第9話 VS セレス
「ノル様はお強いですね。しかし、弟君にやり過ぎだったのでは?」
「あぁ、わりぃな。魔力が無いから魔法が怖くてよ。」
後ろからセレスに声をかけられる。
オレは振り返り、不快感を隠すこともなく言った。
「フフ、ご冗談を。ノル様がよろしければ是非
セレスは人好きする笑顔でオレに微笑みかけてくる。
だが、その眼は恐ろしいほど冷えきっている。
「…良いだろう、オレも若くに
「光栄です。」
そう言って恭しく頭を下げるセレス。
「(オレが言ったことに嘘は無い、実際コイツの力には興味がある。爺さんの半分ほどの位階だが…どれほどのもんかね。)」
そうしてオレとセレスは位置に着く。
審判は爺さんしかできる奴がいないので爺さんに頼んだ。
「では良いかな?くれぐれも命を奪うような攻撃は控えるんじゃぞ?」
爺さんはオレとセレスを交互に見てそう言うが、セレスの眼には殺意がありありと見て取れる。
「ハァ…分かってるよ。」
オレはウンザリしながら手を振る。
「…もちろんです。」
口ではそう言うがセレスの殺意は薄れていない。
「では…始めぃ!」
爺さんが手を振り下ろすと、セレスからイルスの時とは比べ物にならない圧が放たれる。
「(さすがだな…どれ、試してみるか。)」
「【
「なっ!位階4の魔法!?」
イーシャが驚きの声を上げる。
当然だ、10歳の子供との模擬戦で使われるような魔法じゃないからな。
オレは無造作に拳を振るって雷を弾いた。
「ふむ…」
魔法を弾いた自分の拳を見つめる。
今の攻撃を受けてオレはひとつの仮説を立てる。
「(…オレの身体は魔法そのものが効かねぇのか…?)」
オレがそんなことを考えながら自分の手を見ていると、セレスは次の魔法を放ってきた。
「これなら…!【
今度はセレスの前方に何かが集束するのを感じると、次の瞬間そこから熱線が放たれる。
オレはそれを咄嗟に手のひらで受け止めるが、ジュウジュウと肉が焼ける音がする。
「……ッ!?」
オレは魔法を受けている場所に痛みを感じ、次の瞬間手を弾かれた。
「…なるほどね。」
手のひらを見ると皮膚の表面が焦げ付いて、肉の焦げる嫌な臭いを放っていた。
「どうやら、この魔法は効くみたいですね。」
セレスは模擬戦ということを忘れているのか、表情が邪悪に歪む。
「(つまり、耐性があるってだけで効かねぇワケじゃないってことか…)」
「どうしましたノル様?『参った』、しますか?」
セレスは勝ちを確信した様子で言う。
「……」
…降参?バカ言うな、こっからだろ。
「ッ!(雰囲気が変わった…!勝負はここからね。)」
「行くぜ。」
オレはそう言うやいなや、真っ直ぐにセレスに突っ込んでいく。
「なっ!?【
セレスが複数の風の刃を生み出して飛ばしてくる。
だが、さっきの熱線ほど怖くない、オレはその全てを殴る蹴るで叩き落とす。
「【熱線】ッ!!!!」
「(なるほど、今の魔法は陽動か。)」
オレはセレスの放った熱線を首を動かして簡単に躱し、目の前まで迫る。
「くっ…!(どんな反射神経してんのよ!)」
「痛ェと分かってるモンに当たるほどバカじゃねぇよ。」
「【
オレがボディブローを叩き込もうと拳を握った瞬間、風の塊がオレの鳩尾に直撃した。
「チッ」
オレはそのまま踏ん張りがきかずに吹き飛ばされ、セレスに距離を取られた。
着地してセレスを見やると頬に汗が伝っている、精神的にかなり消耗しているようだ。
「フゥー…(強い、それになんて頑丈なの…突風は本来受けたら風穴が開くほどの威力だってのに…!)」
「ハハッ…ちゃんと強いじゃねぇか。」
思わぬ強敵に笑みが溢れるが、すぐに気持ちを切り替える。
オレはどうやら知らずのうちに驕り、慢心してたようだ。
「くっ…こんなはずじゃ…」
セレスが何やら呟いているが、大方自分ならイルスと違って一方的に嬲れるとでも思ってたのかね。
「今からお前をぶん殴る。」
オレはそう言ってパキパキと拳を固める。
「死ぬなよ。」
それだけ言うとオレは思い切り踏み込んで駆け出す。
踏み締めた地面は砕け、セレスはオレを視認できていない。
「ッ!!【
セレスは咄嗟に魔法を発動する。
膨大な力の奔流が風となってセレスの身体に纏わりつく。
そして、セレスを中心に風がうねり始める。
「遅せぇ!!」
だが、2つ目の魔法が発動する前にオレの拳がセレスの腹を捉えた。
「ゴッ…ガハァ!!」
そのままセレスは何本も木々をへし折りながら吹き飛び、轟音を響かせて公爵邸の壁に叩き付けられた。
「(あの風の鎧は攻勢防壁みたいなもんだったか…それに…)」
オレはズタズタになった自分の手から壁にめり込んだセレスに視線を移す。
「(インパクトの瞬間にやたら硬いモンを殴った感覚があった…咄嗟に魔法で壁でも張ったか?)」
拳に伝わってきた硬質なものを殴った感触を思い出すと同時にオレは大事なことを思い出す。
「あ、降参させてなかった!」
オレは勝敗条件を思い出してバッと爺さんの方を見る。
「ハァ…勝敗は明白じゃし今更遅いわい。ワシ、命を奪うような攻撃するなって言わんかったかのぅ…?」
爺さんはため息を吐いて咎めるようにオレを見てきた。
「悪かったよ、でも先に喧嘩売ってきたのはアイツだぜ。」
オレは壁にめり込み気絶したセレスを親指で指しながら言った。
「分かっとるわい、今回はセレスの暴走ということでグレアム公に伝えておこう。」
爺さんの言葉を聞いてオレは少し考え込む。
「……いや、親父には模擬戦でオレが力加減を間違えたって言っといてくれ。」
「む?良いのか?」
「アイツがオレに与えたダメージは両手の軽傷のみ、こんだけ力の差がありゃもうバカはしねぇよ。」
オレは焼けた手とズタズタになった手をヒラヒラと見せながら言った。
「ふぉっふぉっふぉ、まったく坊ちゃんは豪胆じゃのぅ…どれ、怪我の方はワシが治しておこうかの。」
「ッ!!」
そう言って爺さんはオレの手に手をかざすと、あっという間に両手の傷が癒える。
そしてオレは気付く、爺さんが治癒魔法を使うときに発した圧はセレスの最後の攻撃よりデカかった。
「爺さんアンタ…」
「お兄様!!おケガを見せてください!!」
言いかけたところでイーシャが駆け寄ってくる。
「心配すんな、今爺さんに治してもらったとこだ。」
「何をトンチキなことを言っているのですか!!!!!」
鼓膜が吹き飛ぶんじゃないかってくらいの大声でイーシャが怒鳴った。
そしてそっとオレの両手を取る。
「お兄様はご自身の身体をもっと大切にしてください…私は、お兄様がいつか私の知らぬところで死んでしまうのでないかと心配でなりません…」
そう言ってポロポロ涙を流すイーシャを見て、オレは胸がズキリと痛んだ。
「悪かった、もう無茶はしねぇよ…だから泣くな。」
そう言って指でイーシャの涙を拭う。
「約束ですよ…?」
なおも不安そうなイーシャの頭をオレは乱暴に撫でた。
「わっ!」
「オレだって死にたいワケじゃねぇ、約束は守る。」
オレがそう言うとイーシャは薄く涙を浮かべながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「なら、許してあげます…!」
オレは昔から束縛されるのが嫌いだ、だから公爵家の跡取りに相応しくないと言われても別になんの
「(でもコイツの笑顔を見てると、ちょっとくらいいいかって思っちまうんだよなぁ…)」
…やっぱりイーシャや爺さんと過ごす時間は悪くない。
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