆立ち腕立てをやめて、2人の前に立つ。
「…オレはもうお前らにキツいのを入れた、この話はそれで終わりだ。」
オレがそう言うと、2人はゆっくりと顔を上げる。
「…兄貴がそれで良くても、おれは…アレスの言うことばっかりじゃなくて、兄貴とももっとちゃんと話しておけば良かったんだ。ホントにごめん。」
そう言って再びイルスは頭を下げる。
「(兄貴…?)」
「己の未熟と見識の狭さを痛感しました…今回、ノル様の温情で私は公爵家を追い出されずに済んだとお聞きしています。」
そう言ってセレスは膝を折って三つ指を着いた、
「私はイルス様の専属教師である前に、公爵家の魔法師…次期当主であるノル・アルスタット様に絶対の忠誠を誓います。」
そしてセレスは土下座をする。
「……頭を上げろ。」
2人はゆっくり顔を上げる。
「当主になるかどうかは今はいいとして…お前らのこれからに期待させてくれよな。」
2人の眼をしっかり見てそう言った後、オレはニッと笑った。
イルスとセレスはオレの笑顔を見て、ポロポロと涙を流し始めた。
「う゛ん゛っ!!!!」
「はいッ!…この命尽きるまで、お仕えします…!!」
2人は涙を流しながらも力強い返事をした。
イーシャも後ろで少し涙ぐんでいる。
この日、オレはようやくイルスと
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