第66話 カリナの魔法王国ツアー
そんなこんなで私、カリナ・ミタルパがご案内する魔法王国体験ツアー・機械帝国民ご一行様の出発と相成った。
私の担当はエギア皇帝(体はリネルト女王)、アトン大将軍(体は聖母マミー・ドゥルチ様)他、皇太子や四聖魔女に扮した大臣達など、いわば機械帝国のトップの皆さま方を、聖都レヴィントンまでお連れするという、ものすごく疲れそうなお役目だ……ふみゅう。
ちなみに全体で100ほどの班に別れているが、そのそれぞれにツアーガイドとして隠し村の魔女さんたちが付き添いしてくれてる。私もそうだけど、彼女達も久しぶりの里帰りという事もあって希望者が殺到した結果、競争率は相当高かったみたい。
まぁこの810で戦死扱いになって隠し村に居る以上、うかつに故郷に帰られなかったんだから無理も無いんだけど。
それはステア君たちの機械帝国ツアーも同じみたいで、お互い一万人もの人が行き来する訳だけど案内人には事欠かないみたいね。
この両国への旅、ある意味じゃ世界の歴史を変えるイベントになるかもしれない。そんな緊張感をもって出発した……んだけど。
◇ ◇ ◇
「あーもうしんどいー」
「女の体って体力ねぇなぁ、ただの山越えが地獄だー」
最初のギルツ山の山登りで、もう多くの人がダウンしちゃってるし……
まぁ無理も無いか。私もステア君の体と入れ代わって、男性の体の丈夫さや体力、つまり男女の体力の差をよく知っている。
いきなり女の体に入っちゃった兵士さん達が、今まで通りに体を使ったらそりゃすぐバテちゃうかー。
しかも魔女は普段魔法を使ってるせいで、ただでさえ運動不足だしねぇ。
「うぉっととととと……だぁっ!?」ドテッ。
ホウキに乗って飛ぶ事にチャレンジしてる人もいるみたいだけど、さすがに今日明日で自在に乗れるようになるはずもないし、そもそもこう長旅じゃ魔力が持たない。ペース配分も含めて行程を考えなきゃいけないなぁ。
ちなみに余裕な人も何人かはいる。肉体派四聖魔女のレナさんの体に入ったラバン大臣さんや、ステイシーさんはじめ若い精鋭部隊の体に入ったハルさん達なんかはまだまだ歩けそうだ。
「ちょっと、何とかしてみます」
休憩中にそう提案したのはカリナ・ミタルパさんの体に入ったリリアス君だ。
元々ナーナ憑きで魔法が使えた四聖魔女の男の子が、王国屈指の魔力のキャパを持つハラマさんの体に憑依してるだけあって、魔法使いとしては今じゃたぶん世界一なんじゃないかな。
「
彼が魔法を重ねがけすると、ギルツ山の木々が一気にゴレム化して何台もの移動台車が生み出されていく……うわー、これ本気で凄いなぁ。
魔樹の館や、ステア君が旅した時の馬車の荷台同様、自らの足でとことこ歩いていける性能を持つみたいだけど……詰めれば30人は乗れそうな台車を一気に100台も作り上げるなんて、さすが天才と天才の融合体だなぁと思う。
なにしろハラマさんの体は魔力のキャパが底なしで、リリアス君は魔法研究家なんで、その膨大な魔力を繊細に扱う事に長けてる……ある意味最高の融合じゃないかな。
山越えを終えると、いよいよそこは本格的な王国領内になる。魔女の姿をしてるとはいえ帝国兵さん達が初めて見て触れて知る女性の国の姿に、それぞれが感心したり想像との違いに認識を改めたり、あるいは公衆浴場なんかで女性のハダカを見て鼻血吹いて倒れたりしてた……いや自分の体も女性なんでしょ? 慣れようよ。
そこからは各々の班に分かれて各地に移動していった。まぁ私の班はこのまま真っすぐに聖都へと向かうんで、一番の長旅になるんだけど、道中にやる事はいくらでもある。
「そうそう、そのまま姿勢を固定して……うまく飛べてますよ」
「礼をするときは目線は下に、スカートの裾は親指と中指でつまんで」
「「母なる~
さすがに国の中枢の人たちになりすますわけだから、最低限の魔法や知識なんかを備えておかないといけない。いくら見た目が女王様や四聖魔女でも、ホウキで飛ぶ事すら出来ないんじゃバレるのは避けられない。
なので旅の道中、ヒマを見てはみなさんに魔法や王国の習慣なんかの指導を、私とリリアス君で教えながらの旅になる。まぁ一人に教えるだけで全員が共有できる
あと意外というか、皇帝陛下エギア・ガルバンス様(体はリネルト女王)は道中、特に不満も無く、淡々と女王に成りすますための魔法や態度を会得しつつ、またその華奢な体にも文句を言わずに頑張って旅を続けている。
ある意味一番魔法王国に対する敵対心が強い人のハズなんだけど……?
そんな努力の甲斐もあって聖都に着くころには皆、一応は魔法王国の重鎮っぽい態度や魔法、常識なんかを身につけることが出来た……とはいえ本当にバレずに済むんだろうかなぁ。
◇ ◇ ◇
「うわー、ホントにデカい木だなぁ、コレ」
「驚くべきものだな……これが聖都レヴィントンか!」
ハルさんやアトン大将軍の言葉通り、みんながレヴィントンの大樹を見て目を丸くする。帝国の首都ドラゲインや海の城も壮大だったけど、やっぱここのスケールには敵わないでしょう、ふっふーん♪
根の間のメイン通りを通って大樹の幹に向かう途中、先頭を歩くエギア皇帝陛下が私に言葉をかけて来た。
「カリナ・ミタルパよ。仮にも国王が帰還したというのに、この国の魔女……いや民たちは何故こうも無関心なのだ?」
その質問に大臣やアトンさん、ガガラさん(体はケニュさん)もうむうむ、と同意する。確かに帝国じゃ皇帝陛下に謁見するだけで、作法や言葉選びなんかまで指導されてたなぁ。
そんな帝国の厳格さに比べて、この王国じゃ戦争に行っていた女王が帰還したというのに、ちらほら挨拶や礼をする魔女たちがいるくらいで、多くの人はあまり関心を持たないのが不思議なんだろう。
「この国じゃ『自然を愛し、重んじる』というのが常識ですから」
そう。魔法の恩恵を受け、自然と共存していくこの王国には、あまり身分の上下を振りかざす習慣がない。女性なら誰でも魔法が使えるので生活に苦労があまりない。
なので管理、命令されなくても個人で生活が成り立つし、逆に国からの恩恵も少ないので国に対する依存度が低いのよねぇ。
王室のセリカ一族もその事をよく分かっているのか、身分や立場を振りかざす事をあまりやらない。少ない男性の振り分けは身分の高い人に集中しているけど、肝心の王室が男性を
「なんとまぁ……理解できませんな」
フォブス大臣(体はルルーさん)が私の説明に目を丸くして返す。彼は私が帝国に旅をした時、出会った男性の中で一番権力欲や自己顕示が強かったヒトだ。
今回の旅も、やがて両国の融和の暁にはコネやパイプをいち早く作って、利益や立場を強めようとしていたみたい。でもそんなめんどくさいコトをわざわざ引き受けてくれる魔女がいなさそうで落胆してるようね……へへーん、残念でしたー。
大樹の内部に入ると、さすがに幾人もの人が「お帰りなさいませ」「戦いはいかが相成りましたか?」と女王(心は皇帝)に問いかけてくる。とはいえ四聖魔女や親衛隊のみんなが全員揃っての帰還なんで、悪い結果を心配してる人はほぼいないんだけど。
……なんか810、そして機械帝国まで旅した私から見たら、魔法王国ってホントにのんびり国なのよねー。大丈夫なのかしら。
ちなみにラドール夫人(体はナギア皇太子)だけには少し前から女装してもらっている。万が一帝国の皇太子の顔を知ってる人がいないとも限らないし、そうでなくとも見知らぬ男性が来たとなれば余計な興味を引いてしまうだろうから。
とりあえず最上部の枝ハウス部分、四聖魔女さん達や女王の館のあるエリアまで到着する。思えば皇帝陛下や皇太子さんや大臣さんも、もうすっかりホウキに乗って飛ぶ事に抵抗も違和感も無いみたいで、特に誰にも怪しまれる事無くここまで来れた。
私達はミールさんの家に集まってミーティングをする事になった。彼女の家は部屋の仕切りが無いだだっ広い作りで、大勢が集まるにはもってこいだ。家主のミールさんとダリルさん夫妻(体は逆)が揃って帰国してるのも何かと好都合だし。
でも、そこでエギア皇帝陛下が発した司令は、私たちの想像をはるかに超えるものだった――
◇ ◇ ◇
ポロン、ポロロン、とハープの音が大樹に響く。これは女王様からのお言葉があるので、国民の全員が聞くようにとの合図の音だ。
四聖魔女がそれぞれの位置について魔法陣を描き、そのお言葉を国中に届ける為の拡声魔法を施していく。
ただ、北の方角に居る魔女だけが、いつもの四聖魔女リリアス・メグルとは別人なのに対して、見上げるギャラリー達が不思議がっている。
「あれ……リリアス様じゃないわよ?」
「あれ魔法学校の生徒会長さんじゃなくて?」
「そうそう、ハラマ・ロザリアさん。教師泣かせの」
この拡声魔法も、実はほとんどがリリアス(体はハラマ)の仕掛けだ。さすがに四聖魔女が使う魔法を大臣ズやダリルさん(体はミールさん)が使えるはずもなく、彼がひとりで奮闘するしかない。
そして、大樹の最上段に
それをミールさん宅から見上げる
王国中の目と耳を一点に集める女王リネルトは、おごそかに両手を広げると、意を決した表情で下々を見下ろし、そしてこう発する。
――魔法王国の国民、魔女達よ。余は女王リネルト・セリカにあらず――
――余の名はエギア、機械帝国皇帝、エギア・ガルバンスである!――
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