第43話 再会
戦場と化したエリア810の上空、機械帝国側の勝利を決定づけようとしていたナギア皇太子の駆る『ブルーシャーク・ナギア号』に向けて、まるで光の矢のように突っ込んでいく一人の魔女!
「アハハハハハハハッ、帝国のオトコ、死ね死ね死ね死ねえぇぇぇっ!! って、うひゃあぁぁぁぁあっ!?」
どぎゅうぅぅぅ……ん
あわや体当たりかと言う所、すんでの所で激突せずに交錯した飛翔機械と魔女のホウキ。
「な、なんだ……アイツは!?」
「なんて速さなんでしょう……あ、でも制御できてない、わね」
ナギア皇太子と機械の中にいるラドール夫人が、すれ違ってからすっ飛んで行ったその魔女を目で追う。
どうやらあの魔女、飛びながら片手で攻撃魔法を灯そうとしてホウキに置いていかれそうになったらしい。たまらず両手で握り直すも、そのまま暴走するホウキに引き回されている状態だ。
「ハラマさん! 待って、一度戻りなさーいっ!」
後から追いかけて来た金髪の魔女がそう声を飛ばす。弧を描く暴走魔女の行く先に先回りして合流せんとしている。
「あなた……あの速い魔女は危険よ。みんなのためにも先に倒しましょう」
「う、うむ。君の飛行能力より凄まじい、要注意の相手だ!」
夫人のアドバイスに皇太子が応える、彼らのこの戦闘での目的は華々しい
ナギアは自らのベルトに機械のフックを固定し、肩にかけていたライフルを構え直してさっきの魔女に向き直る。もうひとりの魔女となんとか合流したようで、今は動きを止めている、チャンスだ!
「ステア君、きみは下がって仲間に合流したまえ! 私は、あの魔女を仕留める!」
『へりこぷたぁ』で浮かんでいる帝国兵にそう告げる。動き回れる自分はともかく、浮いているだけの彼は魔女の格好の的だ。あの神速の魔女に目を付けられたら確実に撃墜させられるだろう。
真に慕われる皇族を目指すなら、例え兵士でも無駄に死なせるわけにはいかない。ましてここまで旅のお供を務めた者なればなおさらだ。
「ナギア皇太子! いけません、深入りしてはっ!」
敵に向けて飛び出した私に向かってステア一等兵が叫ぶ。
ふん、私とてお客様としてこの戦場にいるつもりはない、せめてあの暴走魔女と、その隣の金髪魔女くらいは仕留めて見せる!
だから、その後彼が叫んだ言葉は、耳に入らなかった。
――ステアくーん! 逃げてえぇぇぇぇーっ!!――
◇ ◇ ◇
「ちぃっ、外しましたわ……私としたことが!」
私ハラマ・ロザリアは、何とか先輩のカリナさんに受け止めて貰って体勢を立て直し、やっとホウキに座り直す事が出来た。とりあえず目立っている乗り物に乗って空を飛ぶ帝国兵に攻撃魔法をぶっ放そうとして、飛翔魔法をかけているホウキに置いていかれそうになってしまった。
「戦闘に参加してはダメよ! あなたはあくまで研修生なのだから!!」
先輩のカリナさんが私の両肩を掴んで大声で言って来る。まぁ言いたいことは分かりますわ、私たちがこのエリア810に到着した時、戦いの真っ最中でしたもの。新米以下の私が戦いに参加するのは止められるでしょうね。
「でも、戦争なのでしょう? 私だけが黙って見てるわけにはいきませんわ!」
決意の目でカリナさんに返す。そう、もしこの戦闘で魔女側が敗れれば私達も無事にはすまない、それどころか魔法王国本土へ帝国兵が攻めてくることも、この魔力の源泉810を封印されて、魔女がただの女性になってしまう危険もあるのだ。
「足手まといだ!」
「だったら見捨てて頂いて構いませんわ!」
押し問答をしていた時だった。下から「ステ……カリナー! 来てる!!」との叫び声が飛んできた。横に目をやると、さっきの帝国兵の乗る鉄の丸太がこっちに向かって突っ込んで来ていた。
ドン、ドン、ドンッ!
帝国兵の持つ『銃』とかいう筒から放たれたつぶてが私の、そしてカリナ先輩の服やホウキをかすめて行く。これは……当たるとヤバいですわね!
そしてその機械は弧を描いて上昇し、私たちの遥か上に舞い上がっていく。帝国兵は空を飛べないって聞いてたけど、なかなかやるではないですか!
「あれは、まさか……ナギア皇太子!?」
カリナさんが上を見上げてそうこぼす。こうたいし? ってそれ、王国で言う『王子様』に当たる人、なのでは? なんでそんな人物が最前線に? そもそもなんでカリナさんがそんな人物を知ってるんですの?
「いやいやいや、そんなことはどーでもいーですわねぇ」
笑みがこぼれる。上にいる皇太子さまとやらを睨み上げて歓喜が漏れる……アレを仕留めれば、大手柄じゃありませんか!
「そのままそこに居なさいよおぉぉ! 空気魔法、
今度は落ちないようにフトモモでしっかりとホウキを挟み、両手に生活魔法の一つである真空のハサミを生み出す。普通の魔女は手のひらサイズのハサミしか生み出せないけど、私は両手で柄を持つ長さ5mほどの大ばさみを生み出す事が出来る、これで奴を真っ二つにして差し上げますわ!
「ダメって言ってるだろう! さっさと降りないか!!」
カリナ先輩が私を後ろから羽交い絞めにする。なんで? センパイがさっきから頑なに私を戦わせまいとしてるのは。
あと、なんか口調がヘンっていうか、妙にらしくない怒鳴り方をされてる。これじゃまるで……男?
「なんか降って来た、逃げろ!」
そのカリナ先輩がそう言って私を突き飛ばす。空中で左右に別れた私たちの間を、何か小さなものが落っこちてきて……
ドガァン! バン、パンバンッ!!
「きゃっ!」
「爆弾かっ!」
あの上にいる帝国兵が、なんか爆発する武器を落っことしたのね! ほうらやっぱり、あいつを倒さないと!
「きえぇぇぇぇぇぇいっ!」
ぎゅん、と風を切って奴の上を取る。あとはこのまま敵の横っ腹に突っ込んで、このチョッキンナであの機械を真っ二つにすれば、皇太子とやらは転落して死ぬ!
魔女の領域である空に、飛べもしないのに踏み込んだ愚かさを教えてあげますわよ!
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
弧を描いて敵に突っ込んでいく。巨大な真空ハサミを前に掲げ、あいつを真っ二つにして差し上げますわ!
◇ ◇ ◇
「
ブルーシャーク号の小窓から外を覗いていたラドールが、その魔女の使う武器を見て仰天する。本来は裁縫程度にしか使えない真空のハサミを、まるで家ごとぶった切るかのようなサイズにまで巨大化させて襲って来る。あんなのを食らったら、私は飛翔機械ごと真っ二つになっちゃう!
「飛び道具ではないのだな!」
「え、うん。見た目通りのハサミよ」
ナギアの言葉にラドールが返答すると、彼は腰のポケットから大きな弾丸を取り出し、自分の銃に装填する。
「ならば引きつけて撃つ! ラドール、機体を安定させてくれ!」
ああん、もう。夜はあんなに私にメロメロなのに、任務の時は本当にかっこいいんだからこのヒトは。
「分かりました……お望みのままに」
弧を描いて向かってくる魔女に照準を合わせるナギア。この大型徹甲弾を受ければいかに高速で向かってくる相手であろうと押しとどめて粉砕することが可能だ。直前で躱されない限りは、あの大仰なハサミの刃が我に届くことはありえない!
魔女は真一文字に突っ込んで来る、もうここから進路変更はあり得ない。そして銃の照準は確実に敵を捕らえている……あとは、引き金を引くだけだ!
◇ ◇ ◇
「撃たせませんわよおぉぉぉ!」
「
ズドオォォォン!
ナギアの指が引き金を引く。強固な威力を持つ徹甲弾が撃ち出される、その威力は魔女の強化服はもちろんのこと、
「ナギア様ーーーっ!」
その銃弾の前に、ステア・リード(中身は
「
ハラマの掲げる刃の前に飛び込んだ魔女、カリナ・ミタルパ(中身は
ズガアァァァン!
みちみちみちぃっ!
『へりこぷたぁ』が銃弾を受けて爆発し、蔦人形がハサミをがんじがらめにして無効化する。
そして、その機械とホウキを操っていた兵士と魔女が、空中でお互いを見て歓喜の声を上げた。
「カリナっ!!」
「ステア、無事?」
飛翔機械を弾丸で粉砕され、ホウキをゴレムに変えて、飛ぶ術を無くした二人が空中に投げ出される。
両者の攻撃の間に割って入ったふたりは空中で体当たりし、そのまま抱き合う形で、逆さまに地面へと落下していく。
「大丈夫だ。キミは? ケガとかしてない?」
「うん……やっと会えたね、あいたかったー」
地面に激突するまでの数秒間、ふたりはお互いの体を入れ替えた状態のまま、愛しの人と抱き合っていた。
「……なっ!?」
「どういう、こと?」
ナギア皇太子が、魔女ハラマが、落ちて行く仲間のはずの人物が、敵と抱き合って、嬉しそうに落ちて行く姿を見て、同時に疑問の言葉を発する。
そしていつの間にか、完全に止まっている戦争の気配に、静寂に包まれる世界の中、自分達だけが何かに気付いていないような違和感を感じて……
呆然と、固まっていた。
そんな二人(機械の中のラドール込みで三人)の少し上空で、ひとりの幼い少女、魔力の名前を持つ女性には見えないナーナが、くすくす笑いながら浮かんでいた。
(あのひと、いーな)
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