第64話 答え合わせと潜入ツアー
エリア810、隠し村の中央広場、噴水公園にて大勢の魔女と帝国兵がひしめき合って、声を張り上げて『にんげん神経衰弱』を繰り広げていた。
「ファイ・フラグさん、いらっしゃいますかー!?」
「ピートさん、ピート・ノエルさん、どこにー?」
「ジャッコ・マグガイアさんって方はおられますかー、義勇兵のジャッコさーん」
「あ、はいはい! 俺がステイですー!」
「今ラガンって言った人あんたか……え?ラバン? ち、惜しい!」
「ドミリトって認識証に書いてる奴、いねーがぁー」
あれから僕、ステア・リード達810の面々は、魔女の姿になった帝国兵と、帝国兵の姿になった魔女を手分けして、この隠し村まで引っ張って来た。
とりあえずもう戦争はやりようがないんだし、状況を理解してもらうためにも全員を一か所に集めて、まずはお互い入れ代わった相手を見つけて貰ってる最中だ。
幸い帝国兵にはそれぞれ認識証が配布されていて、それを手掛かりにお相手を探して貰って、見つかった人から公園の端に移動してもらってる。。
お互い一万人ずつもいた事もあって、最初しばらくはなかなかペアが見つからずに難儀したけど、見つかり始めると人がはけていくので、よりお相手の発見が容易になっていく。
ちなみに主要メンバーの入れ替わりはこんな感じだった。
皇帝エギア・ガルバンス↔女王リネルト・セリカ
アトン大将軍↔聖母マミー・ドゥルチ
ナギア皇太子↔ラドール夫人(夫婦入れ替わり)
ダリル・ロザリア↔四聖魔女ミール・ロザリア(夫婦入れ替わり)
フォブス大臣(太)↔四聖魔女ルルー・ホワンヌ
ラバン大臣(細)↔四聖魔女レナ・ウィックル
四聖魔女リリアス・メグル(男)↔ハラマ・ロザリア(魔法王国同士)
ガガラ大尉↔ケニュさん(隠し村住民)
ハル・イグイ(技術開発顧問)↔ステイシー・ベル(女王親衛隊リーダー)
イオタ司令官↔リーン部隊リーダー(810同士)
ギア隊長↔ワスト副リーダー(810同士)
縁の深い者同士という事もあって、元々夫婦や恋人同士でこの場に居合わせた人たちは無難にお互いの体を入れ替えたみたいだ。ただこの場にパートナーがいなかったケースでは、夫や妻じゃなくて別の誰かと入れ代わっていた、大臣たちがそのパターンだ。
あとは立場や年齢で近しいお相手が選ばれたらしい。両国のトップやアトン様と聖母様、ハルさんとステイシーさんなんかはその典型例だろう。
全ての入れ替わり相手が判明したのは結局日が暮れてからだった。今日は流石にここまでにして、隠し村の人たちが用意してくれた夕食を各自で頂いて、その公園で野宿してもらっていた。
……普通ならこんな広場で大勢の男女が野宿とかしたら、そこかしこでエッチする輩が出る(特に魔力に当てられた女性側)んだけど、男女入れ替わりの現状、同性に襲いかかる事になるのでそれは避けられたようだ。
ちなみに僕とカリナは、その夜はこっそりとその場を離れて以下省略(笑)。
◇ ◇ ◇
翌朝、僕達810のみんなは、ここにいる帝国兵と魔女のみんなに全てを打ち明けた。
この810では帝国と王国が戦争するフリをして仲良くしている事、離脱した人を戦死扱いにして隠し村に移り住み、それを発展させてきた事。両国の重鎮である聖母マミー・ドゥルチ様やアトン大将軍様を紆余曲折の果てに味方に取り込んだ事。
そして……人類を滅ぼす為に世界に発生した、ナーナと呼ばれる精霊少女の事。
ちなみにナーナ達は今もそこかしこに好き勝手に飛び回っている。どうやら肉体と精神が入れ替わっている者には憑りつけないらしく、今まで帝国兵に憑いてたナーナも入れ替わりと同時に憑依が解けたようだ。
僕はと言うと、最初に僕(体がカリナの時)と旅をした金緑色のナーナ、あの『マスター』が寄って来てはいたけど、憑りつくそぶりは見せなかった。夕べも気を効かせるように僕たちのデートには付いてこなかったし。
「そんなわけですから、みなさん! これからお互いの国に旅行してみてはどうですか?」
「お互いの国の実情を知れば、生活や政治も変わると思うんです。現に僕たちがそうでしたし!」
僕とカリナがみんなに『入れ替わった体で相手国に堂々と潜入ツアー』を提案する。これが上手くいけばきっと両国の関係は変わるだろう。何せ両国トップをはじめ、全国民の8~10%もの人間が相手国へと旅して見聞を広めるのだから。
「むむむ……」
「うう~ん……」
最前列で腕組みして唸っているのはエギア皇帝陛下とリネルト女王(中身は逆)だ。見た目の地味な少女がアグラを掻き腕組みをしている横で、骨太な体格に真紅のマントを纏った中年男性が正座をして縮こまっているのは、なんとも反応に困る絵面だなぁ。
とはいえ元に戻った時の事を考えると、やはりこの二人の判断が鶴の一声になるのは間違いない。現に今も他のみんなは二人の反応を待ってか、誰も意見を発しなかった。
「私は……帝国への旅をするのに異存はありません」
見た目エギア、中身はリネルトがそう発すると、周囲の男達(中身は魔女)が「おおおおお!」と野太い声を発して歓喜する。魔法王国では帝国の男性嫌いなのは若いエリートだけで、大多数を占める庶民魔女は帝国人でもいいから男性と親しくなりたいと思うヒトが大半だからだ。
まぁ、今は自分がその帝国の男性になってるんだけど……聞いた話じゃ夕べも魔女さん達はそこいらで、自分の下半身で楽しんでいたみたいだ、女の人って……。
「フン、気に入らんな。貴様らの思惑に乗る余では無いぞ」
仏頂面でエギア皇帝がそう発するも、見た目が少女なのでいささか威厳に欠ける。というか少女が拗ねているみたいにしか見えないんで、むしろ可愛いんだけど。
もちろん陛下のお言葉はもっともだ。この状況は完全に僕達810勢がコントロールして誘導した結果だ。こちらの手の平に乗せられて踊らされている状況を、仮にも皇帝が受け入れるわけがない。
「状況を利するのも支配者の器ではありませんかな?」
そう窘めたのは聖母マミー・ドゥルチの姿をしたアトン大将軍だ。「む?」と呻く皇帝に対して、アトンさんは他の重鎮に目配せをして続きを促す。
「そうそう、魔法王国に潜入すれば弱点も見えるかもですよ陛下」
「奴らは我らが化けていると知らぬやもしれません。これを利用しない手は無いかと」
見た目四聖魔女の大臣二人が欲深そうな声でそう進言する。実は昨日の内にアトン大将軍に「これから両国は融和に向かうであろう、交易で利を得るなら先手を打って根回しをするチャンスではないかな」と入れ知恵されていたのだ。
「ふむ……敵を知り己を知れば百戦危うからず、か。ナギアよ、お前はどう思う?」
ラドール夫人の体に入ったナギア皇太子は、ふぅ、と息をついてキザなポーズでこう返した。
「父上、もうお気づきのはずですよ。今おっしゃった『敵』が、倒すべき相手なのか、それとも帝国百年の計を持って交流していく相手なのかを」
その第一後継者の言葉に、さすがのエギアも折れざるを得なかった。
「良かろう。今回は貴様らの企みに乗ってやろう! だが貴様らの罪が消えたわけでは無いぞ、この体が元に戻った暁には、必ずや罰が下るであろう、覚悟しておくがよい!」
威厳あるポーズと、可憐な姿と可愛い声でそう告げるエギア皇帝陛下。そのギャップの微笑ましさに周囲の皆が思わずぱちぱちぱち……と笑顔で拍手する。
それを隣で見ていたリネルト・セリカ女王(体は皇帝)が、どこか羨ましそうな笑顔を見せたのが、ちょっと気になった。彼女は機械帝国へのツアーに反対しなかったが、女王として何か思う所があるんだろうか……いやそりゃあるよな、やっぱ。
まぁとにかくこれで方針は決まった。僕達の目論見通り、皇帝陛下以下の帝国兵が魔女の姿を借りて魔法王国に、女王様以下の魔女達が帝国兵の姿を借りて機械帝国へと赴くことが決定したのだ。
その日はツアーに向かう班割りが決められた。何しろお互い一万人もの特殊な事情の人間が帰還するとなれば混乱は避けられない。なので地域や身分別に百人単位での班を作り、それぞれに隠し村の一人(体を入れ代えていない人)が案内人として取り仕切る事となった。
「んじゃステア、お前は女王様のチームの帝国案内頼むぜ」
「カリナ、皇帝陛下たちの王国への同伴お願いね」
「「ちょっとおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
で、僕とカリナは当然のように、国のトップの班の案内人としての役目を押し付けられてしまった……。
「ううう、ここんとこ僕達に負担がかかり過ぎてませんか?」
「何言ってんだよ、お前はつい先日まで魔法王国の女王や四聖魔女と顔見知りだったんだろ?」
「カリナも先日から機械帝国に行って、皇帝陛下や皇太子さんや大臣さんといろいろあったんでしょ? 適任じゃない」
「「うぐぅ~~」」
あっけなく論破された僕とカリナは、カベの隅に向かって嘆きつつ覚悟を決めるしか無かった。よりによって一番意識改革をしなきゃならない人たちの面倒を見る羽目になるなんて……僕ら新兵なんですけど。
「頑張れよ! 世界の運命はお前たちにかかってるぞ!!」
「なぁに、ワシらも出来る限りの助力は惜しまぬよ」
「そうねぇ、帝国へのツアー楽しみだし、色々助けてあげるから」
ギアさん(体はワストさん)が面白がってプレッシャーをかけてくれるのを見て、アトン大将軍と聖母マミー・ドゥルチさん(体は逆)が慰めてくれた。
っていうかお二人は年の頃は似てるけど性格真逆ですよねぇ、ボロを出さずに無事ツアーを終えられるのか……絶対無理だなコレ。
そんなこんなでその日も暮れて行った。明日にはいよいよツアーに出発することになる、急な話ではあるが女王や皇帝が国を留守にする期間は短い方がいいし、どのみちこれだけ大勢が体を入れ替えたまま帰還すればどこからかバレるだろう。なら隠匿するための計画など時間の無駄だという事で、急ぎ足で出発することになった。
◇ ◇ ◇
夜。僕とカリナは昨日に続いて、初めて出会った湖のほとりに来ていた。
「あーあ、せっかく元に戻れたのに、明日からはまた離れ離れ?」
「だねー。なんか大当たりを引いちゃったというか、大外れを引いちゃったというか……」
カリナの嘆きに僕が返す。確かにしんどい役目を引き受ける羽目になっちゃったけど、それもカリナとの出会いから始まった流れなんだし、彼女と出会えなかったよりはずっといい。
「じゃ、今夜は寝かさないから」
「明日からの旅がきつくなっても知らないよ~」
そう言って魔女帽子を取るカリナ。うん、相変わらず神秘的な可愛さがあるなぁ、月光に映える金髪が湖から反射した光に照らされて、キラキラ光を纏っているようにすら見える。
「って、ええええええ?」
そのカリナがいきなりすっとんきょうな声を上げた。ありゃりゃ、美人が一瞬にして変顔になっちゃった……どしたの?
「やほー、すてあにーちゃん、かりなおねーちゃん」
「うわ、ナーナ!」
僕の背後に浮いていたのは、あの金緑色の髪の毛を持つマスターナーナだ。まさか、今さら僕に憑りつく気なのか?
「させないわよ!」
カリナが僕の前に立ちはだかって、その手に
「カリナ……ナーナが、見えるの?」
「え? 当たり前じゃない……って、そういえば私は今普通の女よね」
そう、元々女性にナーナは見えないどころか。存在を認識する事すら出来なかったはずだ。魔法で入れ代わっていた頃の僕やカリナには見えてたけど、今のカリナは体も心も女性のハズ……?
「一度入れ代わって認識したから、見えるのかしら」
「せいかーい!」
カリナの仮定をあっさり認めてぱちぱち拍手するナーナ。その表情はあくまで無邪気で、僕達をどうこうしようという気配じゃ無かった。
「どうしたの? 僕達に何か用かな」
魔法を灯したカリナを制して一歩前に出、なるべく柔らかくそう問いかける。
それに応えてナーナは、僕達に話を始めた。
世界の理ともいえる、大切な話を。
「あのねあのね、ふたりに、きいてほしいことがあるの」
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