第42話 運命の戦闘、開始
「ナギア皇太子閣下、およびラドール皇太子夫人に、敬礼ッ!」
イオタ部隊長の号令の元、エリア810に詰めている帝国兵全員が一糸乱れぬ敬礼をする。
地獄の最前線であるここに機械帝国の次期皇帝陛下たるナギアが送り込まれたとなれば、さすがに部隊を上げて歓迎の意を示さなければならない。今までのどんな大物ゲストや視察員よりも重要な人物なのだから。
「全員、直りたまえ。歓迎は嬉しく思うがここは戦場、いつ恐るべき魔女の襲来があるやも分からぬのだろう。くれぐれも油断なきように、万全にな」
ナギアさんも礼に叶った返答をする。なるほど、確かに次期皇帝第一候補として、下の者に好まれる対応を知っているなぁ。
皇太子の挨拶の後、私、カリナ・ミタルパ(体は
「ステア・リード一等兵、只今帰還いたしました!」
「うむ、兵器の報告、並びに皇太子夫妻の護衛の任、ご苦労であった」
本当なら、さっさとステア君と合流して体を元に戻してもらい、その後で魔女のみんなに私が見て来た機械帝国の姿を伝えたいんだけど……さすがにそれはかなり後回しになりそうだ。ステア君(体は
その後、帝国から持ち込んだ飛翔機械のお疲労目となった。まずあのギャラン君たちが作った『へりこぷたぁ』という機械で私が空を飛んでみせると、兵士の皆さんは目を丸くして驚き、その後拍手喝采を浴びせてくれた。
「飛行音が大きいのがネックだが……少なくとも斥候や戦闘中の視認には十分使えるな」
「魔女と空中戦をするには辛いか。だがこれから改良を加えて行けば……」
みんなが私の元に集まって、この『へりこぷたぁ』を興味深そうに吟味する。へっへーん、どうよギャラン君の傑作、凄いでしょ。
と言ってもこの状況、実は私はオトリで、皆の注目を浴びているスキにラドールさんがナギアさんの『ブルーシャーク・ナギア号』に潜り込んで次の飛翔の準備を済ませていたりする。
これは二人と事前に打ち合わせ済みの行動。810の実情を知らない二人は帝国本国と同様、ここの皆が魔女や魔法を毛嫌いしていると思ってるので、ナギアさんの機械もあくまで普通の機械の力と思わせる為の小細工だった。
……ま、まぁそれも私の事前通達で全部バレてるんだけどね。うーん、化かしあいだなぁ。
キュイィィィィ……ン!
「おお、すっげぇ!」
「なんという飛行能力、さすがはナギア皇太子だ!」
お疲労目を済ませたブルーシャーク・ナギア号が戻って来ると、みんなうまく笑顔や歓喜の表情を作ってナギアさんを褒め称えている。ちなみに着陸寸前に木の影に飛び降りて、しばらくしてから長めのトイレのフリして戻って来たラドールさんは皆でスルーすることにしている……彼女にしたら騙してるつもりが、全部ネタバレしててあえてスルーされていると思うとなんか悪い気がするなぁ、ご苦労様ですお二方。
◇ ◇ ◇
野営地のテントに戻って、次回の作戦の打ち合わせに入る。今回の帝国側の目的はナギア皇太子に大活躍してもらって彼の英雄譚を作り上げ、次期皇帝としての基盤をしっかりと固めて貰うための、いわば宣伝のための戦闘になる。
でも実はこの会議、そこかしこに仕掛けた通信魔法で魔女側に筒抜けなんだよなぁ。向こうの魔女サイドでは、ナギアさんの飛翔機械を打ち負かして、しばらく空を飛ぶ機械の開発を遅らせようということになってるみたい。なんでも空を飛んで大勢を運ぶ技術までできちゃうと、このエリア810をスルーして直接魔法王国へ進軍される危険があるからだとか、うーん確かにそうね。
なのでいかにも有効な作戦をこちらで立てて、それを向こうの魔女側に筒抜けにして対策を立てて貰うのだ。実際、立案された作戦は、もしここでガチの戦闘が行われているんだとしたら、大勢の魔女が犠牲になるほど有効な物だった。
……そんで、私がまた重要な役目を請け負う羽目になっちゃってるんですけどー。
向こうのステア君、もう帰ってるとしたらやっぱ今回も大変な役目を請け負っちゃってるんじゃないのかなぁ。
◇ ◇ ◇
「
ドン、ドン、ドンッ!
イオタ司令官の号令の元、
ここ、エリア810の戦闘において、機械帝国側から戦いを仕掛ける場合は大抵がこの方法を取る。魔女たちの本拠地は移動する館なので、見つけ出して攻撃を仕掛けるのが困難なのだ。反面、この
それも全部、シナリオの内なんだけどね……。
「ステア・リード一等兵、発進しますっ!」
私はそう叫んで『へりこぷたぁ』に腰かけ、エンジンを全開にして空に舞い上がっていく。私の役目はいわば見張り台、どの方向から
ビイィィィィ……とプロペラ音を響かせ、上空まで舞い上がっていく私。周囲を見回し、やがてある一点から空に上がって来る魔女たちの姿を見止める。
「発見! 南西の方角、魔女飛行部隊! 数、およそ40!」
拡声器を使ってそう叫んだあと、私はすぐにアクセルレバーをゆるめて地面に戻っていく。ただ単に浮くだけのこの機械じゃ、魔女たちに追いつかれたらひとたまりもない。攻撃を受けて落下するだけで帝国兵には致命傷になるだろうから……やんないけどね。
で、降りた所にはナギア皇太子と彼の駆る『ブルーシャーク・ナギア号』が待機している。ふたつの飛翔機械をフックで繋げOKのサインを出すと、ナギアさんが「ラドール、行こう!」と声をかけ、答えて彼女の乗るブルーシャーク号が発進し、森の中を猛スピードで低空飛行していく……私とへりこぷたぁをけん引したまま。
「ここだな、第二ポイント」
「はいっ! 行きます!!」
ある程度森を駆け抜け、予定していた場所に到着した私は、再びへりこぷたぁで空高く舞い上がる。さっきまで私たちがいた場所には
そう、このへりこぷたぁじゃ、どうやったて魔女には敵わない。飛んでたら的になるだけだし、降りても飛んできた魔女たちに囲まれておしまいである。
だけど降りた後、高速でその場を離れることが出来るとしたら話は別だ。ちょうど鳥の
これぞ、『ひばり大作戦』。飛翔機械がへりこぷたぁだけであると思わせて、次々に位置を変えることで相手をかく乱する。上手くいけばこのへりこぷたぁが何機もあるように思わせる事も出来るのだ!
……まぁ、魔女の皆も知ってて、手玉に取られてるフリしてるんだけどねー。
戦いはおおむねシナリオ通りに推移している。私が次々と違う場所から現れ、拡声器で魔女の位置を伝えて、帝国兵が地上から狙撃する。
空を自在に移動する魔女のアドバンテージは私の指示によって完全に効果を失い、魔女たちは私を躍起になって追いかけては逃げられ、森の中から姿の見えない帝国兵の砲撃を受けて、完全に翻弄されていた。
「いい感じね」
何度目かの移動の後、ラドールさんがブルーシャーク号から顔だけ出してそう話す。彼女も元々は魔法王国の魔女なんだけど、かつての仲間が次々に撃ち落されていく(フリをしている)様子を見て動揺したりしないのかな……まぁ彼女はまだガチの戦闘だと思ってるんだし、しょうがないんだけど。
「そろそろ、だな!」
「了解、作戦を最終段階に移行します!」
ナギア皇太子の声に応えて、私は無線で本部に報告する。すっかり弱って数の減った魔女たちを、いよいよナギア皇太子が駆るブルーシャーク・ナギア号が蹴散らしにかかるのだ。
まず私が斥候として先に空に舞い上がる。周囲に魔女が居ないのを確認してから、下にいるナギアさん達にGOサインを出すと、いよいよブルーシャーク号がその機体を天高く浮き上がらせ、魔女たちにその姿を晒す。
キイィィィィィィィン――
金属音(ダミー)を響かせて、流線型の飛翔機械が空高く舞い上がる。私や魔女たちと同じ高度まで達したそれが、まるで弾き出されるように魔女たちの元へと突進していく。
ばひゅうぅん!
「きゃあーっ、ななにあれ! 速いっ!」
「ま、魔法を当てて!」
「速過ぎて当たらないわよ、あんなの!」
「ひいぃぃぃ、こっちくんなあぁぁぁぁ!」
空を疾走する青い魚の機械に、文字通り蜘蛛の子を蹴散らされるように追い立てられていく魔女たち。
うんうん、みんな名演技だなぁ。さ、後は仕上げだけ……
「え?」
魔女たちの主部隊とは別の方角から、二人のホウキに乗った魔女たちが、ナギアさん達に狙いを付けて突っ込んでいく。え? ちょっと、それ聞いてないんだけど。
って、アレは!
「ステア君っ!」
そう、二人の魔女の内、一人は他ならぬ私、つまり私と心を入れ替えたステア君だ。
彼(体は
そしてその若い魔女が、ブルーシャーク・ナギア号に真一文字に向かいながら……狂気の笑みを浮かべながら、こう叫んだ。
「アハハハハハハハッ! 死ぬがいいですわ機械帝国兵!! お前たちにとっての悪夢、ハラマ・ロザリアここにあり、ですわあぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
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